これで何度目になるのだろう。
何度経験すれば、この痛みに慣れることができるのだろう。
彼が辿るであろう道は知っている。それでも、去りゆく背を追いかけることはできなかった。
何度も繰り返す別れ、それは記憶の中にある。
『元の世界』での別れ。再会を約束できぬ別れ。彼が孤独を抱えていることを知りながら、私は青き星を後にした。
この世界に来てからもそうだ。輪廻の数と同じだけの別れがあった。
彼と私の心は、いつだってよく似た色をしている。
光を求め、光を愛し、それでも光になることはできない。かといって、闇に身を置くこともできない。宙に浮いた心を抱きしめ理解してくれたのは、彼だけだった。
いつだって、私の言葉は何かが足りなくて不器用だ。けれど、彼は私を信じてくれた。私のことを信じて行動してくれた。――――再度、裏切り者の烙印を押されても。
しっかりと前を見据えた彼は、もう振り向かない。
芯の通った背には、一つの迷いも見受けられなかった。
彼を裏切り者にしたのは、私だった。この輪廻を断ち切りたいと思ったのも私だった。この話を持ちかけたのも私だった。だから、こんな結末が来ることは知っていたのに。
彼がこの場を立ち去るという事実が、こんなにも辛い。
新しい輪廻が紡がれたとき、彼はもう、この世界に存在しない。
元の世界へ戻ったカインの目の前には、どんな視界が開けているのだろう。彼は、どの時間の『彼』に帰っていくのだろう。
バロンで過ごした幼い日々が待っているのか、ローザとセシルの横顔を見つめる日々が待っているのか、それとももっと先の日々が待っているのか。
セシル達を裏切り、私と過ごし、傷を舐め合う日々が待っているのか。
試練の山での、孤独な日々が待っているのか。
それはきっと、誰にも分からないことなのだ。
息が詰まるような気がした。
彼が元の世界に帰った時彼の目の前にある世界が、少しでも優しい色をしていますようにと祈った。
「――――カイン」
彼は、振り向かなかった。歩みを止めることもなかった。その潔さが痛かった。その真っ直ぐな背が、好きだった。
「ゴルベーザ……」
彼の声を聞くだけで、頭の奥が痺れる。
前を向いたまま、彼は小さく呟いた。
「また会おう、ゴルベーザ」
その声は明るく、切なくなるほど眩しかった。
End