「お前は、まるで鳥のようだな」
と彼がやけに真面目な顔で言ったので、俺は可笑しくてたまらなくなった。

 俺は、鳥みたいにいいものじゃない。
 汚くて狡いことや、馬鹿馬鹿しいことを沢山考えているんだから。

「鳥のよう……ですか?一体どこが」
 微笑みながら訊ねる。
 途端、バルコニーにある塀の上を歩いていた小鳥が、ピイ、と鳴いて飛び去った。暗い藍色をした小鳥だった。
 小鳥が視界から消え、隣に視線をやると、彼は寂し気に苦笑していた。
 抱き寄せられる。目蓋を閉じれば、彼の体温と頬に当たる風だけが俺の全てになり、胸が苦しくて堪らなくなった。
「お前は、鳥に似ている」
 繰り返され、俺は肩を震わせて笑う。
「……それは口説き文句ですか?」
 顔を上げて視線を絡め、薄紫色の瞳と交われば、
「――そうかもしれないな」
 今度は嬉しそうに微笑んだ。
 彼の指先が、俺の肩胛骨を撫でる。
「お前は、今にも飛んでいってしまいそうなんだ。私の手から逃げて、二度と戻ってこないような気がする。そんなところが、鳥に似ている」
「俺は、逃げたりしません」
「分からんぞ。お前の足元はふわふわとしていて落ち着きがないからな」
「落ち着きがない?」
「ああ。いつも思い悩み、迷っているように見える」
 何と答えれば良いのかも分からず、しかし不正解とも思えず、彼の体から離れ、塀に近付く。
 塀の下には雲が広がっていて、その流れを見つめていると何故か心が落ち着いた。
「……千切ってしまえばいい」
 風に流されていく雲を、目で追う。
「俺の背中に生えている羽を捻り取って、棄てて、閉じ込めてしまえばいいんですよ」

 俺の羽の正体は、何なんだろう。
 幼い頃から共にいた飛竜か、バロンに対する郷愁か、親友であった者への情愛か。
 或いは、それら全てなのか。

「……千切ったら、飛べなくなってしまうだろう」
 俺の背を抱きながら、彼は首筋に顔を埋めた。泣き出しそうな声音だった。
「私は、お前の羽が好きだ。羽も、お前の一部なのだから」
 首筋に落ちる口づけに背を震わせながら、俺は強く目を閉じる。
 いっそのこと羽を千切って棄てて欲しい。そうすれば、こんなに胸が苦しくなることもないのに。




End






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カイン受30題