強い光を持ち、空のような色をしていた筈の瞳が、血の色に染まって揺れていた。
 光のない部屋の中に浮かぶ赤と白と金のコントラストが、ゴルベーザの頭をおかしくさせていた。
 欲しかったのは青い瞳で、赤い瞳ではなかった。
 愛おしい存在の、滑らかな頬に指先を滑らせる。彼は無表情のまま、ぼんやりと遠くを見遣っていた。
 指に絡んだ金糸が、爪先を緩く流れ落ちていく。
「……カイン」
 呼びかければ、彼は曇天のような表情のまま答えた。
「…………はい、ゴルベーザ様……」
 後ろ頭を抱き寄せ、強く抱きしめる。
 哀しく、辛く、抑え難い感情がゴルベーザの胸を抉った。
(闇のクリスタルを持って、私のところへ帰ってこい、と言ったのは誰だ)

 闇のクリスタルを持って帰ってきたその時、既に、カインの瞳は死んでいた。
 笑うこともない、泣くことも怒ることもない。強過ぎる洗脳の力が、彼の心を殺してしまった。

『――――ゴルベーザ様』

 切れ長の目を細めて微笑む、カインの表情が好きだった。彼の表情は柔らかくて優しくて、それはまるで、月明かりのようだった。
 時々、彼はバルコニーから空を眺め、泣いていることがあった。誰にも気付かれたくなかったのだろう。ゴルベーザが近付くと、カインはぐいぐいと袖で目元を拭い、潤んだ瞳を隠した。
 盗むように口づければ、彼はそっぽを向いて怒りを露わにし、同時に照れてみせた。常に落ち着いている彼が顔を赤らめていることが、何故か、とても嬉しかった。

 様々な情景が、ゴルベーザの脳裏を過っては消えていく。
 腕の中にいる青年は、愛する者であって、愛する者ではなかった。
(……私が、命じたから……)
 今、気づいた。
 体が欲しかったわけではない。心が欲しかったわけでもない。
「カイン……私は」
 そうだ。彼が笑顔でいてくれるだけでよかった。嬉しそうに、甘い笑みで、傍にいてくれるだけで、それだけで幸せだったのに。
 壊れてしまった幸せを抱きしめながら、ゴルベーザはそっと涙を零した。



End






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カイン受30題