頬に触れてくる、カインの冷たい指先。薄闇の中で、彼はそっと微笑んでいた。
「……貴方は何故、兜を取ることを嫌うのです?」
シーツを纏った白い裸体が、月明かりに照らされ、ぼんやりと輪郭を失っている。
微笑は淡く、触れれば消えてしまいそうだった。
今更そんなことを訊く理由は何なのだろうと思いながら、「お前と同じ理由だ」と返答すると、金の睫毛が瞬いた。
「……俺と同じ、理由?」
乱れた髪を掻き上げ、彼はぽつりと呟く。遠くを眺めるように、目を細めた。
思い当たることがあったのだろう。黙り、何かを考え始める。
「……俺があまり兜を脱がないのは、他人に表情を見られるのが好きではないからなのですが……ゴルベーザ様も、そうなのですか?」
閉じていた唇を開いて、カインは私の顔を覗き込んだ。
「ああ。同じだ」
青い瞳に、彼に惹き付けられて身動きがとれなくなっている、私の姿が映っている。
どんな宝石よりも美しい――もっとも、宝石を美しいと思ったことはなかったが――瞳は、晴れ渡った空のように澄みきっていた。
私は、兜を脱ぐことを嫌っている。
表情を見られたくない。その一心で、私は甲冑の中に私自身を封じ込めていた。
「笑顔も、どんな顔も……他人には、見せたくない。何故だろうな。昔から、そうなのだ」
「……他人に表情を見せることに、恐れを抱いているのですか?……あ……」
言ってから、「しまった」という顔でカインは口を真一文字に結んだ。
「申し訳、ありません……失礼なことを……」
「構わん。本当のことだからな」
困り果てた顔をして、カインは目を逸らす。
頭を抱き寄せ口づけると、彼の頬が、薄紅色に染まった。
「……私は、心のどこかで、機械になることを望んでいるのかもしれん。何も感じず、何も恐れない。表情一つ変えない、単なる機械になりたい、と」
「ゴルベーザ様……」
「不思議なものだな。お前が側にいると、何故か饒舌になってしまう」
悲痛な眼差しで私を見、彼は首を横に振った。
「饒舌で、いて下さい」
柔らかな唇。彼の髪がくすぐったくて、けれどそれすら愛おしくて、思わず笑みが零れる。
月の光がよく似合う青年。けれど本当に似合っているのは眩しいほどに煌めく太陽光なのだということを、私は知っていた。
知っていながら、私は彼を閉じ込める。光とは対極にある場所で、彼が堕ちてくるのを待っている。
「もっと、教えてください。俺が知らない、貴方のことを」
共に堕ちた、その先にあるものとは何なのか。
彼を腕に抱きながら、ただ、果てのない闇を見つめていた。
End