空を駆ける夢を見ていた。
飛竜の背に乗り、風をきる。
見渡す限りの青空と、白い雲。そして緑色の平原。
全てがきらきらと輝いているように思え、美しいその光景に涙が出そうだった。
誘われるように飛竜の滑らかな皮膚に触れ、目を閉じる。
ひんやりとした肌は、カインの指先に吸い付いてきた。
(……気持ち良い)
突然、髪をまさぐる風が強さを増す。
緩やかに間断なく続く風は、しかし、いつの間にか姿を変えてカインの髪を撫でていた。
(違う)
これは風ではない。
違和感を感じて目蓋を開くと、男が静かにこちらを見下ろしていた。
(ゴルベーザ様)
胸が早鐘を打つ。
風だと思っていたのは、手だったらしい。
「お前の髪は柔らかいな。…手触りがいい」
言いながらゴルベーザが微笑む。なかなか見ることのできないその笑みに、カインの心臓は今にも壊れてしまいそうだった。
流石に主君の前で寝こけているのは躊躇われ、起き上がろうとするが、肩をベッドに押さえつけられてしまった。
仕方なく、そのままの姿勢でカインは主君に問う。
「…何か、ご用ですか?」
その問いに、カインの肩を押さえた体勢のまま、ゴルベーザは唇の端を持ち上げた。
「……今の時刻は分かるか?」
投げ掛けられた質問に首を傾げながら壁掛け時計をちらと見、カインは素直に答える。
「深夜の二時です、ゴルベーザ様」
窺うように、紫の瞳を見つめる。
そうだな、とだけ答えると、ゴルベーザは手のひらでカインの目を隠してしまった。
「ゴルベーザ様…?」
何の意味があるのか分からず、カインは主君の名を呼ぶ。
次の瞬間、よく分からない布に目蓋を覆われていた。感触から、頭の後ろで布の端同士を結ばれたことを知る。
真っ暗闇の中で、カインは目蓋を瞬かせた。
「…ゴルベーザ、様」
カインは思わず固唾を飲み、首を横に振る。主君の考えが透けて見えたからだ。
「今は深夜だ。となれば、お前の部屋に来る理由は一つしかないだろう?」
愉しげな声がカインの耳をくすぐる。服の上から、指先が乳首をつついた。
突然訪れた刺激に、カインは背を仰け反らせる。
「反応がいいな」
温く湿ったものが、立ち上がった乳首を服越しに包み込む。
(舌、だ)
甘噛みされ、舌で転がされる。
このままではまた、今夜も流されてしまう。
ここ数日、朝は主君の腕の中で目を覚ますことが常となっている。
毎朝体はぎしぎしで、朝食を食べることすら出来ずにベッドに沈み込む日々が続いていた。
いや、食べられないだけならまだいい。
昨日の朝に至っては主君に朝食を食べさせて貰ってしまったのだ。
いくら夜伽を命じられている身とはいえこれではいけない、と思い、カインは勇気を出して主君に訴える。
「ゴルベーザ様……今日はどうかお許し下さい……こう連日では…体がもちません」
声が上擦る。
体がもたない、という言葉が酷く淫靡なものに思えて、カインはそっと唇を噛んだ。
「…お前が口答えをするとは…珍しい。そんなに体が辛いのか。どこが辛いんだ。言ってみろ」
予想だにしなかった主君の言葉に、カインは顔を熱くする。
どこが、と言われても。
「ここか?」
ぐりぐりと乳首を転がされ、喘ぎが漏れた。
体を捩ろうとして腰を浮かせると、下肢を覆っている服を剥がれた。
「勃っているな」
淡々と言われ、羞恥が酷くなる。
目隠しで見えないけれど、自分の下腹部に熱が凝っていることは分かる。
下着越しに雄を撫でられて、カインはひくりと喉を鳴らした。
「…関節が、痛い、のです」
形を確かめるように、手淫を施される。
本当を言うと痛むのは関節だけではないのだが、恥ずかしくて口に出来ない。
「楽な体勢でするなら構わない、ということか?」
笑いを含んだ声。
ぎしり、とベッドが軋んだ。触れているシーツが引き攣れた為、主君がベッドの上に乗ったのだと分かる。
同時に、体を持ち上げられた。
訳が分からずにされるがままになっていると、四つん這いになるよう命じられる。
「口を開け」
四つん這いになると、次の命令が降ってきた。
ゆっくりと唇を開く。
どんな衝撃が来るのかは分かっていたから、できるだけ大きく口を開けた。
頬に手が添えられる。優しく引き寄せられ、唇に触れてきた熱いものを躊躇わずに口に含んだ。
「ん、む…ぅ…」
主君のものは既に昂っていた。頬張るのが精一杯で、思わず眉根が寄る。
必死に舌を蠢かせながら、喉をつつくぎりぎりまで咥え込んだ。
じゅるじゅる、と唾液の音が部屋に響き渡る。
「ん、う」
視界を塞がれているのは不自由だが、主君の顔を見ずに済むのは好都合だった。
口淫の時、主君は決まってカインの顔を舐めるように見つめる。
いつだって、カインはその顔を見ているだけで恥ずかしくて堪らなくなってしまう。
どうしたら良いのか分からない位に動揺していると、またそれをからかわれるというのが常になっていた。
出し入れを繰り返せば、飲み込みきれない唾液が顎を伝っていく。
ちょっと顎が辛い。いつもよりも大きくて固いような、そんな気がした。
(もしかして、いつもより感じておられるのか?)
