黒い黒い海の上、果てしなく広がった空の真ん中に、金色の月が浮いている。
 部屋から出られなくなって一週間。
 窓の外を眺めることが、俺の日課となっていた。
「つまんねえの」と呟いて、ベッドへ向かう。天蓋をくぐって、シーツに飛び込んだ。
 つまらない、実につまらない。自業自得とはいえ、この仕打ちはあんまりだ。

 数日前、俺は、城を抜け出して遊びに出かけた。
 それはいつも通りの行動だったのだが、滅多に見かけないような強いモンスターに出会ってしまい、大怪我をする羽目になってしまったのだった。
 命からがら逃げ出してきたものの、そんな俺の姿を見て両親が許してくれるはずもなく、俺の謹慎がその場で決定した。
 だけど俺には、まだ両親に知られていない秘密がある。
 それは、俺がモンスターから逃げられるように手助けをしてくれたやつの存在だった。
 窓を小さく叩く音。飛び起きて、窓の方へ走った。
「…………ルビカンテ」
 赤くて大きなモンスターが、そこに立っていた。このモンスターが、俺の命の恩人なのだ。
「待ってろ、今開けるから」
 鍵を外し、招き入れる。大きな手を握って、遥か高い場所にある顔を見上げた。
「……まだ、謹慎中なのか?」
「ああ。……まあ、仕方がないとは思ってるけどな。悪いのは俺だし」
「怪我の具合は?」
「昨日も言ったろ。もう、舐めときゃ治るくらいしか残ってねえよ」
 謹慎中で暇を持て余している俺を気遣って、ルビカンテは夜、この部屋に遊びに来てくれる。
 低い声、大きな体。どう見たって異形のそれに最初は驚きもしたけれど、今はその全てを好ましく思う。
 人間以上に優しい男。それが、俺が持つルビカンテの印象だった。
「酷い怪我だったからな。私の魔法をもってしても、完治せぬほどに」
 全身を引き裂かれたあの痛みを思い出し、俺は顔を歪めた。
「……本当に、死ぬかと思った。一瞬あの世が見えたぞ」
「私がたまたま通りすがらなかったら、確実に死んでいただろうな」
「…………だな」
 繋いだ手は、熱が籠っているように温かかった。
 ルビカンテは火を操るモンスターだ。きっと、そのせいなんだろう。
 ルビカンテと出会ってから、もう一ヶ月近くが経っている。こうして手を繋いだことも、一度や二度ではなかった。
 こいつとは、沢山の話をする。異国のことを知らない俺は、ルビカンテの話を聞くことで異国の地を想像する。
 堅苦しい本を読むよりも新しくて本物のにおいがするそれらの話に、俺はどんどん惹き込まれていく。
 俺の頭を撫でる、優しい手。眼差し。
 最初はくすぐったいと思うだけだったのに、いつの間にか、俺は胸を高鳴らせるようになっていた。
 この感覚に、覚えがないわけではない。
 まさかそんなと思いつつ、日に日に大きくなっていく感情から、目を逸らすことなどできなかった。
 性別など、種族など関係ないのだと思い知らされる。
「本当に、大丈夫なのか?」
 怪訝そうな表情で、彼は言う。真面目なやつだなあ、と俺は笑った。
「だーかーら、何度も言ってるじゃねえか!大丈夫だって」
 ルビカンテがしゃがんで、俺と目線を合わせた。何事かと思う。手が伸びてきた。
「本当か?」
 する、と音がした。最初は、何が起こったのか理解できなかった。
「ああ、本当だ……少しだけしか残っていないな」
 その言葉を聞いて、ようやく、上の服を脱がされたのだと理解する。
 壊れてしまったのかと思うほど、心臓が早鐘を打ち出した。顔が熱い。
「この脇腹の傷は、やはり酷いな。痕が残ってしまいそうだ」
 その上、治りかけ――ほとんど痛みはない――の傷の上をつつっと撫でられて、俺の頭は限界まで“いって”しまった。
