彼は、私の命の恩人だった。
 試練の山で、動くこともできずに死にいこうとしていた私を拾ったのは、彼だった。

『僕と一緒に来る?ずっと一緒に……いてくれる?』

 血塗れになった私の手を握って、彼は笑った。幼い笑顔は、孤独に歪んでいた。胸が締め付けられる。怪我のせいではなかった。

『僕だけを、好きでいてくれる?』

 好きでいてくれるなら、助けてあげるよ。
 彼の指先で、ぴちゃり、血が鳴った。
 薄紫色をした瞳が、岩肌に反射した太陽光で微かに輝く。
 遠ざかっていく意識を必死で引き留めながら、私はそっと頷いた。




「―――何を思っているんだ?ルビカンテ」
 低い声が、物思いを遮った。わあん、と彼の声が反響する。この部屋に窓がないせいだった。
 弾かれるようにして、顔を上げる。彼は、部屋の入り口で佇んでいた。
「……部下からの報告書を整理していたんです。エブラーナの抵抗は厄介ですが直に、」
「ずっと同じ書類を眺めていたようだが?」
 彼の言葉に、私は息を詰めた。
「…一体いつからそこに……」
「いつからだろうな」
 黒い甲冑の奥で、彼は笑った。

 幼い頃に見た彼の切なげな表情は、いつからか黒い兜に隠され、見えなくなってしまった。
 彼の素顔を見なくなってから、どれくらいの時が流れただろう。
 彼に拾われ、彼に仕え、彼の為に生きてきた。
 モンスターの体に改造され、人間でないものになってしまったけれど、クリスタルを手に入れて、彼の望みを叶える。その為だけに、私は生きている。

「ルビカンテ」
 微かな金属音がした。彼がこちらに歩み寄り、黒い兜に手をかける。
「ゴルベーザ様……!」
 彼が兜を持ち上げると、目の前で銀糸が揺れた。心臓が喧しい音をたてる。
 薄紫の双眸が、電灯に照らされて光っていた。私は喉を鳴らした。平静を装った。
「どう、されたんです…?」
「…命令だ」
 彼の顔が近づいてきた。避ける間もなく、私は固まってしまう。
「私を抱け」
 口づけが、降ってきた。



 彼はベッドの上で裸になり、全てをさらしていく。私は呆然とその様を見つめていた。
「…ゴルベーザ様……!何故こんな」
 甲冑とは対照的に、酷く白い肌だった。不健康な色をしている。その白さに、胸が高鳴った。
「煩い」
 彼が私の手を引き、二人でシーツの上に転がる。もう一度、口づけられた。逃れるためにベッドに座ったが、降りようとしたところを手で制され、壁に凭れる結果となった。
「…命令だ」
「しかし、」
「命令だ」
 言葉と共に、私の雄に触れてきた。そこは既に立ち上がっている。
 私はどうしていいか分からなくなり、彼から目を背けた。前を寛げられ、ゆっくりと撫で上げられる。
「……っ」
 理性のたがが外れてしまいそうになる。
 モンスターは性欲に弱い。彼はそれを知っていた。
 しかし、私は意地でも彼を抱くわけにはいかなかった。
「…凄いな……」
 完全に勃起した雄を見ながら、彼が微笑む。明らかに普通の大きさではないものが、そこにあった。
 これを入れてはいけない、彼は人間なのだから。心の中で呟いた。
 こんなものを入れたら、彼は壊れてしまう。
「強情なやつだ」
 笑みを浮かべたまま、雄に口づける。
「本当は入れたくて仕方がないくせに。何故我慢する?」
「あなたを傷つけてしまいます!」
「お前は回復魔法が使えるだろう。問題ない」
 無茶苦茶だった。水音がする。彼は自らの窄まりに、何かを塗りつけていた。
「……あなたを傷つけたくない」
 声が上ずった。何も言わず、彼は私の体に跨ってくる。
 体を動かして跳ね除けようとした瞬間、彼が言葉を口にした。紫色をした光が閃く。指先すら動かせなくなり、呪縛の冷気をかけられたのだと分かった。猛りの先に、彼の秘部が触れる。
「う……っ」
 ゴルベーザ様。叫ぼうとした。声が出なかった。
 彼は、ぎゅっと目蓋を閉じ、膝を震わせている。恐怖を感じているのだ。
 どうしてこんなことを。言おうとするが、やはり、声は出ない。下腹部から、嫌な音がした。
「…あ、あ………あ」
 頭を私の胸に預けながら、腰を落としていく。甘ったるい血の匂いがした。
 その香りに、理性が悲鳴をあげる。
「あっ……!」
 彼のまなじりには涙が浮いていた。
 頭の中が真っ赤に染まる。我慢の限界だった。途端、魔法の効果が緩む。
 私は彼の腰を鷲掴み、力任せに押さえつけた。
「ああああぁっ!」
 ぞくりと背筋に電流が走る。雄は全て、彼の中におさまっていた。汗と共に、彼の涙が落ちてきた。
「…痛いでしょう」
 言いつつ、回復魔法をかけた。
 悲痛な面持ちで、彼は震え続けている。まるで子供のようだ、と馬鹿げた考えが頭を過ぎった。
 獣じみた感情が、私の胸を支配していく。
「動きますよ」
 彼を押し倒し、手首をシーツに縫いとめた。薄紫色の瞳が、すうっと細められる。
 加減することもできず、本能のままに揺さぶった。
「あ、ああっ、あっ」
 血の匂いが、部屋中に充満する。
 動けば切れてしまう。回復魔法をかけたところで、追いつくはずがない。
「ルビ、カンテ…ッ、ルビカンテ……ッ」
 声に煽られて、抱き締めた。
「ルビカンテ、もっと……強くしてくれ……っ」
 抱き締め返してきたその腕に、また煽られる。
 ああ、私は彼に触れてみたかったのだ。そう思った瞬間、中に放ってしまっていた。
 猛ったままのそれを、注ぎ込みながら前後させる。
「ひ、あぁ……っあ」
 ぐちゅぐちゅ、といやらしい音が響き渡る。
「…お前は……あ、ぁっ……ずっと、傍にいてくれるのか……?」


『お前は』


 微かな違和感に、私は一人の竜騎士の姿を思い出した。
 そうか、ゴルベーザ様はあの男を。
 何か凝ったものが、私の胸を締め付ける。
「…ずっと、傍にいますよ。約束したでしょう?」
 ずっと好きでいると、約束したでしょう。

 彼の指が、私の背に爪をたてた。




End


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