あまりにも悲しい瞳をしていたから、何も言えなかった。
服を破り、貫かれるだけの行為。それでも、拒むことはできなかった。
俺と同じ、絶望に満ちたこの人の眼差しが、俺の心を狂わせるんだ。
「何も言うな、喋るな」
と貴方は言う。
だから、俺は凶器に犯されながら、必死で喘ぎを堪えようとする。
ぎい、ぎい、とベッドが鳴る。悲鳴をあげて、煩く軋む。彼の背に手を回す。その背が汗ばんでいることに、安堵する。
この人は、俺と同じ人間なのだ。血の通う生き物なのだ。
黒い甲冑に覆われている時は分からない、本当の彼の姿。
この人の表情を見ていると、何故だろう、涙が溢れてくる。
ゴルベーザ様の背から手を離し、両手を口に当て、嗚咽が零れないように蓋をする。
ゴルベーザ様は、そんな俺を見て更に悲痛な顔をする。
温かいものが俺の中に流れ込んできて強く目蓋を閉じると、彼は優しい手つきで俺の涙を拭った。それに驚いて、目蓋を開く。
荒い息と、苦しげな笑み。俺の涙は止まらない。
「……何故、泣いている」
手首を押さえつけられた。もう、口を蓋するものはない。
「あっ……あぁっ……!」
ずるり、ゴルベーザ様が中から退き、喘ぎを漏らす。顎を摘まれて、歯を食いしばった。
以前声を漏らした時は、頬を張られた。手を上げたのはゴルベーザ様の方だというのに、彼の方が痛そうな顔をしていた。
けれど、降ってきたのは手のひらではなくて口づけだった。
「……ゴルベーザ……様……」
頬を撫でられ、次に額を合わせられる。
「何故泣いている、と訊いている」
吐息が触れ合い、胸が高鳴る。
薄紫色の瞳は、悲しいほどに鮮やかだった。
――貴方が、あまりにも悲しげな瞳をしていたから。
そんなこと、言えるはずがない。
美しい瞳から目を逸らし、「体が辛かったのです」と口にする。
それを聞いたゴルベーザ様は、唇の端に皮肉った笑みを浮かべた。
俺の体をうつ伏せにし、獣の体勢をとらせる。
「体が?」
「は、はい……」
「…………こんなに解れているのに、か?」
「ひ……っ!」
先程まで貫かれていた場所に指を突き立て、
「お前のここは、まるで性器のようになっているのに」
ペニスをあてがわれる感触がしたと思えば、
「そうだろう?カイン」
指を挿れたまま一気に貫かれた。
「いやだ、ああ、あっ、あ……っ」
“性器のようになっている”。その言葉に、全身が粟立つ。
夜毎、自分の体がおかしくなっていっていることには気づいていたから、何も言えなかった。
荒々しく揺す振られる。
「ゴル……ベーザ、様っ、あ、ああぁっ!」
「……私のものを飲み込んで、その上親指も二本飲み込んでいる……、そんなに腹が減っていたのか?」
激しい抽迭に視界がぶれる。下半身が痺れるように熱くて、息もつけぬほど抉られて。
真っ白になった頭の中に、一瞬、何かが閃く。
セシル、ローザ、そして陛下やシド。思い出さなければならない大切な何か達が現れ、雷光のように一瞬で消えていく。
ぱちん、ぱちん、と音がしそうなほどのはやさで、しゃぼん玉のように壊れてしまう。
「……も、もうっ……出ます……あ、あぁ、あああぁっ」
俺は精液を放ったが、ゴルベーザ様は達することなく、中を貫き続けていた。
●
私の体を跨ぎ、カインは睫毛を震わせた。
「もっと大きく足を開いて挿れろ」と言えば、小さく、「はい」と従順な言葉が返ってくる。
私の命令通りに足を開くと、ぼたぼた、と彼の中から白濁の液体が零れ落ちた。それは私の腹の上に落ち、彼の秘部から糸を引いて滴った。
淫媚な光景を見上げる。
片方の手を私の腹に、そしてもう片方の手を私のペニスに添え、ゆっくりと腰を落としていく。
ひくひくと内壁が蠢き、全てを飲み込んでいった。
「は……っ、はあ……、あぁ……」
「…………すべて丸見えだぞ、カイン」
カインのペニスが蜜を垂らしている様も、乳首が尖っている様も、何もかも丸見えだ。
「あま、り……見ないでください。お願いします……」
俯き加減に言う彼に煽られ、堪らず腰を突き上げる。
無意識なのだろう、カインは腰を揺らめかせながら私の名を呼び続けた。
金の髪が揺れる。長い髪は彼の額にはりつき、汗と混ざり合ってぐちゃぐちゃになっていた。
彼の乱れた髪と同じように、私の頭の中もぐちゃぐちゃになっていく。
カインをどういう風に扱えばいいのか、自分でも分からない。
欲しくなるから抱いて、喉が渇くから彼の唾液を飲んで、それでも飢えを凌ぐことはできなくて、結局酷い扱いで犯してしまう。
いつか「お前のことが嫌いだ」と言われるのではないかと、彼の口を塞いでしまう。
それだけでは飽き足らず、私は、彼が私以外の何かを想う度に、彼の頭の中に侵入して彼の思考を握り潰している。
ぱちん、ぱちん。
思考の壊れる音がする。
窓の外が白んできた。
一晩中貪り喰っているというのに、それでも満腹になることはない。
掠れた喘ぎ声と涙を零す男を、私は求め続ける。
満たされる日が来ないことは、分かっているのに。
「……ひ……っ、うぅ、あっ、あ、あ、あっ」
両膝の裏に手を入れて、膝がシーツにつくほど、彼の体を折り曲げた。あわ立った白濁が、カインの中から溢れてくる。背中を伝い、シーツを汚した。
自らのペニスの先でカインの秘部にあるしこりを突けば、彼は身も世もなく乱れ始めた。
「ひあっ、あっ!!や……っ、ああぁ、だめ、です、だめ」
舌っ足らずに言う度に、赤い舌先がちろちろと覗く。
滴る唾液、申し訳程度に引っかかっている白いシャツ、朝日を吸い込む濡れた青い瞳、それから――――絶望に満ちた脳内。
それらは私の中に在る暗い欲望を引っ掻き、刺激する。刺激された私は、カインを欲望で穢していく。
涙を流している彼の心を、薄汚れた指先で黒く黒く塗り潰して追い詰める。
私以外のものを考えられないようにしてやりたい。
青い瞳に映るのは、私だけでいい。
「う、あぁ、あっ……んんん……っ!!」
青い瞳が、悲しげに細められる。首を仰け反らせながら、彼は精を放った。
反った白い首筋に齧りつきながら、私も中に注ぎ込む。
「……ゴルベーザ、さま…………っ」
彼の指先が、私の髪を弄った。口腔に血の味が充満し、錆のにおいが鼻をつく。
ぱちん、ぱちん。
何かが少しずつ弾けて壊れていくのを感じ、髪を梳く長い指に全てを委ねた。
End