決して忘れるものかと心に決めたはずだったのに、少しずつ、少しずつ色褪せていく。
青い、空に似た瞳の色。
長い金の髪、時たま見せる、柔らかな笑顔。
そういえば、彼はどんな声をしていただろう。どういう風に、笑っていただろう。
青き星から離れて三年目、私は唐突に目を覚ました。
フースーヤに問えば、青き星の血が流れているからだろうという言葉が返ってきた。
そう口にしたきりで、フースーヤはまた横になり、眠り始めてしまった。
部屋の中は静かだ。皆、寝息をたてて眠っている。
すぐに眠る気にもなれず、部屋を出た。
――ゴルベーザ。
何故だろう。彼の声が、思い出せない。
人の記憶が、これほど曖昧なものだったなんて。
輪郭を無くした声を辿りながら外に出ると、無数の星がこちらを見つめていた。
当たり前のように、青き星の姿はない。
何十年もある人生の中、私はほとんどの日々を孤独に過ごしてきた。
だから、カインに初めて出会った頃には孤独に慣れていたし、カインがいなくなってしまっても、またあの日々が戻ってくるだけなのだと思っていた。
まさか、カインが傍にいないだけで、胸にこれほど大きな穴が空くだなんて、思ってもいなかった。
胸に空いた、大きな穴。それは暗闇ではなく、空の色をしている。
彼を抱きしめて、離さなければ良かったのか。この星に、無理矢理にでも連れてくれば良かったのか。それとも私が、青き星に留まれば良かったのか。
だが、それらは空虚な妄想に過ぎない。
どれほど足掻いても、手の届かぬ場所へ来てしまったことは、紛れもない事実だった。
――いいのか、行かせて。
別れ際に聞いた、最後の言葉。
あれが、口にできる精一杯の言葉だったのだろう。
セシルが私を引き留めるのではないか――そんな想いが、少し透けて見えていた。
“自分には引き留める資格などない”。そんな声が、今にも聞こえてきそうだった。
未来を見つめて進もうと決めたはずなのに、心に輝くのは、たった一つの過去だけだ。
彼のことを単なる思い出にするには、もう少し時間が必要なのかもしれない。
――ゴルベーザ。
月明かりに照らされて光る、鮮やかな声。洗脳が解けた瞬間に聞いた、彼の声だ。
神の存在など信じていなかった私が、今初めて、天に祈る。
いつか、会えますように。あの鮮やかな声を、もう一度聞くことができますように。
End