隣に眠っている男を、まじまじと見つめてみる。
 髪の毛は金髪で、睫毛も金髪で、眉毛も金髪だ。
 目蓋の裏にある血管が、薄く薄く、青白く浮いている。
 窓から吹き込む優しい風が、カインの髪をそっと揺らしていた。
(それにしても、しっろいなあ)
 身を起こしてのびをして、それからまたカインを見つめる。
 胎児のように身を丸めてシーツに包まっているカインを、エッジは飽くことなく見つめ続けていた。
(…………白いなあ)
 昨晩も、白いなあ、と思った。暗闇の中で、白い裸体が浮いていた。
「おめぇって白いのな」と言えば、「日焼けしない性質なんだ」と返ってきた。「ムードとか、そういうものを考えたことはないのか」と笑われた。
(だってよ、だって……何か言わねえとと思って)
 何か話していないと、飲み込まれてしまいそうだった。飛びついて、いきなり突っ込んでもおかしくないくらい、頭がぐちゃぐちゃだった。
 そもそも、この想いが成就する日が来るなんて、思ってもいなかったのだから。

 昨夜。
 セシル達が寝静まっている隙に、エッジはカインを外に連れ出し、自らの想いを告白した。
 エッジが「おめぇのことが好きだ」と言うと、カインは驚いた顔をしていたが、しばらくの沈黙の後、「俺もだ」と頷いたのだった。
 奇跡が起こったのだ、とエッジは思った。
 気付いた時には宿をもう一部屋とっていて、カインの体を抱きしめていた。

 カインが抵抗しなかったから、組み敷いて抱いてしまったけれど。
(本当に、よかったんだろうか)
 朝日が顔を出す頃になって、急に不安になってきた。
「…………ん……」
 身を捩って、カインが薄らと目を開いた。
 青い瞳が彷徨い、何かを探している。ぼんやりとした瞳とかち合った瞬間、エッジの胸は激しく脈打った。
「……起きていたのか」
 気だるげに髪を掻き上げながら、カインが微笑む。
 それは苦笑でもなければ作り笑いでもない、本当に嬉しそうな笑みだった。
 吸い込まれるように、エッジはカインの唇を柔らかく食んだ。合わせるだけの口づけをし、金の髪を梳く。
 唇に笑みを残したまま、カインはエッジに身を任せていた。
「……よかったのか?その…………こんなことになって」
 どういう風に言っていいのか分からず、エッジは消え入りそうな声で問うた。
 カインが起き上がる。シーツを背中を覆うようにして肩にひっかけてから、窓の方に向かった。
 窓の外に顔を出して、
「少し、寒いな」
 空を見上げた。
 背を向けられては、表情が見えない。
 毛布を持って、背後から近づいた。頭に毛布をかけて、全身を覆ってやる。そのまま、背中に抱きついた。
 ふかふかした感触の中に、骨ばった細い体躯がある。
 エッジの手に指を這わせて、カインは小さく呟いた。
「……お前が俺のことを好きだと言ってくれて……嬉しかった」
「本当か……?」
「ああ。俺はもう、誰かに好かれることも誰かを好きになることもないと思っていたからな」
 エッジは言葉を失い、抱きしめる腕に力をこめた。
「真っ直ぐなお前を好きになって、それでも、この想いが届く日は絶対に来ないと思い続けていた。だから……」
 何か気の利いた言葉をかけてやりたいと思うのに、何一つ、零れてこない。
 自分の中に溢れている言葉は、たった一つだけだ。
「…………カイン、好きだ」
「ああ」
「好きだ」
「……ああ」
「好きだ、好きだ、好きだ!」
「俺も、お前のそういう馬鹿なところが好きだ」
 毛布を剥いで、カインの髪を掻き分け、うなじに口づけを落とす。
 カインのうなじは真っ赤に染まっていて、彼の毒を含んだ言葉とは正反対のその反応に、エッジは思わず笑った。




End


Story

エジカイ