そう考えてから後悔する。
信じられない場所が疼いたからだ。
「どうした?カイン」
「な、何でもありません……っ」
口から雄を抜いて話す。やたらと舌っ足らずな自分の声は、嫌というほど羞恥を煽った。「もういい」と頭を撫でられる。
また四つん這いにさせられ、挿入されると思い、カインは身を固くした。
力を抜かなければ辛いと知りつつ、やっぱりそう簡単に体は言うことを聞いてくれない。
深い呼吸を何度か繰り返したところで、何かが秘部に入ってきた。
「あ…っ」
圧迫感が少ない。指を突き立てられたのだ。
「……何本入っているか、分かるか?カイン」
「んん…!」
襞を確かめるように中でぐるりと指を回され、カインは額をシーツに擦り付けて喘いだ。
「答えろ」
言葉の調子はきついが、声音に怖さはない。主君は心の底から楽しんでいるのだ。
答えなければ、いつまでも責め立てられてしまうに違いなかった。
「…一本、です……」
仕方なく、蚊の鳴くような声で答える。
引き抜かれてほっとしたところに、また素早く指を捩じ込まれ、カインはがくがくと体を震わせた。
「これは何本だ?」
「さ、三本…ですか……?」
先程よりも質量を増しているそれに、カインは三本という答えを出す。
「まだ二本だ。…昨日も可愛がってやったのに、相変わらずお前の中は狭いな」
言葉と共に、どこかから濡れた音が聞こえてくる。
指を引き抜かれ、主君が体を離す。
このまま放っておかれるのではないかと怖くなり、「ゴルベーザ様」とカインは主君を呼んだ。
「…そんな声で私を呼ぶな。煽っているのか?」
「違います……っあぁっ」
突然どろりとした液体が秘部を伝い、カインはあられもなく喘いだ。
思わず腰が逃げをうつ。
「お止めください……んっ!」
冷たい液体が、指に絡み付いて入ってくる。
涙声で喘ぎながら、カインはシーツを強く掴んだ。
「体に害はない。落ち着け」
「熱い、で、すっ」
冷たかった筈の液体が、徐々にとても熱いものへと変化していく。
脳天を甘い痺れが貫き、堪らない気持ちで腰を振った。
「ゴルベーザ様、ぁ…っ」
太腿を伝い、液体が流れていく。
主君はカインの体を横臥させると、震える背を後ろから抱き締めた。
「…怖がらなくていい。お前が気持ち良くなれる媚薬だ」
お前は思う存分感じるだけでいい。
まるで恋人に与えられるような甘い言葉に、カインは胸を高鳴らせた。
狭い器官を割り開き、猛りが中に入ってくる。
「ん、んー…っ」
うなじを主君の荒い息が擽り、彼もまた感じているのだと思うと、嬉しくて堪らなかった。
大切な何かを忘れている。
自分は他の誰かを愛していたのではなかったか。
そう思うのに、側にいる主君のことしか考えられなくなってしまう。
誰だったのか思い出せない。
(ああ、でも、もうそんなことはどうでもいい。)
『愛されているのかもしれない』という想いが、今のカインの全てだった。
「あ、あ、あ、ぁ…あっ」
片足を掲げられ、浅い抽迭を繰り返される。
確かに自分は楽だが、主君の方は大した快楽を得られないのではないか、とカインは思う。
(俺は、愛されているのか…?)
胸に広がっていく甘い期待が、カインの体を更に熱くする。
結合部からいやらしい音が響いた。
「……あ、あっ、あっ!」
背に感じるゴルベーザの体温に、カインの頭はだんだん真っ白になっていく。
こんな優しい動きでは足りないのだと、貪欲な体と心が頭に訴えかけてくる。
物足りない。
もっと激しく、深く、抉るようにして欲しい。
そうして、主君の薄紫色の瞳を見ながら果てたい。
あの寂しげで何もかもを諦めたような瞳を見たい、そう思った。
「ゴルベーザ、さ、ま……っ」
口を閉じることができない。
自分が垂らした唾液が、顎を伝っていくのを感じた。
意識が朦朧とする中で、カインは呟く。
「お願い、です……っこの目隠しを、外しては貰えませんか…?」
ずるり、と雄が体から抜け出ていく。カインは喘ぎながら続けた。
―――貴方の目を、見ていたいのです。
「本当に、お前という奴は……」
言葉と共に、体を反転させられ、強く抱き締められる。
解けた目隠しの向こうに、困ったように微笑む彼の顔が見えた。
End