 下半身に、熱が集中する。あっと思ったときには、もう遅かった。
「……エッジ?」
「あ、こ、こ……これは……っ!」
 馬鹿正直な反応を示した下半身を呪いつつ、踵を返し、ベッドの隅に逃げ込む。
 きっと、ルビカンテは変に思っただろう。
 当たり前だ。だって、同性であるルビカンテに撫でられただけで反応するだなんて、こんなにおかしなことはない。
「エッジ」
 優しい声が怖くて、彼に背を向け、うつ伏せになり、目を閉じた。ベッドが軋む音。俺は肩を揺らす。
 ふくらはぎに、熱い手が触れてきた。布越しだというのにぞくぞく、と全身に痺れが走る。
 シーツを掴みながら、俺は強く目蓋を閉じた。
 ふくらはぎから移動した手が、太腿に触れる。それから――。
「ひ……っ」
 すっかり勃ち上がってしまっている俺のものを、やわやわと撫で始めた。
「な、何、ルビカンテ……ッ!?」
 どうすればよいのか分からず、恐ろしくて振り向くこともできずに俺は震えた。背中に、ルビカンテの熱を感じる。覆い被さられたのが分かった。
「……感じているのか?」
 耳元で低音が響く。俺はといえば、息もできずに震えていた。
 耳を撫でる熱い吐息。耳朶を食まれる、眩暈がする。好きなやつに触られて、感じないはずがない。
 ルビカンテは、どうしてこんなことをするんだろう。もしかして、おかしな反応をする俺を、からかっているんだろうか。
 下衣の中に入り込んだ手が、俺のを握り込む。太い指先で先端をぐりぐりと撫で、射精を促すように握った手を前後に動かす。
 体が熱い。
「……ひ、あぁ、あっ……んっ」
 濡れた音が響き始める。先走りでべとべとになってしまった場所を扱かれて、俺は首を横に振った。
 馬鹿にされているのかもしれない、と思う。みっともない声をあげて震えている俺を、馬鹿にしているのではないかと。
 体は熱くなっていくのに対して、心は急激に冷えていく。
 ルビカンテの手の動きが早くなる。
 このままでは、出てしまう。ルビカンテの手を汚してしまう。
「やだ、いやだ……っあ、あ……っ!」
 もう一本の手が、俺の下着を膝まで下ろした。ひんやりとした空気を感じたのも束の間、尻たぶを割り開かれた場所に滑った何かが触れてきて、俺は叫びだしそうになった。
 触れてきたそれは、熱く滑った舌だった。
 二つの湿った音が、耳を犯しだす。
 こんな場所を舐められるなんて、嫌だ。嫌なのに。
「ルビ……カンテ……ッ」
 嫌なのに、どうしてこんなに気持ちいいんだ。
 少しずつ、頭が真っ白になっていく。気持ちよくて堪らなくて、出してはいけないと思うのに、抑えられなくなる。
「……ルビカンテ……ッ、い……ちゃ……いっちまう……っ」
 体が強張った。舐められていたその場所に、指を突き立てられる。
「ああああぁ……っ!」
 瞬間、いってしまっていた。
 途端に、自己嫌悪が襲ってくる。
 指を引き抜かれ、後ろから抱きしめられて、胸が痛くなった。
「放せ……」
 掠れた声で呟いた。
 これ以上、馬鹿にしないでほしい。期待させないでほしかった。
 体を仰向けにさせられる。黄色い瞳と目が合った。
 ルビカンテは、何とも言いがたい複雑な表情をしていた。
「エッジ……」
 ルビカンテの顔を見ているのが怖くて、自らの視界を両手で塞ぐ。
「……軽蔑してんだろ、俺のこと……」
 普段は優しいルビカンテに、こんな行為をさせてしまうほどに。


***


 仰向けてみれば、小さな体は震えていた。
 きつく抱きしめればばらばらになってしまうであろうその体は、筋肉がついてはいるものの、痩せて骨ばっている。
 忍者はある程度痩せている方がいいのだ、と彼は言っていた。もう少し太っても良いのではないか、と私は思うのだが。
