すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。
人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。
世界人権宣言より抜粋
姫君の寵愛(外伝)
真の第一話:化け物
いつもと変わらぬ憂鬱な朝。
私はそれをいつもと変わらぬ憂鬱な心持ちのまま迎えた。
やたらめったら広い部屋の中で私はいつも通りの朝を迎えたわけだ。
学生服に手を伸ばしかけたところで少し思案する。
今日は日曜日だ。
学校があるはずがない。
私はあきらめてその女子校の制服をおろした。
そのとき、部屋の扉がノックされた。
「おはよう、アキナ。昨日はよく眠れたかい?」
しらじらしい。
昨日寝させてくれなかったのは他ならぬこいつだ。
冬月ヨシト。
私の義理の兄。
そして主人。
服を着ていないが気にする必要など無い。
こいつを相手にするのに服など必要ない。
「餌を持ってきたんだ。入ってもいいかな?」
本当にしらじらしい。
入りたければこの男はいつでも私の部屋にはいってこられる。
逆に私に自由はない。
化け物、である私の生活はここの人間によって完全に管理されている。
がちゃり・・・
案の定、すぐに扉が開かれた。
大学生ぐらいの男がそこに立っていた。
男は私の身体をぶしつけに眺め回す。
「相変わらずきれいだな、おまえは。」
「ありがとうございます、ヨシト様。」
もう7年間もこんな生活が続いている。
男は丸い皿の上に乗せられたご飯を部屋の調度品の一つである丸テーブルの上に置いた。
「おいで。」
テーブルの横に立ち、私を呼ぶ。
私は言われた通りに彼の目の前まで歩み寄った。
「ふふ・・・いい子だ。」
男が私の頭を撫でた。
「じゃあ、始めてもらおうか・・・。」
「はい。」
ひざまずき、男のズボンをおろす。
ぐんにゃりとなった肉ホースがぼろり、と目の前に差し出される。
私のすべきことはそれをくわえ、射精させること。
それだけだった。
「ご奉仕させていただきます。」
毎日のように繰り返していること。
単純な作業だった。
指の合間に涎を絡め、どろどろになった手でホースを根本から包み込む。
ぐちゃ、という音とともに右手の平がホースに完全に密着した。
うっ・・・という呻きがヨシトの口から漏れる。
ぴくり、と手の中のホースが反応した。
やろうと思えばいつでも殺せる。
こんなふうに急所を相手にさらけ出すなんて・・・ばかげたことだ。
以前の私なら迷わずそういっていただろう。
けど今は違う。
いつからだったか、私はこの男を受け入れた。
言い方がおかしいかもしれない。
いつからかこの男は私の生活に入り込んできていた。
記憶がない。
はじめからこうでは無かったと思う。
だが、私はこの男もこの生活も自然なものとしてとらえている。
「もう少し・・・強くしてくれないか・・・?」
言われたとおり、握りを少しだけ強くする。
掌の中で男のものが少しずつ大きくなっていく。
何の感動もない。
ただの肉塊。
「ああ、もういいよ。」
男は自分のものが完全に大きくなりきる前に私を制止した。
手を止め、男を見上げる。
「後は口でしてくれ。」
笑っている。
何がうれしいのだろうか?
わからない。
私が男ではないからだろうか?
「ほら、早くしろ。意味は分かっているんだろう?」
威圧的な口調で命令してくる。
言われなくても・・・望むのならいくらでもする。
ただ・・・準備する時間ぐらいくれてもいいと思う。
ぐぷ・・・
のどの一番奥までくわえ込むとくぐもった水音が聞こえた。
(うぷ・・・)
少しやりすぎた。
のどの奥でさらに大きくなろうとする亀頭に私の口がついていかない。
吐き気がした。
きつい刺激臭とのどのおくにからみつくカウパー線液の苦み。
なぜこの男は私にこんなことを強要するのだろうか?
