自分の肌の色よりもずっと白い背中が、汗ばんで震えている。その背は微かに薄紅色に色づいていて、見ていると果てのない嗜虐心に襲われた。
――――嗜虐心? 違う、これはもっと――――。
 己の胸の内にある感情の正体が分からぬまま、白い腰をぐっとこちらに引き寄せる。ぱちゅん、といやらしく濡れた音がして、「あ」とどろどろにとろけた声が目の前の男の口から溢れ出た。腰を揺すると繋がった場所から白濁が流れ、それと同時に痺れるような甘い快感が脳の奥を焼いた。
 快楽は便利だ。混ざりあってぐちゃぐちゃになってしまった思考を快楽一色に染め上げてくれる。無駄なことを考えずに済む。愚かな考えを殺してくれる。
「……っう、あ、あぁ、あっ」
 上ずったかすれ声が部屋の中に響く。男が力なく首を横に振る度、金色の髪が蝋燭の灯りに照らされてきらきらと光った。
 男は美しかった。汗にまみれて、精を吐き出して、肚の中に幾度も欲望を注がれても、それでもなお美しさを失わなかった。瞳が特に綺麗で、正面から対峙していると全てを見透かされてしまいそうな気がした。恐ろしい瞳をしていた。ずっと見ていたくなるような瞳をしていながら、男の瞳は私に恐怖心を植え付けた。
 洗脳の術で従順にしてもそれは変わらなかった。男の瞳の奥底にある本質が、私に恐怖心を与えているのだろう。私は男の瞳を見ぬよう心がけた。瞳を見ずとも、体を繋げることはできる。
 カインの中がきつく締まった。どうやら達したようだ。男は「お許し下さい」と小さく呟いた。
 乞うて当然の言葉だった。もう何時間繋がっているかも分からない。繋がった場所はひくつき、彼の足は四つん這いでいることすら辛いと言わんばかりに震えている。
「……ゴルベーザ、さま……っ」
 乞われた言葉を無視して、今度はゆっくりと抜き挿しを繰り返した。男の体は逞しい人間の雄そのものであるはずなのに、その姿はどんな女より劣情を煽った。一度抱けば満足するだろうと思っていたのに、何度抱いても足りない。それどころか乾きはひどくなるばかりだ。
 抱けば抱くほど腹が減る。疼いて、欲しくて、止められなくなる。
 カインのペニスに触れてみる。達し過ぎたモノはもう白濁を吐き出すこともできず、透明な液体をだらだらと垂らし続けている。人の体は魔物の体よりもずっと脆くて、こんな日々を続けていればいつかこの男は死んでしまうのではないかと思った。
 どうせ、いつかは奪わなければならない命だ。それならば、思う存分抱いて、抱き潰して殺してしまいたかった。
「っひ! い、ぁ、あ、もう、中、は、中、いやで、すっ、いや、出さな、っ、で……!」
「……何故だ?」
 震える声で、カインは「こわい」と言葉を紡いだ。「このまま溶けて自分でなくなってしまいそうでこわい」と。
 どうせなら溶け合ってしまいたい。カインの腰を痕が残りそうなほどきつく掴み、下生えが尻に触れる位深い場所まで突き挿れる。
「…………っ!」
 声もなくカインの体がびくびくっと痙攣した。奥の奥、今まで触れたこともないような場所に先端が当たっている。カインはひゅうひゅうと喉を鳴らしながら、私のモノを受け入れていた。
 カインは今どんな表情をしているのだろう。見てみたい。けれど見たくない。これほどまでに蕩けている今なら、カインの瞳は力を失っているのではないか。いつものようにこちらを射抜いてくることはないのではないか。
 『カインの顔が見たい』という欲望に負け、彼の腕をぐっと引いた。「こちらを向け」と命じ、繋がったまま、カインの体を仰向けにする。慌てた様子で、カインは自らの顔を腕で覆い隠した。
 言葉を発さず、彼は緩慢な動作で首を横に振る。膝の裏に手を差し入れ、折りたたむように体重をかけた。
「あっ!! あっ、あぁ、あっ!」
 男の体はやわらかかった。体がしなやかでなければ竜騎士は務まらないのかもしれない。そのしなやかさをこんなことに使われるなんて、カインは思ってもみなかっただろう。
「腕を退けて顔を見せてみろ、カイン」
 カインは首を横に振る。もう体力は限界であるように見えるのに、それでも彼は強情に顔を隠し続ける。
 強引に、その両腕を押し退けた。
「あ……!」
 白いかんばせが、蝋燭の橙に照らされる。
 揺れる瞳は蕩けきってなどおらず、それどころか普段以上に真っ直ぐな色を残していて。
 それはまるでそう――――洗脳の術になんて少しもかかっていないかのような、やさしく、あまく、切ない眼差しで。
「……お前、術が」
「……見るな……」
 悪戯している所を見つかってしまった幼子のような表情で、カインは儚く呟いた。
 カインの瞳を見ぬようにしていたせいで、いつから術が解けていたかも分からない。
 では、この男は自分の意志でここにいるのか。思いもよらぬ事実に鼓動が早くなる。
「……忘れて、くれ、ゴルベーザ……」
 男はどんなつもりで私を欺いていたのだろう。普通なら『私の寝首を掻くため』だとか『内部から組織を崩壊させるため』といった考えが思い浮かぶ所だが、カインにはそのつもりは全くなさそうだ。
「……また、術を……。俺をもう一度操ってくれ、ゴルベーザ……俺は帰りたくない……お前の傍で、ずっと……」
 私の手に頬を擦り寄せて、カインは静かに涙を流す。祈るような表情だった。
「ずっと、俺は……」
 蝋燭の灯がふっと掻き消える。
 もう一度術をかけるか、それともこのままにしておくか。
 選べぬまま本能に任せて腰を揺すると、「ゴルベーザ」と甘い声音が私の耳を擽った。



End


Story

ゴルカイ