 澄んだ森のような色をした瞳が、ゆらゆらと揺れている。
 私が、彼にこんな表情をさせているのだ。
 彼の肌に触れた瞬間に我慢がきかなくなってしまった自らの馬鹿さ加減に、腹が立った。
 若い体だ。触れられれば、反応することもあるだろう。
 同性のモンスターに逐情させられてしまった彼の気持ちを思うと、やるせない気分になった。
 今にも泣き出しそうな表情でこちらを見上げながら、エッジは荒い息を吐いている。
「エッジ……」
 エッジは顔を手のひらで覆い「……軽蔑してんだろ、俺のこと……」と口にした。
 あまりに切ないその声音に、胸が痛くなる。
 何を軽蔑するというのだろう。軽蔑されるとすれば、それは私だ。
 生理現象で反応した青年の体に、欲望に突き動かされるまま触れてしまった。
 そうだ、私は以前から彼に触れたいと思っていた。
 細い腰に、しなやかな脚に、柔らかそうな頬に。
 それから、よく笑い、楽しげな声を漏らす唇に。
 そうだ。私の姿に怯えない人間に出会ったのは、初めてだった。
「軽蔑などしていない」
 ぴくん、と彼の体が震える。
「……軽蔑されるとすれば、それは、私の方だろう?」
 私の力をもってすれば、彼の動きを封じることなど容易い。力ずくで体を開かせることもできるだろう。
 ――だからこそ、無理に触れてはならなかったのに。
 頬に触れると、エッジは身を捩った。柔らかい髪を撫でてから、顔を覆う手を外し、目を覗き込む。
 切れ長の瞳から生まれる涙が、今にも眦から零れ落ちそうになっていた。
「……ルビカンテ……ッ」
 喘ぎにも似た甘い響きに、ぞくりとした。
 噛みつくように、口づける。
「……ん……っ、うぅ……」
 舌を絡めとると、応えるように絡みついてくる。唾液を流し込めば、必死で飲み込もうとする。彼の仕草の一つ一つに煽られ、私は自分を見失っていく。
 私の体に、彼のものが当たっている。それは猛り、また蜜を流し始めていた。
 そうっと唇を離すと、飲み込みきれなかった唾液が顎を伝って零れた。
「も、やめろよ…………期待、しちまうだろ……っ」
「……エッジ?」
 私の頭を抱き寄せ、彼は祈るように口にした。
「好き……なんだよ、おめぇのことが……」
 心臓が跳ねた。
 おかしくなってしまいそうなほど、胸が鳴っている。
「だから、冗談でもこんな風に触られちまうと、俺」
 彼も、私と同じ気持ちだったというのか。そんな筈はない、だって彼は人間で――。
「おめぇに会ってから分かったよ。性別とか、種族とか……そういうのは、関係ねえものなんだなって」
 小さく笑ってから、
「これが、最後でもいい。おめぇとキスできて……嬉しかった……」
 彼の腕に、力が籠った。
 どうしてお前は、何もかもを諦めたような口調でそんなことを言うんだ。
「……最後でなければならないのか?」
「え?」
「もう一度、してもいいか……?」
 引き剥がすと、驚いた表情の彼の顔があった。夢中で口づける。開放する瞬間、「好きだ」と口にした。
「お前のことが、好きだ」
「う、嘘だ……っ」
「……嘘などつかん」
 滑らかな脇腹に手を這わせ、胸の尖りを軽く摘んだ。彼の顔が赤くなる。親指と中指で摘んだまま、人差し指で先を愛撫する。口をぱくぱくさせている彼が、愛おしくて堪らない。
「私のような者で構わないのか?お前なら、言い寄って来る者も数多くいるだろうに」
 唇で、首筋に触れる。
「いくら言い寄られたって…………俺の気持ちが……そいつに向いてなけりゃ、意味がねえだろ……っ」
「…………そうだな」
 指先を滑らせて彼の先走りを掬う。ひくん、と喉を鳴らした彼の両脚を、大きく開かせた。