わからない。
7年間ずっと暮らしてきたのに私はこの男のことを何も知らない。
もっと簡潔に言えば・・・私は人間という存在を知らない。
道徳の教科書に載っているような人間に私はあったことがない。
知っているのは私から遠ざかろうとする存在と、私を支配しようとする存在だけ。
完全な縦社会。
その中で私は育ってきた。
「おい、動けよ。」
ヨシトの手が私の髪をむんずとつかんだ。
私の顔を押さえつけ、急速にピストンさせる。
ぐっ、ぐっ、と何度ものどの奥に亀頭が突きつけられた。
そのたびにむせかえりそうになるのを何とかこらえる。
そんな私のことなどお構いなしにヨシトは私の顔を何度も何度もふった。
私の顔が疲れてきたころ、男のものが急に膨張した。
「おい、化け物、もう出る。・・・こぼすなよ。」
そういった瞬間、ヨシトは私の口の中に白濁を吹き出していた。
一定の周期できっちり三回。
そこで白濁の噴出は止まった。
その後は急速に縮んでいく。
情けない。
口の中に白濁を残したまま私は大きく息をすった。
そして、次の瞬間には口の中に入っていたものをすべて胃の中に流し込んでしまう。
まずい。
苦いしぴりぴりした感触は残るし、何もいいことがない。
「うまいか?」
それをわかってこの男はこんなことを聞くのだろうか?
だとしたら一発ぐらいぶん殴っても罰は当たらないのかもしれない。
・・・・・・どうせできはしないのだけれど・・。
以前この男を殴ろうとしたときは何か訳の分からない力に押しとどめられた。
その前も・・・そのまた前も同じだった。
男に対しての殺意は勝手にうち消されてしまう。
殴ろうとして手を上げてもその手が男に届くことはない。
だから私は抵抗をあきらめた。
本当なら私の方が立場が上であるはずだという事実も・・・忘れた。
「おい、うまいかって聞いてるんだよ。」
ヨシトが私の髪をつかんで無理矢理立ち上がらせる。
ひょろっとしてるくせに身長だけは高い。
私も学年では一番背が高いのだけれど・・・それでもこの男の肩までしかない。
「ええ、とてもおいしいわね。」
にっこりと笑いかけ、媚を売る。
満足したように男がうなずいた。
こんなものは質問ではない。
男もそのことは知っているはずだ。
これが本心だなんてこいつは思っていない。
ただ私を支配しているという事実を確認したいだけだ。
その証拠に・・・・。
ぼぐ・・・
私の腹を殴る。
痛みなど感じない。
私の身体はそんなにやわじゃない。
筋肉質を硬化させればそれだけですむ。
銃弾やナイフの力がないと私の皮膚は切り裂けない。
それをわかってなおこの男は私を殴る。
痛むのは自分の手なのに・・・。
ぴくりとも反応しない私と自分の手を押さえて顔をしかめるヨシトと。
これでは私が加害者だ。
化け物である私を手なずけたつもりでいる哀れな猛獣使い。
私はその手を取り、なめる。
痛むほどに強くなめる必要など無かろうに。
まるでそれが当然であるかのごとく血の滲んだ手に舌をはわせていく。
今このまま歯をたてれば・・・。
そんな考えが頭をよぎる。
やめよう。
どうせできっこない。
私は檻の中の化け物なのだ。
猛獣使いに媚を売っていればそれでいい。
なめられている間、ヨシトは情けなさそうな顔で私の部屋に一つだけある窓から見えない外を眺めていた。
鉄格子がはめられている上にブラインドがおろされている。
たまに昔話なんかで外ばかり眺めているヒロインがいるけどあんなもの馬鹿以外の何者でもない。
そんなことをしていても小鳥とおしゃべりできるようにはならないし、魔法使いも来ない。
ましてや人間であっても化け物であってもする事は他にもっとたくさんある。
