「抱きたい」と言われたので「嫌だ」と返したら、廊下の隅に引きずり込まれた。
耳元にかかる息が煩かったので、サンダーを落としてみたのだが、効かなかった。
そもそも私は男だ。多少腐ってはいるが、生物学的には雄の筈だ。性欲の捌け口が欲しいのなら、バロン王に化けて人間の女を抱くなりなんなりすれば良いのに。
そう呟くと、人間相手は素っ気なくてつまらない、と返された。
馬鹿力を持つこの男から逃れることを諦めた私は、体を弛緩させて床に俯せる。
ローブをたくし上げる衣擦れの音が聞こえ、尻を阿呆みたいに撫でられた。
カイナッツォの手はべちゃべちゃに濡れていた。冷たい。ぬるっとしている。塩の匂いがしたと思ったら、いきなり突っ込まれていた。
「ひ…………っ」
よくよく考えてみたら、男を相手にしたことは無い。
じゃあどんな女と寝たことがあっただろうと考えたが、あまりに昔のこと過ぎて思い出せなかったので、やめた。
背中にのしかかられ、深く突き立てられる。
私が最後にセックスをしたのは確かにもう何百年も前のことだが、それでも『前戯』という行為は今も有るはずだと思っていたので、いきなりの行為に頭が白くなった。
「カイナッツォ、貴様…!」
「ん?何だ?」
「順序というものを知らんのか…っ」
叫ぶと同時に、ず、ず、と桁外れに大きなものに中を擦られる。内臓を引きずり出されるかもしれない、と思う。
床に爪をたてて背を仰け反らせると、くかか、とカイナッツォが低く笑った。
「…順序…?いいじゃねえか、気にするな」
愉しげな声だった。
「痛くはないんだろ?お前はアンデッドなんだから」
確かに痛くはない。痛くはないが、何となく納得がいかない。
そもそもこの状況自体、何なんだかよく分からない。
「……どうして私が…、お前に犯されなければ……ならないんだ…」
更なる抗議をしようと口を開く。しかし水掻きのついた指を口に突っ込まれ、阻まれてしまった。
「ぐ…、ぅ…」
「お前の埃っぽい匂いを嗅いでいたら、勃っちまったんだよ」
「……っ!」
この私に欲情したというのか。それならただの石を見ても、勃起するのではないか。
こんな朽ち果てかかっている体相手に欲情するだなんて、正気の沙汰とは思えなかった。
「お前の声を聞くだけでも勃つぞ」
指先が歯列をなぞる。
お前、性器に異常でもあるんだろう、ルゲイエに診てもらえ。そんな言葉が閃いた。
「ずっと前から突っ込みたくて仕方がなかった」
私は穴扱いか。
返答したいのだが、あまりに無茶苦茶な言い分と口を犯す指先に、何も言えなくなる。
「たまんねぇなあ……」
その声に重なって、結合部分から湿った音が響く。指を入れられたままの口腔が苦しくて、私は唇から唾液を溢した。
「あ、…あっ」
体の奥底に封印されていた性欲が、頭をもたげ始める。唾液を絡みつかせたままの指が引き抜かれ、その手が腰に触れてきた。
前立腺を容赦なく擦られて、目の前が白色に瞬いた。
カイナッツォが腰を打ち付けながら、
「…のってきたじゃないか」
と囁く。
太股を、大量の液体が伝っていくのが分かった。もしかしてカウパーなのか。尋常な量ではない。
「……分かっただろ?…俺が犯すと、どんなモンスターでも、壊れっちまうんだよ」
「ひ、あぁっ…あ…!そん…な」
「アンデッドの親玉のお前なら、俺の全部を受け止められるだろ」
全部?
全部とはどういうことなんだ。
荒々しい手管のことか?ペニス?精液?
それとも、まさか。
「中も柔らかいし、死なないし……ああ、じきに出すぞ。覚悟しろ」
一瞬、おかしな期待をしかかった自分自身を嘲笑う。
私にもまだ、こんな感情が残っていたとは。
ぐるりと体を反転させられた。
繋がっているところが軋んだけれど、カイナッツォはお構い無しに動き続ける。脈絡もなく、顔を覗き込まれた。
ローブがしとどに濡れているのを感じた。彼はは不敵な笑みを浮かべている。
視線を下半身の方にやると、あまりにも巨大すぎるペニスが目に入ってきた。
あんなものを突っ込まれて生きていられる生物は、そうそういないだろう。思いつつ、あんなものを突っ込まれてよがっている私も相当だな、と考える。
「お前は確かにどこもかしこも腐ってて、いかにもアンデッドって感じだがなあ」
腰の動きを早めながら、にやりと笑う。
何だ、嫌味でも言うつもりか。
「目は金色に光っていて綺麗で……俺は結構気に入ってる」
唐突な誉め言葉に返すべき言葉が見つからなくて、私は体を強張らせた。
忘れていた何かが心の真ん中に触れてきて、体中が震えた。彼が動く度に一際大きな声が溢れて、止まらなくなる。
「カイナッツォ…っあ、あ、あぁっ」
「お前、そんなに中に出してほしいのか」
「…っちが……っ」
「あー……いく、いくぞ」
「う、あぁ、あ、あああぁっ!」
中のものが一回り大きくなったかと思うと、カイナッツォは体を震わせ、体液を放った。
腹にじわりと何か温いものが入ってくるのを感じる。
「う、う、う……」
放出はいつまで経っても終わらない。ゆるゆると前後に動きながら、彼は大分長いこと射精し続ける。
ようやく引き抜かれたと思ったら、瞬間、流れ出した白液が床一面に水溜りを作った。
満足げな溜め息が彼の口から漏れ、それに腹が立った私は、死ね、と呟いた。
「貴様なんか…死んでしまえ……」
「断る。死んだらもう二度とお前を抱けないだろ」
口説き文句なのか、含みのある言葉なのか。
それすら分からないまま、「貴様など私が殺してやる」と口にした。
End