「お前が人間だった頃の顔を知りたい」
 にやけた顔でそう言われて、私は「はあ?」と聞き返した。
「だから、お前の昔の顔を知りたいって言ってんだ」
「……どうして」
「単に知りたいだけだ。理由なんてねえ」
 言葉と同時に、カイナッツォの手のひらが私のローブに伸びてくる。ゆるゆると尻を撫でられて、私は思わずサンダーを放った。薄黄色の光が、彼の周りで瞬き、輝く。
「てめえ……」
 睨み付けられて、私の息が一瞬止まった。
 尻を撫でる手は止まらない。
 色情魔め、と心の中で悪態をつきながら、私はその手を振り払った。
「……入れられたくなかったら、さっさと教えろよ」
 ぎゅうっと抱き締められ、
「ほら、言わねえとこれを突っ込むぞ」
 猛りきったものを、ローブの腹の部分に押し当てられる。

 言いたくない。

 そう思い、首を大きく横に振った。
 カイナッツォは私が人間だった頃の姿形を見て、馬鹿にするつもりだろう。昔の方が良かった、だとか、今はこんなに汚い体になっちまって、だとか。
 そんな言葉をかけられる位なら、犯される方がましだった。
 私の体を壁と対峙させ、カイナッツォがくかか、と小さく笑う。
 ローブをたくしあげられ、滑ったペニスの先を尻に擦り付けられた。
「じゃあ、遠慮なく」
 一気に貫かれる。
「あ…………っ」
 内臓から空気がせり上がってきて、私は堪らず声をあげてしまう。耳元に吹きかけられる熱い吐息が、体を熱くさせていった。




