裸体が鏡に映っている。
酷く醜く見える。黒い靄が纏わりついているように見える。
裸体の向こうに見えるのは、ベッドの下に転がった兜と槍と、それから、シーツの上にいるあの人の姿だ。
垂れた金の髪は、肩を辿って滑り落ちていく。青い瞳は曇った色をしている。気のせいかもしれないが、それでも、俺にはそう見えた。
ベッドの上で眠るあの人は、そっと目蓋を閉じ、穏やかな表情で眠っている。
鏡越しに彼の頬に触れると、硬い感触だけが返ってきた。
――何度抱かれても慣れない。
彼は、冷たい口調で冷たい指先で、なのに、熱い瞳で俺を見る。
初めて見たときからそうだ。ミストでの一件の後、彼の腕の中で目覚めたあのときから。
男に抱かれることは嫌だった。だから、彼に抱かれるのも好きではなかった。それでも、彼の肌の感触は好きだった。あの熱い瞳が好きだった。
俺は、誰かに求められたかったのかもしれない。求めるだけの生活に疲れていたのかもしれない。
だらり、太腿を液体が伝い、足元に流れ落ちる。
腹の中に吐き出された精液も求められている証しなのだと考えれば、酷く甘美なものに思えた。
瞬間、薄紫の瞳が鏡越しにこちらを見た。
「……ゴルベーザ様」
ゴルベーザ様は夢うつつの眼差しで俺を見ながら、シーツを持ち上げる。手招きし、
「カイン」
優しく笑った。
ベッドに歩み寄る。シーツの間に体を滑り込ませた。と同時に口づけられ、俺も笑った。
この人に触れているその間だけ、自分でいられるような気がする。体中を覆う黒い靄が消え、瞳の青が戻るように思われた。
彼の頬に触れ、初めて、自ら口づける。ゴルベーザ様がぴくりと体を揺らした。強く抱きしめられて息を詰めながら、彼の舌に舌を絡ませる。
強く強く目を閉じれば、自分の心臓の音だけが大きく耳に響く。
これは刷り込みなのかもしれない。まるで鳥の雛のように、目覚めた瞬間から――あのミストの一件の後から――彼を求めずにはいられない。
彼の傍にいれば、幸せでいられる。
そうだ、何もかもを忘れて、幸せでいられる。
この人の傍にいる限り、俺は幸せなんだ。
では、彼がいなくなったら。目の前から消えてしまったら。
俺はどうするんだろう。なあ、どうすればいい。
End