ただひたすらに欲しいと、そう思った。
澄んだ瞳も、揺らぐ心も、何もかもをこの手におさめたくて。
だから奪う。全てを奪い、自分だけを見るようにして繋ぎとめる。
それはとても、とても、容易くて。
悲鳴が上がるのも構わずに一気に最奥まで貫いた。
きゅっと瞑った瞼に切なげに寄せられた眉根。悲鳴を、息を吐き出そうと空いた唇の端を唾液が伝っている。
いつも涼しい顔をしている彼も、この時ばかりは整った顔を歪ませる。それが酷く私を高ぶらせるとは知らずに、堪えようとして顔をくしゃくしゃにする。落ち着くのを待たずに動き始めると彼の体が震えた。
必死に声を殺して、しかし深く抜き差しを繰り返されては殺しきれずに時折声が漏れ出る。慣れてきたのか、ゆるりと上壁を擦り上げると彼は切なげに鳴いた。
体を奪うのはとても簡単だった。
命じれば、彼はそれに従う。自ら腰だって振ってみせる。そういう風に、操っているのだから。
しかしまだ奪えずにいる物がある。他の何を奪っても、これだけが奪えなかった。
律動の間を縫って彼の濡れた瞳がちらとこちらを見る。何か言いたげに唇が動くのに気付いて、思わず自分のそれで塞いだ。
何を言いたいのかは分からないけれど、彼は隙を見つけては私に何か伝えようと唇を動かす。ここの所、いつもそうだった。
言葉はとうに奪ってしまったから、彼がそれを声にして紡ぐ事はない。それでも唇の動きだけで、伝えようとするのだ。決まって繋がっている時、唯一向き合っているこの時に。
彼の言いたい事を一度も読み取ろうとした事はなく、ただ見ないようにするばかり。これが彼自身の意志による物だとは知っているけれど奪えないのだ。意志を奪えば彼はきっと、彼でなくなってしまうから。彼を、彼であるまま繋いでおきたかったから。
中に、一番奥深くに欲望を注ぎたくて腰を打ち付ける。彼の体を抱き締めると彼は背に腕を回して必死にしがみついてきた。
きつく締まるそこを無理矢理に抉るように突き上げると甲高い声が挙がって。
果てる瞬間に彼の何か叫ぶような息遣いを感じた。
「…―――――っ、―――――っ!」
欲しくてたまらなくて、何もかもを自分の元に繋ぎとめておきたくて。奪えるだけ奪って、彼の居場所がここしかないのだと知りながら。
それでも私は、それが拒絶の言葉である事をただ、ただ、怖れていた。