「おーい! 遅かったじゃねえか!」
小さな鍋を持った男が、これまた大きな声をあげながら、そこに立っていた。
「今日は、味噌汁と焼き魚、それからおひたしに……って、おい、聞いてるかー?」
むっと顔をしかめて、男は拗ねたような顔をしてみせる。
「……エッジ」
思わず名前を呼んだ俺に、エッジはぶんぶんと手を振った。
「早くこっちへ来いよ! 冷めちまうだろ!」
岩場にいる俺に向かって、大きな声で。
「一緒に食べようぜ!」
***
渋々、といった態度で、カインは俺の前に座った。
いつもそうだ。カインは無表情のまま、ここに腰掛ける。
ゼムスを倒した後、カインは試練の山に篭もるようになった。独りバロンを離れて、『修行』に明け暮れるようになった。
――――勿論、セシルとローザの戴冠式に、カインの姿はなかった。
俺は、カインのことが気になっていた。放っておけないやつだと思っていた。
もう操られることはないかもしれない。けれど、独りにしておくことなんてできなかった。
もしかしたら、兄弟がいたらこんな感じなのかもしれない。
俺がカインに抱いている感情は、肉親へのそれによく似ていた。
「…………不味いか?」
「……いや」
首を横に振って、カインは魚を口に入れた。咀嚼し嚥下して、俺の方をちらと見る。
「……美味い」
微かに唇の端を上げて、カインは小さく呟くように言った。
「なら良かった」
俺が笑い返すと、慌てて視線を逸らされてしまった。どうすれば良いのか分からないといった顔で、今度は味噌汁を飲んでいる。
食事は淡々と進み――――けれど腹が減っていたのか、カインの食器はあっという間に空っぽになった。
食事の後は、話をするのがいつもの流れだった。
高く跳ね、カインは少し離れた岩場に立った。俺がカインを見上げる形になる。
「もう、これで12回目だ」
「……12回目って、何が12回目なんだよ」
「お前が俺に……食事を作って……それから、待っているのは、もう12回目なんだ」
「よく数えてたな……。もうそんなになるのか」
「ああ」
献立は毎回変えている。カインの好物はなんなのか、というのも、何となく分かってきた。
だが、俺はカインに伝えていない。何故俺がカインの元へ来るのか。何故、食事を作って待っているのかを。
カインは俺を変人か何かだと思っているかもしれない。
いや、実際、変人なのかもしれなかった。
「……何でほっとけねえんだろうなあ。かわいい姉ちゃんでもねえのに、こーんなガタイのいい男に、何で毎週毎週俺は――――」
「それはこっちの台詞だ」
金の髪が風にさらりと靡いた。泣き笑いのような表情を顔に浮かべ、途方に暮れた色を瞳に落としながら、カインは首を横に振った。
「俺には……お前の意図が、分からない」
「ほっとけねえんだよ」
「……それはもう、聞いた」
「お前のその顔が……ちっちゃい子供みたいに見えて……迷子みたいに見えて。どうしてもほっとけねえんだよ……」
ぱちぱちと何度か瞼を瞬かせて、カインはまた唇の端を上げた。まるで、笑い方を知らない子供みたいな表情だった。
どうしたら、カインは笑うんだろう。カインの笑顔は、どうやったら見られるんだろう。
涙が出そうになって、ぐっと唇を噛んだ。
End