「……言え」
 何度も中で吐精され、垂れた精液が床を汚していた。私のペニスは狂ったように透明な液体を溢している。ずるりと引き抜かれて、私の体は白い水溜りに落ちた。べちゃり、体中が白に染まる。
 見上げた先に、不満げな表情のカイナッツォが居た。
「どうして、私の過去の顔を知りたがるんだ……?」
 喘ぎすぎた喉は酷く掠れていた。
 カイナッツォは目蓋を伏せて、私から視線を逸らす。口ごもるその姿は彼らしくなく、私の瞳に異様に映った。
「そこの棚の、四段目の引き出しを開けてみろ」
 指をさして場所を示せば、彼は無言でそこに向かい、言ったとおりに引き出しを開けた。
「……これって」
 流石に汚れた手で触るのはまずいと思ったのだろう。カーテンで手を拭いながら、カイナッツォは問いかけてきた。
「これが、お前なのか」
 ごとり、彼は薄く四角いそれを持ち上げる。
 眩い金色だった筈の額縁は、茶色く変色してしまっていた。
「そうだ。それが私だ」
 額縁の中に描かれている少年。それは、私が人間だった頃、母が画家に描かせたものだった。
「……やけに地味な顔だな。お前っぽい気もするけど」
「母は美しい人だったが、父はそうでもなかった。私は父に似たのだ」
「肌の色が、えらくくすんでやがる」
「何百年も前に描かれた絵だ。劣化したとしても、おかしくはない」
「お前、色白だったのか?」
「……そうだな、どちらかといえば青白いほうだったかもしれな……い……っ」
 息苦しさを感じた。
 カイナッツォが、何かを唱えながらこちらに近づいてくる。
 正面から抱き締められたと思えば、また、下半身に凶器をつき付けられた。
「また、するのか……?何を、唱え、て……」
 床に押し倒される。限界まで開かされた足の間に、猛ったものが沈みこんだ。
「ん、ん……ん……」
 カイナッツォは嬉しそうな顔で、何かを唱え続けている。光が爆ぜ、眩しいと思った瞬間、腹の中の圧迫が酷くなった。
「……ああ、やべえ…………思った以上に小さい餓鬼になっちまった……」
 興奮交じりの声。閉じていた目蓋を開くと、肌色をした足が目に入ってきた。
 ぎゃあっと悲鳴をあげて私は震え、それを見て彼は笑った。
「こんなに小せえ体に入れたのは、生まれて初めてだ」
 手を目の前に持ってきて、開いたり握ったりを繰り返してみる。間違いない。これは人間の手だ。
 私は、カイナッツォの魔法によって、絵の中の少年と同じ容姿にされてしまっていた。
 だとしたら、私は今、十六歳か十七歳の姿になっているということになる。
 恐る恐る結合部に視線をやる。腹部が緩く隆起しているのを見てしまい、また私は悲鳴をあげてしまった。
「……こ、こんな……っ」
「入りきらねえな……仕方がねえか」
 モンスターの姿でなら受け入れられる筈のカイナッツォのペニスは、人間には大きすぎた。感覚はアンデッドの時と何ら変わりはないから、痛みは感じない。
 けれど、『腹を突き破られるのではないか』という恐怖が、私の頭を支配していた。
 おかしな話だ。普段は腕がもげようが骨が折れようが、何も感じないというのに。
「……ぬ、抜いて……くれ……!姿も、元に戻せ……っ」
 自分の声が高いことに、今になって気付く。
 そうだ、そういえば人間だった頃の私は声変わりしても声が高かった。
「これが昔のお前の姿か」
 カイナッツォが口を開く度、低い響きがペニスを伝って脳を細かく痺れさせる。首を振って頷いて、「許してくれ」と懇願した。
「やけに気弱だな。心まで人間になっちまったのかよ」
 ずず、とペニスが括れの手前まで引き抜かれる。と思えば、また深く押し入れられた。
「ひ…………!」
「……すっげえ……たまんねえ」
 淫猥な音が、部屋中を満たしていく。
「や、いや、あ、ああ」
 高みへと導かれる。体が、カイナッツォの精を搾り取ろうと、勝手に動き始める。
 魔法で人間の形になっても、私の本性はモンスターのままだ。快楽に弱く、脆い。
 カイナッツォのペニスが更に大きくなり、射精の瞬間が近いことを知った。忘れかけていた恐怖が、頭をもたげて暗く嗤い始めた。
「……お願いだ、抜いてくれ……っ」
「どうして?」
「腹が、腹が、あっ」
「……何だそんなことか。大丈夫だ、破けねえ。それに破けるとしたら、もうとっくの昔に破けてるだろうよ」
「ひ、あ、ああ」
「出すぞ」
「いや、いやだ」
 きつく抱き締められて、途端、腹に熱いものが流れ込んできた。
「ああ、あ……っ」
 迸りは止まらない。入りきらなかった液体はどろどろと腿を伝い、ようやく止んだかと思われた吐精は、引き抜いてからも続いた。
 顔に、体に、白いものが注がれる。唇に付いたそれを舐めれば、酷く苦かった。

 そんなに、私のことを汚したかったのか。
 過去の私まで犯しつくして、嘲笑いたかったのか。

 悲しいのか悔しいのか、胸にこみ上げる感情を認めたくなくて強く強く目蓋を閉じた私の唇に、塩辛いものが降ってきた。
「……おお、キスできる」
 目を開けると、カイナッツォの顔が近くにあって。口づけられたと判るまでに、数秒かかった。
 カイナッツォは大きな口をにやにやさせながら、
「お前の口も俺の口も、上手くキスできるような形状をしていないだろ?一回やってみたかったんだよ、お前と、その、キスってやつをさ」
と言って、もう一度口づけてくる。
 恥ずかしくて堪らなくなり、私は唾液を飲み込んだ。
「……そ…っ、それだけのためにこんなことを……」
「ん?それだけじゃねえ。過去のお前を見てみたかったってのもある。だってよお、お前の親や昔の友人が知ってて、俺が知らないってのは――――」
「……え?」
 おかしな間が空いた。
「…………ああもう、何でもねえ。忘れろ」
 ちいと舌打ちをして、彼は呪文を唱え始める。瞬いた光が、私の体を元の形へ戻した。
「やっぱり、これが一番だな!」
「本気で言っているのか」
「本気だ」
「悪趣味な奴だ」
「悪趣味でいいんだよ」
 カイナッツォが、くかか、と笑った。






End


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