まるで蔦に絡まっているようだ、と俺は思った。
実際、彼の瞳は一度も俺を見ようとはしなかったから、その印象は間違いではなかったのだろう。
シーツにくるまっている背を撫でて、無数の傷痕が残る足や腕に指を這わせる。彼の試練の山での孤独な日々を思うと、知らず知らずのうちに胸が痛んだ。
一年ほど前のことだ。突然、カインがエブラーナ城にやってきた。
しかも正門からではなく、俺の部屋に直接やってきた。
飛竜に乗り、その飛竜を近くの森に隠し、得意の跳躍で俺の部屋のバルコニーに忍び込んできた。
カインは見るからに疲れきって、酷い顔をしていた。
『……エッジ』
彼は言った。
『エッジ、俺は、どうすればいい』
あの人を忘れることができない、とカインは言った。
『もう二度と会えないかもしれないのに、俺はあの人を忘れることができないんだ。いくら修行を重ねても、忘れられない。……自分でも、おかしいということは分かっているのに』
俺は、ゴルベーザとカインの間に肉体関係があったことを知っていた。何故なら、俺は一度だけカインを抱いたことがあったからだ。
抱いた理由は簡単だ。カインが俺に跨がってきたから、成り行きでそうなっただけだった。
――いや、成り行きではなかったのかもしれない。俺がカインに対して何とも言えないもやもやした感情を抱いていたことは、紛れもない事実だった。
カインは俺に抱かれている間、俺の名ではなく、あの男の――ゴルベーザの名を呼び続けていた。
そうして、カインが俺の部屋に忍び込んできたあの日、また、俺はカインを抱いた。
何も変わらない。以前と同じだった。
カインはゴルベーザの名を呼び、俺は幻を探す彼を抱く。それだけだった。
その日から、二、三週間に一度、カインは俺の部屋を訪ねて来るようになった。
「カイン……」
カインの心を捕らえているのはゴルベーザへの愛情なのか、それともゴルベーザが残していった洗脳なのか、それすら分からない。きっと、カイン本人でさえ分かっていない。
セシルへの想い、ローザへの想い、ゴルベーザへの想い。それら全てをぶつける為に、カインは試練の山に居続ける。そして、疲れてどうしようもなくなってから、俺のところへやってくる。
「……人の気も知らねえで」
囁き、俯せて寝ている太腿を撫で上げる。ぴくりと彼の肩が揺れた。指先を潜り込ませ、思い切り奥まで挿し込んだ。
「あ、ぁ……っ」
あられもない声が、カインの口から漏れる。先程まで情交に及んでいた場所は柔らかく指を受け入れ、ひくひくと波打った。
突然、何もかもを壊してしまいたい衝動に駆られる。
こんなことをしても、カインの心は手に入らない。
知りつつ、俺は指を抜き、代わりに自分自身の猛りをカインの中に捩じ込んでいた。
「……ああ、あ…………!」
カインは覚醒したらしかった。
腰を掴み、引き摺り上げる。
「ひ、あ、あ、あっ」
狂ったように激しく抽迭を繰り返すと、蕩けた青い瞳がこちらを向いた。
貫く度に金糸が揺れ、隙間から青が覗く。俺はその光景に釘付けになった。
「あぁ、あ、あ」
男を受け入れることに慣れた体。
慣らしたのは誰だ。こいつの体を、こんなふうにしたのは誰だ。
「……カイン、俺を見ろ」
一旦引き抜き、仰向けにさせ、再度貫く。彼の屹立したものが、とろりと透明の液を滴らせた。
「……確かに、お前は可哀想な奴だ。好きな奴にどっか行かれて、一人きりになっちまってさ。しかも、その『好き』も洗脳からきてるもんかもしれないなんて、誰かにすがりたくもなるよな。……でもよ。俺だって辛えんだよ。脱け殻みたいなお前を抱くのが、辛くて辛くてたまんねえ……」
言葉もなく、カインが俺の方に手を伸ばしてくる。
体だけが近くても駄目で、心だけが近くても駄目で。俺達はなんて我が儘なんだろう、と互いに抱きしめ合う。
交わした口づけは涙に濡れていて、余計に哀しみが止まらなかった。
End