業務連絡をして、踵を返す。
背を向けたその瞬間、ゴルベーザが何か言葉を口にし、その一言にカインは首を傾げた。
確かめるように、主の方を振り向く。
「……ゴルベーザ様?」
「……っ」
「ゴルベーザ様!」
瞬間、ゴルベーザの体が玉座から滑り落ち、カインは息を飲む。槍を放り投げ、ゴルベーザの元に駆け寄った。
兜の奥の息が、酷く荒い。跪き、肩を支えた。
「……ルゲイエかルビカンテを呼んできます。ここで待っていて―――」
「…私の傍を離れるな」
「しかし、」
「傍に、いるんだ」
強い調子で言われ、カインは小さく溜め息をついた。
「…頭が痛いんでしょう?俺の力ではどうにもなりませんよ」
時々、ゴルベーザはカインに頭痛を訴える。
その度に倒れたり蹲ったりしてしまうのだが、ゴルベーザは頑なに治療を拒否し、カインに『傍にいろ』と命令する。
傍にいるだけで、頭痛が楽になるものなのか。考えても考えても、カインには分からない。
「兜を外させてください」
「……ああ」
兜を被ったままでは、顔色を確かめることも出来ない。
がちゃり、と金具が鳴る。薄紫色の瞳が覗いた。額には汗が光り、髪がはり付いている。
兜を床に下ろしてから、カインはそれをそっと拭った。
「酷い汗だ。鎧も……いいですか?」
瞬間、昨晩の情景がカインの脳裏を過ぎる。
唐突に現れた映像に肩を震わせた。
昨日の夜もこうやって、主の服を脱がせ、汗ばんだ肌に触れた。カインは頬を熱くする。振り払うために、ぎゅっと目を閉じた。
高鳴る胸を抑えながら、ゴルベーザの鎧を剥いでいく。「上だけでいい」と言われ、手を止めた。
視線が絡み合う。
ゴルベーザはカインの腰を抱き込んで、ゆっくりとその腿に頭を預けた。
「お前も脱げばいいのに」
「……俺は、いいです」
こんな赤らんだ顔を見られるわけにはいかない、と、カインは首を横に振る。本当は足が痺れて堪らないのだが、顔を見られるよりはましだった。
胎児のように体を丸めて、ゴルベーザは目蓋を伏せる。
長い睫毛にどきりとして、誘われるようにして髪に手をやった。柔らかい髪を確かめるようにして梳く。途端、ゴルベーザの唇が笑みを湛えた。それにつられてカインも微笑む。
「…気持ちいいですか?」
「ああ」
「頭痛は……?」
「大分楽になった。だが、もう少しこのままで……」
「……はい、ゴルベーザ様」
腰に巻きついている腕の力が、徐々に力を失くしていく。
カインは穏やかな心持ちで、寝息をたて始めた主の顔を愛おしげに見つめていた。
End