「カイナッツォ、お前、孤独を感じたことはあるか」
「…孤独?」
 スカルミリョーネの唐突な問いに、カイナッツォは目を瞬かせた。
(久しぶりに部屋に招かれたと思ったら……一体何なんだ)
 謎の質問に、唸ってしまう。
 スカルミリョーネのきらきらと輝く金色の瞳は、何を考えているのか分からない程無表情にこちらを見つめている。
 孤独とはどういう意味を持つ言葉だったろう。カイナッツォは考えた。

 孤独―――。

 『独りきり』だろうか。そうだ、孤独とは、酷く寂しい者のことを言うのではなかったか。
 そうだとしたら、自分は孤独ではない。生まれてこの方、寂しさなど感じたことがないからだ。
 考えた末に、カイナッツォは首を横に振った。
「いや、ない」
「そうか…」
 そう呟いて、スカルミリョーネが黙り込む。

 試練の山でセシル達に敗北してから、スカルミリョーネは部屋に篭るようになった。
 帰って来た時には息も絶え絶えで、身体中の肉や骨がバラバラになって、今にも死んでしまいそうな顔をしていた。
 あの時、驚いて駆けつけたカイナッツォの顔を見て、スカルミリョーネは小さく瞳の金色を揺らし、体を静止させたのだった。
 スカルミリョーネはアンデッドだ。その為、彼に死が訪れることはない。
 ただあるのは『身体の活動停止』で、魂はそこに止まり、暗闇の中で呻き声をあげ続ける。
 ルゲイエが体を修復し、そうして目を覚ました瞬間に抱きついてきたスカルミリョーネの淡い温もりを、カイナッツォは忘れることができずにいた。
(孤独…か)
 真っ暗闇の中で、スカルミリョーネは何を想っていたんだろう。真の暗闇とはどういうものなんだろう。カイナッツォは想像する。
 分からない。それはきっと、経験しなければ理解できない類いのものなのだ。

「…私は、孤独を知っている」
 よろよろとした足取りでカイナッツォに背を向けて、スカルミリョーネは呟いた。
「あー……それは、魂だけになっちまった時のことだろ?」
 カイナッツォはスカルミリョーネに歩み寄って、ローブを掴もうと手を伸ばした。忌々しげに振り払われる。
「……違う」
 壁に向かって、口を開く。
 スカルミリョーネの体から何とも言えない肉と土の香りが漂ってきて、カイナッツォは誘われるようにしてローブに鼻先を押し当てた。
「……あぁ、やっぱりこれだな」
「馬鹿か」
 カイナッツォは、スカルミリョーネの匂いが好きだった。嗅ぐだけで理性を叩き壊されてしまうような、この、湿気交じりの土臭さが堪らなかった。
 昂ぶりを、抑えられない。
 獣じみた体勢のまま組み敷くと、カイナッツォの下腹部がスカルミリョーネの背中に当たる。
「ひ、」
 怯えを隠そうともせず、スカルミリョーネは喉を鳴らした。
 邪魔な布だ、と、カイナッツォは朽ちかかった臀部を露にさせる。
 限界まで育った猛りを打ち込まれて、土色のローブに包まれた背骨がぎいと歪んだ。
「…い……っあ、あ」
 逃れようとして蠢いた肩を、両手で押さえつける。骨の折れる音がした。
(弱りすぎだ、こいつ)
 その場所からそっと手を引いて、腰らしき部分に手をそえる。括れまで引き抜き、奥まで一気に挿し入れた。
「あ、ああぁっ!」
 あえかな悲鳴。
 痛みを感じない体。死を受け入れない魂。その行く末に、カイナッツォは想いを馳せる。
 甘い喘ぎと腐臭が、思考に彩を与えた。
 死なないということは、永遠に生き続けるということで。周りの者達が死んでいっても、自分だけは死ねない、ということで。
(そういうことか…)
 そうして、カイナッツォは『本当の孤独』の意味を知る。
「……こ、こわ、れる、こわれ……っ」
 床を引っ掻きながら、スカルミリョーネはうわ言を漏らす。
 それを聞いたカイナッツォは、囁くように小さく笑った。
「……壊して欲しいんだろ」
 内壁が、びくり、と締まる。
「魂まで粉々に、壊して欲しいんだろ。…違うか?」
「わ、わたし、は……ッ」
 声が震えていた。
(図星だな)
 ほくそ笑みながら、カイナッツォは言った。
「なあ、何なら、このまま二人一緒に死ぬか。繋がったまま死ねば、魂も一緒にいられるかもしれないし」
「あ、あっ、あ、あ、ぁ、ば、か…っ」
 小刻みに、抽迭を繰り返す。
 ぶるぶると体を震わせながら、スカルミリョーネの雄が精液を吐き出した。
 抜き挿しを一旦止め、達したばかりの場所を扱いてやりながら、
「ずっと、俺と一緒にいるか」
 口にする。
「カイナッツォ……ッ」
 甘美な誘いに溺れた声が、部屋の中に木霊する。

『明日、バロン城でセシル達を迎え撃て、とゴルベーザ様に命じられている』

 言えぬまま、再度、カイナッツォは動きだす。
(俺が死んだら、こいつは嗤うだろうか、それとも…)
 床に爪を立てている、骨ばった指先に触れてみる。強く握り締めて、明日の戦いを思った。


End


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