 細く、適度に筋肉がついた脚。健康的で清潔な脚の間でひくついている窄まりに、そっと指を押し当てた。
「あ……っ!」
 先程少し触れただけだったが、その場所が酷く狭いことは分かっていた。指を入れることも厳しい。
 どうしたものかと逡巡していると、エッジがぽつりと呟いた。
「…………あっちの、棚の上」
 一瞬だけ指差した彼は、恥ずかしげに顔を背けてしまう。
「ずっと前に買ったっきりで使ってねえ香油があるんだ。……本当は使おうと思ってたんだけどよ、よくよく考えてみたら、忍者が香油の匂いをさせてたら駄目だよなあとか思って使えなくて……」
 隣の棚に向かい、隅に追いやられていた小瓶を手に取る。蓋を開くと、甘い花の香りがふわりと漂ってきた。
 ベッドに戻ると、彼はどうしていいかわからないといった顔をして横たわっていた。
「……本当にいいのか?」
「お、おめぇの方こそ、どうなんだよ……」
「嫌なはずがないだろう。本当は、今すぐにでもお前の中に入りたい位だ」
「……っ!」
 片足を大きく上げさせて、香油の瓶を傾けた。「ひっ」とエッジが悲鳴をあげる。瓶が空になったところで、指を含ませていく。
 香油で滑ったその場所は、私の指を拒まなかった。
「ああ、あ……!」
 根元まで飲み込ませてから、ぐるりと指を回す。
「……やっぱ駄目だ、やめ……っ」
 香油の在り処を教えてくれた位なのだから、本気で嫌がっているわけではないのだろう。思いながら、慎重に、二本目を挿入していった。
「き、きつ……ルビカンテ……ッ」
 エッジの手が伸ばされ、私はその手を握りしめた。彼の顔には怯えが浮いている。何だか、彼を苛めているような心持ちになってきた。
 指を抜き、「これ以上は、やめておこう」と体を離そうとする。と、私のマントに、彼は必死でしがみついてきた。首を横に振っている。
「……やめなくていい」
「しかし」
「少しくらい痛くても、俺は何てことねえから……」
 “何てことない”なら、どうしてそんな顔をしている。
 問いかけようとして、やめた。
「……分かった。お前の言うとおりにしよう」
 言うと、エッジは微かな笑みを作ってみせた。それから、小さく頷いた。



 彼の額に浮く汗が、全てを代弁している。
 必死に喘ぎを殺しながら、エッジは私に身を任せていた。
「……う……んんっ……ん……」
 指の抜き差しを繰り返すたびに、びくん、と細い体が跳ねる。
 指を飲み込むだけで、これなのだ。私のものを受けいれられるかは分からなかった。
「痛くないか?」
 この問いかけも、何度目になるだろう。首を横に振りながら、「何回も聞くなよ、恥ずかしいだろ」と息も絶え絶えに彼は言った。
 本当は辛いだろうに。
 もういいだろうか、とゆっくりと指を抜いていく。
「ひぁ……っ!」
 瞬間、エッジは大きな悲鳴をあげた。
「そこ、変……っ」
「……ここか?」
 やや浅い場所で指を回すと、エッジは耳まで真っ赤にしてぶるぶると震えた。苦痛を堪えているという風ではない。あまりの快感に、言葉を失っているようだった。
「入れるぞ。力を抜いていろ」
 エッジは大きく息を吐き、吸い込み、深呼吸をしている。
 自らのものを取り出して、先端を潜りこませた。
「あぁ……あ」
 一番太い部分を入れられるかが問題だった。中は何度も収縮を繰り返し、引きちぎりそうな勢いで締めつけてくる。徐々に入れていこうと思っていたのだが、このままではいつまで経っても全てを収められそうになかった。
 エッジの腰を掴み、強めに引き寄せた。
「ひあああぁーっ!!」
 私の手に爪を立て、叫ぶ。ぼろぼろと涙を零す。私の背に、甘い痺れが走った。彼の中は、熱くうねっている。今すぐにでも動きだしたい衝動に駆られたが、何とか理性で押さえ込んだ。
