光の加減で彼の髪が金色に見えるということを、彼自身は知っているんだろうか。
 二人で夜を過ごした後、迎える朝日の下で、白に近い金色で、彼の髪は光るのだ。
 身を起こし、彼が目覚めませんようにと祈りながら、そうっとその髪に手をやる。
 目を閉じて眠る彼は、甲冑を身に纏っている普段の姿とはまるで別人で、優しい気持ちになれた。
 やや長い髪を掻き上げ、指ですく。
「……ゴルベーザ様」
 小さな声で、名前を呼んでみた。彼は目蓋を閉じたままだ。
 彼の頭に手を翳す。俺の手でできた影で、彼の髪が銀色に戻る。
 ああそうか、睫毛も金色に見えるのか。俺は彼の長い睫毛を見つめた。
 しばし、静止する。
 何だか、彼の声が聞きたくなってきた。
「ゴルベーザ様」
 先程よりも少し大きな声で呼んでみた。けれど、目覚めない。
「ゴルベーザ様」
 もう少し、大きな声で。やはり、目覚めない。
 シーツにくるまっている体に寄りかかり、頭を抱え込むようにして首筋に腕をまわした。彼の顔が間近にある。目蓋に口づけを落とした。
 長めの睫毛が、震える。
「……ゴルベーザ様」
 言えば、一瞬驚いた表情をした後、ゴルベーザ様は柔らかな笑みを浮かべた。
 俺の体を抱き寄せ、抱きしめて、確かめるように優しく撫でる。
 この世界には俺達しかいないのではないか。
 そんな錯覚を覚えるほど、幸せな朝だった。
 彼の指の感触が、心を充たしていく。
「…………ゴルベーザ様の髪を見ていました」
 ぽつり、小さな声で呟いた。
「ゴルベーザ様の髪は、太陽の光の加減で金色に見えるんです。それがとても不思議で」
 吸い込まれてしまいそうなほど不思議な光彩を放っている、薄紫の瞳が目の前にある。ぐるんと丸いその中に、俺の顔が収まっていた。
「そうか」
 望んだ彼の声は、いつも通りの低さを持っていた。
「私の髪の色は、数年前まで茶色だったからな。そのせいかもしれん」
「……え?」
「理由は分からんが、変色したのだ。血からきたものなのか、他の理由があるのかは分からんが……」
 彼は無表情だった。
 何かを思い出しているようでも、何かを想っているようでもない。
 何の感情も見られないその口ぶりに、違和感を覚えた。
「…………ゴルベーザ様のご両親は、茶髪だったんですか?」
 訊いた瞬間、彼の顔色が一変した。いけない、と思う。鋭い眼差しで射抜かれ、肩を捕えられ、シーツに押さえつけられていた。
 触れてはならないものに触れてしまった。背筋に悪寒が走る。全身が、恐怖に震えた。
「両親のことは、二度と口にするな」
 強い口調。
 申し訳ありません、と口にするより先に、深く深く口づけられる。
 口腔を探られながら、彼を求め、彼の首に腕を回す。彼が悲しげな表情をしていることに気づき、見ているのが辛くて目を閉じた。
 ゴルベーザ様は、すぐに悲しげな顔をする。俺は、彼にそんな顔をしてほしいわけではないのに。
 俺は貴方に何もかも晒しているのに、貴方はたくさんの秘密を持っている。俺ばかりが焦って、驚いて、震えている。
「ゴルベーザ様……」
 解放された唇で、窺いながら名前を呼んだ。
 彼の手が、目的を持って俺の体を這い始める。
 心を繋ぎたいのに、体を繋げる術しか見つからない。だから俺達は、暇さえあれば互いの体を求めてしまう。
 心同士が繋がることを夢見ながら、今日もまた、快楽に堕ちていった。



End



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カイン受30題