猿轡をかませ、目隠しをする。右手首と右足首、左手首と左足首を繋ぎ、拘束する。
 それでも封じられないものがある。
「何も考えるな、カイン」
 思考だ。思考を封じることはできない。
「何も」
 真っ暗な部屋の中で揺れる蝋燭の灯りが、白い肌を染める。
 カインの強い意識が、奥深くまで洗脳することを許さない。橙色に染まるシーツ、色濃い金色、注ぎ込む体液、それでも、カインは抵抗し続ける。
 猿轡の下で、唇が動く。笑っているようにすら見える。くつくつと喉を鳴らし、馬鹿にした調子で嗤う。

 ――――俺は、誰のものにもならない

 脆い表面の中にある心は強く、主張し続ける。洗脳を跳ねのけ、ゴルベーザを支配し続ける。
 欲しいものは何でも手に入るはずだった。洗脳は素晴らしい力で――なのに。
 自由になる膝を自ら割り開き、カインは腰を上げてみせる。どろりとした白い液体が窄まりから溢れ、シーツに垂れた。その仕草はわざとらしさに満ちていて、犯せと言わんばかりだった。
 カインのペニスは萎えている。殺してやりたくなった。演技の痴態に煽られている自分が酷く滑稽に思えた。
 いくらでも抱けばいい、とカインは態度だけで言う。抱こうが何をしようがお前には屈しない。分かるだろう、と。
(お前は今、どんな目で私を見ている)
 侮蔑の眼差しをこちらに向けているのだろうか、それともしてやったりと笑っているのだろうか。
 秘部に両手の親指を挿し込み、割り開く。カインの肩が揺れた。手が精液でびちゃびちゃになる。カインのペニスが震えた。そのまま、貫いた。
 声もなく、カインが悲鳴を上げる。上体を反らせ、ぶるぶると震え、肌に汗を滲ませる。額にはり付いた髪すら淫媚に映り、ゴルベーザは舌打ちした。
 額を舐める、鼻先を、おとがいを、首筋を。そして尖った乳首を噛む、口を開く、今度はべろりと舐めあげる。
 涎と汗が沁み込んだ黒い猿轡は更に黒く染まっていた。小さく聞こえる荒い息遣いが、堪らなくいやらしかった。
 一旦引き抜き、うつ伏せにし、躊躇わずに全てを打ち込んだ。
 金髪に絡む黒い猿轡が見える。突然、それを解いてやりたい衝動に駆られた。誘惑に抗えない。カインがどんな声で喘ぐのか、ゴルベーザは気になって仕方がなかった。
 猿轡を放り捨てる。思いきり尻を叩くと、「あっ!」とカインが声をあげた。
 どす黒い何かが、ゴルベーザの胸にこみ上げる。
「……何故だ……何故…………っ!」
 高ぶりを挿し込み、引き抜く。何度も何度も繰り返せば、カインは喘ぎを漏らし始めた。
「あっ!あぁ……あ……っ」
 哀しいのか、苦しいのか、わけの分からない感情がゴルベーザを覆う。
 肉のぶつかり合う音、濡れた音、堪えるように繰り返される呼吸、全てが思考に纏わりつき、それらを振り払うためにカインを犯した。
 注ぎ込んだところで何もならないと知りつつ、貪らずにはいられなかった。
「私のものになれ」とゴルベーザが言うと、カインは喘ぎながら「馬鹿なことを」と笑う。
「ならば死ね」と言うと、「そうするさ」と笑う。
 一体、カインはどんな瞳をしているのだろう。目隠しを取ろうとして、躊躇する。
 侮蔑の眼差しなら、まだいい。
 もしかしたら、憐れむような眼差しでこちらを見ているのではないか――――。
 顔を横向きにし、震える指で目隠しを掴む。
 瞬間、カインの唇の端が上がった。




End


Story

カイン受30題