悲しいほど鮮やかな光だ。
それを背に、彼は微笑んでいる。
クリスタルが放つ、美しい光。眩しくて堪らなくて、彼の表情の細部が見えない。
「……この星に住む人間を一掃することが、私の望みだ。それは、今も昔も変わることはない」
全てのクリスタルが、ゴルベーザの背後で輝いている。俺が彼に手渡した、闇のクリスタルもそこにあった。
それは、青き星の終わりが近いことを俺に教えていた。
「……なのに何故、私はお前を殺せない?」
「…………ゴルベーザ……」
ゴルベーザが歩み寄ってくる。
「何度も何度も、お前を殺そうとした。こうやって――」
闇で湿ったゴルベーザの指が、俺の首に絡みついた。力が籠められ、喉が空気の入り口を失う。
苦しい、苦しくてたまらない。
けれど、俺は避けなかった。ただただ、霞んでいく視界にいる彼を見ていた。
突然、喉を解放される。俺は倒れ、地面に突っ伏した。
転がった槍と兜の向こうに、ゴルベーザの足が見えた。
俺は、ゴルベーザが俺を殺そうとしていたことを知っていた。ゴルベーザと夜を共にした後は必ずといっていいほど、首に指の痕がついていたからだ。
気が付かない方がおかしいそれを、ゴルベーザは消そうともしなかった。
そうだ。セックスの最中に、首を絞められたこともあった。
髪を掴まれた。呻き声をあげる俺を無視して、ゴルベーザは俺の頭を引き上げ、
「お前を、殺さなければならないのに」
泣き笑いのような表情を浮かべた。
痺れる指先を、ゴルベーザの肩に伸ばす。頬を張られた。血の味が口内に拡がる。男の頭を抱き寄せて、無理矢理に口づけた。
「……っ」
舌を噛まれ、血の味が濃くなる。獣のにおいがした。唇を舐めて、ゴルベーザの瞳を覗き込む。
「……でも、お前は俺を殺さなかった。何度殺そうと試みても、殺せなかった」
薄紫の瞳が、揺れる。
「殺そうと思えば、いつでも殺すことができたのに。……だって、俺は、ただの操り人形だったから」
「……カイン」
「そうだろう?俺はお前の人形だった。使いたい時に使いたいだけ使い、いらなくなったら棄てる……それだけの存在だったはずだ」
「……そう……だな……」
もう一度唇を合わせようと顔を寄せる。と、ゴルベーザが、強く俺の背に手を回した。
ゴルベーザは、いつだって俺を欲しがっていた。操られて人形に成り果てている俺を、不器用な手つきで抱きしめていた。
きっと彼は、誰かに愛されたことがないのだろう。
痛めつけることでしか感情を表現できないように、俺には見えた。
「今の俺は、人形じゃない。お前の意のままには動かない。反発し、お前を殺すかもしれない。……そんな俺を、お前は抱きしめるのか?」
首筋に顔を埋める。ゴルベーザが震えているのが分かる。
いつからだろう、俺はゴルベーザに惹かれていた。抱かれる度に感じるのが快感だけではないことに、俺は気がついていた。
黒い兜に隠された、孤独の表情。
それは、俺が纏っている表情と瓜二つのように思えた。
ずっと独りで生きてきたゴルベーザと独りになってしまった俺は、悲しいくらいよく似ている。
「独りになりたくないんだろう?」
彼の体温を感じながら、そっと囁く。涙が溢れそうだ。
胸の痛みが、喉元までやってくる。上手く息が吐けない。
「……俺は、独りになんかなりたくない……」
だから、お前の元へ戻ってきてしまったんだ。
世界を破滅へと導く行為だと知っていながら。
“お前に会いたい”、ただただその一心で。
「…………『独り』がどういったものなのか、私には分からぬ。だが」
ゴルベーザが、俺の顎を掬い上げた。目蓋を閉じ、彼の唇を受け止める。掠めるだけで離れていった唇が、言葉を紡いだ。
「お前を抱いていたいとは思う。失くしたくない、とも思う」
「ゴルベーザ……」
クリスタルがより一層眩く輝き始めた。
全ての終わりが近づいてくる。もうじき、この星は火に包まれてしまうだろう。
それなのに、どうしてこんなにも幸せなんだろう。
幸福に痺れる指で、彼の背を抱き続けていた。
End