贈り物だ、と彼は言った。これは贈り物なのだと。
「……馬鹿か」
 吐き捨てるように返すと、「言うと思った」と彼は唇の端を上げた。両手を広げている。瞳は優しかった。
「ほら」
 ベッドに腰かけているエッジの元に、吸い寄せられるように近づいていく。伸ばされている指先に触れた。温かい。ぎゅっと握りしめられた。
 しゃがんで目線を合わせると、唇を重ねられた。
「う、ん……っ」
 薄暗い部屋。背中を抱き、引っ掻く。エッジが呻き声をあげた。
「……いてえよ、カイン」


 俺の世界は、酷く暗かった。
 世界に平和が戻っても、セシル達を裏切り、クリスタルを奪う手助けをしたことは紛れもない事実だった。
 お前のせいじゃないよ、そう言ってセシルは苦笑する。
 貴方の弱みに付け込んだゼムスが悪いのよ、そう言ってローザは俺に微笑みかける。
 二人は、俺を優しく包み込む。そう、痛いほどに優しく、俺を、俺の心を抱きしめるんだ。

――――辛いなら辛いって、はっきり言えよ。辛気臭い顔すんなって。

 言いつつ、エッジは俺の背中を叩く。彼は、笑わない。窺うような顔をしない。
 お前も傷ついているんだろう?我慢できずに、ある日、俺は彼に問うた。
 モンスターに変えられた両親、がらんどうになった城、死んでいった民、数えればきりがない。

――――辛いさ。

 なら、どうして。どうして、お前は“辛気臭い顔”をしない。

――――泣くだけ泣いたからな。あとは前に進むだけだ。



 前はどっちなんだろう。暗闇で覆われていて、前後左右の見分けがつかない。
 俺はどうしたい。どこに行きたい。
 俺は言った。「俺の中は空っぽで、残っているのはどうしようもない虚無だけなんだ」と。
「…………なら、俺をやる」
「何の冗談だ」
「本気だ」
「……馬鹿か」
「言うと思った」
 エッジが、大きく両手を広げた。甘い誘惑だった。柔らかな光彩を放つ瞳は優しく、そして甘美だった。
「ほら」
 甘い蜜に近付いていく。芳しい温もりの香りに目眩がした。指先に触れると、彼は俺の手を優しく握った。瞬間、ぞくりと背に何かが走った。
 真っ直ぐな瞳が俺を見つめている。息を詰めた。
 しゃがむと、狙っていたのか、素早い動きで口づけが降ってきた。
 彼にしがみつき背を引っ掻くと、彼は「……いてえよ、カイン」と呟き、「おめえも不器用な奴だよなあ」と笑った。
 この腕の中にいれば、素直になれる気がする。
 そうか、こちらが“前”なのか。
 心臓の音が聞こえる。エッジの心臓の音なのか、俺の心臓の音なのか、それは分からない。
 ただ、この温もりを離したくないと思った。




 End


Story

エジカイ