炎のように熱く燃える瞳の奥。魔物の視線は、ぞくりとするほど甘かった。
『おめぇは、もっと悪役らしい顔をしていればいい。魔物らしい顔をしててくれよ。情けない顔をするんじゃねえ』
俺が言ったその言葉を馬鹿真面目に実行するルビカンテの表情は酷く滑稽で酷く痛々しくて、それでも、その瞳の色はどこか優しい色を滲ませていた。
思い出す度、頭の中が痺れてしまう。
「…………う……」
『あの感覚』が俺の下半身に走り、がちん、と歯を鳴らした。毛布の上に横になり、きつく瞼を閉じる。触手の粘液が、俺の体を狂わせているのか。
あれから何日も経ってるってのに、俺の体はおかしくなったままだった。夜が訪れる度、快楽を求めて息を荒げてしまう。
下着の中に、手を滑り込ませた。
俺のモノは、痛いくらいに勃起している。
「あ……っ」
腰が浮く。前走りの液がくちゅくちゅと鳴る。目を開ければ、視界の端で蝋燭の明かりが揺れていた。再度瞼を閉じれば、眼球の奥で橙色の炎がゆらゆらと揺れているのが分かった。
空いている方の手で乳首を弄り、浅ましい格好で絶頂を追う。
「ん……う、あ」
思い出すのは、熱い手の感触だ。俺のものとは全く違う形をした異形の指はとても太く、その見た目を裏切るほど繊細な動きで、俺の体を這い回った。
首を横に振り、声を殺そうとする。熱の塊が、体の奥に凝る。
『エッジ……』
寂しく響く魔物の声が、俺の思考を支配する。ずきずきと胸が痛んで、ルビカンテの事以外何も考えられなくなってしまう。
「……んん……っ」
早く終わらせてしまいたいのに、イくことができない。理由は分かっていたけれど、認めたくなかった。
ルビカンテに犯された場所が、切なく熱くなる。こんな場所に手を伸ばしたくなんてないのに、我慢することができなくなっていく。
乳首を弄っていた指を滑らせ、口に含み、唾液を絡ませる。そうして、絡ませたものをその場所に持っていった。
荒い息を吐きながら、ゆっくりと挿入していく。
「ん、あぁ……っ」
空隙を満たしたい。
おかしなことをしているという自覚はあった。殺さなければならない魔物のことを思い浮かべながらこんな行為に及ぶなんておかしい、と。
どんなことをしても、あの男に与えられた快楽と同じものを得ることはできない。そんなことは分かっていた。それでも。
「あ、あ、あっ」
腰が浮く。背筋を駆け抜ける電流のような何かに捕われ、欲望を解放した。モノを握っている方の手に、精液の生暖かい感触がじわりじわりと広がる。
それでも、俺の体はどこか満たされないままだった。
「……何でだよ……何で……」
譫言のように呟いて、指を引き抜いた。
あの魔物の表情が、頭から離れない。抱きしめられた感触も、熱くて大きな手も、心を乱す材料にしかならなかった。
明日こそ――――明日こそ、あの魔物の首をちょん切ってやる。そうすれば、この熱もどこかへ飛んでいってくれるに違いない。
「……ルビカンテ」
クッションに頭を預け、俺の心を乱す魔物の名を口にする。胸の奥に渦巻く感情が何なのか、分かるようになる日が来るとは思えなかった。
End