「エッジ……大丈夫か」
 しゃくりあげながら、エッジは頷く。
「うごい、て…………いい、から……」
 誘うように、腰を揺らめかせた。
 その動作は、私の理性を擦り切れさせるには十分な力をもっていた。
 ずるり、引き抜き、杭を打ち込む。
「んんん……っ!」
 彼のものは立ち上がり、甘い蜜を垂らしている。彼も感じているのだと思うと、素直に嬉しかった。
「ルビカンテ……ッ!」
「……ん?何だ……?」
「好きだ……好き……」
「これ以上煽って、一体どうするつもりだ……」
 苦笑しつつ、挿入したまま彼の体を抱き、横たわった。彼が私の上に乗る格好になる。腰に手を添え、突き上げた。
「あぁっ!」
 私の胸に、透明な液体が散る。それは、エッジの先走りだった。
 瞳を彷徨わせながら、快楽を追っている。
 その淫奔にも見える表情に、私は私を止められなくなるのを感じていた。
「……は、あぁ……、んん……っう、んっ、ん……」
 香油が泡立ち、ぐちぐちといやらしい音をたてる。内部を掻き回しながら、私は彼のペニスを扱いた。
「ひあ、あぁっ、あ……ん、あっ」
 結合部は赤くなり、おそらく苦痛を感じていないはずはないと思うのに、乱れる彼を見ていると、それすら分からなくなってしまう。
 途端、ぎゅっと中が締まった。私の腹に、今度は白濁が散っていた。エッジが、こちら側へ倒れてくる。潤んだ緑色の瞳の美しさに見とれながら、私は彼を抱き起こした。
 突き上げを、止められない。
「まだ、動くな……っ」
 快楽が強すぎるのかもしれない。放出したばかりのはずの彼のペニスは、また立ち上がり始めていた。
「また、いっちまう……あ、ああぁ、あっ!」
 そして、あっけなく達してしまう。
「……おかしく、なっちまう……よ……っ」
「……なってしまえばいい」
「あ……っ、あぁ、あ……ひ……!」
 彼の顎から、汗なのか唾液なのか、それとも涙なのか、区別がつかない液体が滴り落ちる。ベッドが悲鳴をあげ、それに重なるように彼も喘ぐ。
 限界だった。
「出しても……いいか」
 腰にやっていた手を、彼の頬に添えた。エッジは、頬を私の手に擦りつけ、にいっ、と笑う。
「……出せ、よ……っ」
 頷き、わざと煽るように、私の指をぺろりと一舐めした。
 舐められた場所から、強い快感がやってくる。律動を早め、それを追った。
「……ルビ……カン、テ……ッ!ひぁっ、あっ、んん…………ん……っ!」
 彼の甘い喘ぎに更に煽られ、注ぎ込む。
 目の眩むような快感だった。
「あ、ああぁっ!」
 同時に、また彼は達する。
 覆いかぶさるようにして倒れてきた彼の体を、強く抱きしめた。



「う……動けねえ……」
 彼が目覚めて発した第一声は、それだった。
「そこらじゅう痛くて、立てねえぞ……」
 もう、朝日が出始めている。こんな状態の彼を置いていくのは忍びなかったが、モンスターである私はこの部屋を去らねばならなかった。
 勿論、彼の体も部屋も、綺麗にはしておいたが。
「……シーツは、お前が寝ているうちに新しいものに換えておいた。汚れている方は、私が洗濯して返すことにしよう」
「お、おめぇが洗濯するのか!?」
 エッジがふき出す。
「お前の汚れがほとんどなのだが、まあ……私が汚したも同然だからな」
 かあっと赤らんだ彼の頬に、そっと口づける。
「一人で大丈夫か?」
「……大丈夫に決まってんだろ、こんなの平気だ」
「今夜、また来る」
「……無理に来なくていい」
「私が来たいんだ」
「…………なら、来ればいい」
 待ってるから、と。
 上目遣いで、彼は微笑んだ。



End


Story

ルビエジ