「……夜分遅くに申し訳ありません」
扉の外から聞こえてきたその声は、やけに小さいものだった。
「…入れ」
しゅん、と音をたてて扉が開く。
居心地が悪そうな表情で、カインはそこに立っていた。
金の髪はしっとりと濡れ、手にはタオルが握られている。
ゴルベーザには、カインが何故この部屋に訪ねて来たのかよく分からなかった。
「あの」
カインは部屋に入ってこず、あの、ともう一度繰り返す。
「…シャワーの……」
そう言った後、叱られた子供のように黙りこくる。
幾度か言葉を発しようとして唇が開いたが、結局何も言わずに閉じられてしまった。
そんなカインに痺れをきらしたゴルベーザは、椅子から立ち上がると扉の方へと赴き、彼の手をぐいと引く。
「何かあったのか?」
近づき、触れてみて初めて気が付いた。
カインは微かに体を震わせていた。手は冷たく、指先は色をなくしている。
扉が閉まり、密閉された部屋に静寂が訪れた。
「あの、分からないんです、使い方が」
「…夜は普通に話していいと言ってあるはずだが?」
「……うん…、俺、シャワーの…使い方が……分からなくて…」
何かもっと深刻な問題が起きたのかもしれないと思っていたゴルベーザは、拍子抜けして声をあげて笑った。
顔を真っ赤にしてカインは視線を逸らしている。
「なら、私の部屋で浴びていくといい」
背に手を回し抱き寄せる。
酷く冷えたその肩が、びくりと揺れた。
「…湯の出し方が分からなくて、冷水を浴びたのか?確かに、地上にシャワーはないからな」
耳まで赤くして、カインはこくりと頷いた。
「お前が…毎晩……俺が気を失っている間に綺麗にしてくれている、から…」
意識があって一緒に入る時も、シャワーどころじゃないし。
だから今まで、シャワーの使い方を知らなかったんだ。
上目遣いでそう告げられて、鼓動が一際大きく鳴る。
「…誘っているのか?」
そろりと唇に指を這わせる。
期待に震えるその場所に、そっと口付けを落とした。
End