発情期だ、と言われた。
体の奥底が妙に疼くと思っていた。
「お前、それ、発情期だろ。何百年も生きてるくせに、知らなかったのか?」
馬鹿にした調子で言われたものだから、頭に血が昇る。
「し、知っている!当たり前じゃないか!」
本当は、知らなかったのだけれど。
そうか、発情期か。アンデッドにも、発情期があるのか。でも、どうしたらよいのだろう。どうすれば、この熱は冷めてくれるのだろう。
書庫で調べてこようとした私の腕を、カイナッツォがむんずと掴んだ。
「……どこへ行くつもりだ」
「ど、どこでもいいだろう。私の勝手だ」
男の手は、冷たく滑っていた。真剣な眼差しにどきりとする。いやいや、騙されては駄目だ。この男は、信頼するに値しない。
この前は、服を破かれた。昨日は自室に閉じ込められた。
全く、やることがまるで子どもだ。
「発情期ってのは、相手がいないとおさまらねえわけだが……お前、相手はいんのか」
ゆるゆると首を横に振った。そして、恨みを込めて相手を睨む。いないことを分かっていて、カイナッツォは訊くのだ。
私を、辱めるためだけに。
「いねえよな。アンデッドに惚れる奴なんて、そうそういるはずがねえ。しかも、お前は“骨だけのやつ”にもなりきれない半端者ときてる」
「……放せ」
クカカカッという笑い声が、廊下に響く。
「俺でよければ、相手してやろうか」
「放せと言っているっ!!」
瞬間、私の手の爪が、鋭く伸びた。振り上げ、振り下ろす。カイナッツォが小さく呻いた。
頬に、爪痕ができている。青い血が滴り落ちた。
「……やるじゃねえか」
ホールド、とカイナッツォが呟く。にたり、笑いながら、手を伸ばしてきた。
「俺のものになれ、スカルミリョーネ」
こんなのは嘘だ、嘘だ。
カイナッツォとはまだ七十年くらいの付き合いだけれど、それでも、小さな悪戯以外はしないと信じていたのに。
怯えている私を嘲笑うかのように、手酷く脚を開かれた。
「……や、やめ……ろ……」
「……へえ。結構きつめにホールドをかけたつもりだったけど、喋れるのか。ま、お前も一応四天王だもんなあ。それくらいできなきゃ困るよなあ」
「ひ……っ!」
「下着、履いてねえのか?服は着てるってのに。……俺からすれば、好都合だがな」
太いものが、私の脚に当たっている。逃れようとするのだが、体はぴくりとも動かなかった。
必死で息を詰める。私には受け入れる器官もないのに、どうするつもりなのか。
「あんま怯えんな。興奮するだろ」
瞬間、信じられない場所に、カイナッツォが入り込んできた。
「ひああぁっ、あ……っ!!」
「すげえ……柔らけえ」
「ぬ、いて……くれ……っ」
「……馬鹿言うなよ」
こんな場所にこんなものを入れられるだなんて、思ってもみなかった。
アンデッド故に痛みは感じないけれど、あまりの圧迫感に、目蓋の裏がちかちかする。
苦しくて苦しくて、首を横に振りながら息を吸う。水音が結合部から響き、恥ずかしくてどうしようもなかった。
けれど、痛みだけなのか苦しいだけなのかと問われれば、そうではない。
「痛いだけか?スカルミリョーネ」
腹の奥に、どろどろとした熱が凝り始める。
私の中を抉りながら、彼は笑った。
「勃ってるぞ」
「ひ、あ、あっ、あっ、ああぁっ!」
首を横に振るけれど、体の熱はどうにもならない。モンスターとしての本能が、カイナッツォを欲しがってしまう。
ホールドの効果が切れ始め、指先を伸ばし、頬の掻き傷に触れた。カイナッツォが震える。怯えるような目をしていた。
「カイナッ、ツ、ォ……?」
「……相手が俺でなくても、そんな顔をするんだろ?快楽を追えれば、それでいいんだろ?」
「な、に……言って……あぁっ!!」
強く抱きしめられる。深く押し入られ、胸元に縋りついた。
カイナッツォは、何を言っているのだろう。
激しすぎる快楽に、何も考えられなくなってしまう。
「誰にも、渡さねえ。お前は俺のものだ」
馬鹿なことを言う奴だ。私を欲しがる者なんて、どこにもいやしないのに。
思いながら、深い快楽の中へと堕ちていった。
腹に力を入れれば、粘着質な白濁が腿を伝って流れていく。
決まりの悪そうな顔をして、「悪かったな」と彼は苦笑いをした。
「何十年も我慢してたってのによ、お前が発情したって聞いたら、我慢できなくなっちまった」
私を抱きしめて、
「……お前が他の奴とヤるかと思うと、もう我慢できなくて」
「お、お前は、さっきから何を言っているんだ」
「へ?だから、お前が発情して見境がなくなったら、他の奴とヤるかもしれないだろ?俺は、それが嫌だったんだよ」
驚いた。と同時に呆れた。
私が、愛情も何もない誰かを抱く?誰かに抱かれる?そんなこと、あるわけがない。
万一そんな事態に陥りそうになった場合は、全力で抵抗してやる。
そうだ、そう、全力で――――。
「……あ……」
「んん?どうした?」
何故、私は全力で抵抗しなかったのだろう。魔法を使うこともできる。抵抗しようと思えばできたはずだ。
けれど、私はしなかった。
何故だ。
目の前の男を見上げた。
狡賢いリザードマン。人を欺くことしか考えていない男。
『お前は俺のものだ』
カイナッツォの言葉が、不意に脳裏を過ぎる。
心臓が喧しく鳴り出し、息が苦しくなった。
ああ、そうか、私はこの男のことを。
「おい、スカルミリョーネ。もう一回いいか?」
耳元で囁かれる言葉に抵抗することは、もうできなかった。
End