ゴルベーザが部屋を訪ねた時、カインは椅子に腰掛け机に頭を預けながら、静かに目を閉じていた。
一緒に酒でも呑もうと思ったのに、と考えながら、確かめるようにして、ゴルベーザはカインの口元にそっと耳を寄せる。
もしかしたら呼吸が止まっているかもしれない、などという考えが、唐突に脳裏を過ぎったからだ。
息をしていることに安堵しながら、ゴルベーザはカインの髪を優しく撫でた。
相当眠かったのだろう。彼が枕にしている報告書には皺が寄り、文字はミミズが這った跡のように乱れていた。
ゴルベーザはうたた寝をしているカインを物珍し気に眺めながら、その寝顔に引っ掛かっている髪を耳にかけてやり、報告書をカインの下から引き抜いて読もうとして、カインの手元に指を伸ばす。
途端、指先を緩慢な動きで掴まれた。驚き、顔を覗き込む。
カインはまだ、夢の中にいるらしかった。どうやら無意識に掴んだらしい。長い睫毛が、小さく震えていた。
幼い、とゴルベーザは思う。
起きているときのカインは歳より大人びて見えるのに、眠っているときの彼はまるで少年のようにあどけない表情をしている。
ゴルベーザは、カインの寝顔が好きだった。
肩の力を抜いて目蓋を閉じている、その様が好きだった。
カインの指先が冷えている。そのことに気付いたゴルベーザは、ベッドから毛布を取ってこようと、握り締めている手を外そうと試みた。
しかし外れるばかりか反対に強く握り返されてしまい、諦めざるを得なくなる。
穏やかな表情で眠る彼を、起こしたくはない。
ゴルベーザはカインに寄り添い、自らのマントで青年の肩を覆った。そうして、空いている方の手で、丸まっている背を撫でる。
カインの唇が緩く上がり、微かな声を吐き出した。
「…………母さん…」
甘えるような調子の声に、ゴルベーザの胸がちくりと痛む。
どこか懐かしい罪悪感じみた感情が、頭をもたげてこちらにやって来る。
『似た者同士』という言葉が、思考を侵し、回り続けていた。
End