いつまで見ていても何の役にも立たない空を見上げている時間などあろうはずもないのだ。
そんなことを考えている間にヨシトはこちらに向き直っていた。
「もういいよ。」
「そう?」
「ああ、そっちのベッドで仰向けになって。・・・そのままじっとしているんだ。」
言われたとおりにさっきまで寝ていたベッドにまた横になる。
羽毛の布団が心地よかった。
ヨシトは私の股の間に潜り込むと陰部に舌を這わせ始めた。
ざらざらした感触が大陰唇を押し開く。
その瞬間、無意識のうちに足が男の頭を抱き込むような形で閉じた。
体中に軽い電気ショックが走ったようになる。
能動的な快感というものはまだわからない。
だが、この受動的な快楽に、私はひたすらに弱かった。
「あ・・・く・・・」
押さえようとしても声が漏れる。
体中が熱を持っているみたいにあつかった。
ほんの少しさわられただけなのに私の陰部にはバルトリン染液がしみ出してきていた。
それに気をよくしたのかヨシトの舌の回転のスピードがあがる。
クリトリスと膣口が同時に快楽にさらされる。
一瞬で私の身体は地上から引き上げられていった。
比喩ではない。
電流が私に布団の上でとどまっていることを許さないのだ。
頭と足先だけを残し、身体が弓なりに反り返る。
私はそのままあっけなく果てた。
全身の筋肉が弛緩し、尿道口がだらしなく開く。
中から大量の液が散った。
いわゆる潮吹きと呼ばれる現象だった。
「はは、相変わらず感度がいいな。」
ヨシトが笑う。
本当はそんな単純なものじゃない。
エヴァとのシンクロのために強制的に高められたA10神経の感度。
快感神経、もしくは多幸神経と呼ばれるそれが私に拷問のような快感を与える。
もしヨシトが私を壊せるとすればこの神経を利用するのが一番早いだろう。
だが、ヨシトはそれをしない。
今日も・・そうだった。
私が果てたことを確認した後はゆっくりと私が帰ってくるのを待っている。
それ以上の高みへ連れて行こうとは絶対にしない。
もっとも今でも殺人的な快楽であることに代わりはなのだけれど・・・。
「帰ってきた?」
べとべとになった顔をタオルで拭きながらヨシトが声をかけてきた。
私は荒い息のままで答えることなどできはしない。
顔をヨシトの方へ向けようと思ってもだるくて動かせない。
それでも身体の火照りはさめてきていた。
そして、そのことは私よりもヨシトの方がよく知っていた。
ゆっくりと覆い被さってくる。
弛緩したままの私の身体はすんなりとヨシトのものを受け入れていた。
ごつり、と子宮口にヨシトのものが当たる。
その瞬間、私は早くも二度目のエクスタシーに達していた。
「あ・・・ふあっ・・・」
「早いな。・・・俺はそんなに早くいけないんだ。動くぞ。」
もうどうにでもなれ。
私にはこれ以上耐えることはできない。
結局三回打ち付けられたところで私は意識を失った。
三擦り半という言葉があるらしいけど・・・女性でそれは私ぐらいだろう。
「まだ・・・だめなのか?」
目を覚ました私に声をかけたヨシトは悲痛そうな表情だった。
「何のこと?」
「ふざけるな・・・7年。もう7年も立ったんだぞ・・・。」
ヨシトと私の会話はつながっているようでつながっていない。
こんなことは今まで無かった。
これほどに落ち込んでいるこの男を見るのは初めてだった。
「何でだ・・・何で・・・おまえはこれほどに俺に逆らわずにいるのに・・・何で最後の最後におまえは俺を拒絶する・・?俺は・・・。」
しばらく話を聞いていてやっとわかった。
どうやら私はヨシトが射精しようとした瞬間に彼を蹴り飛ばして拒絶しようとしているらしかった。
だがそんなことを言われても困る。
私は気絶していたのだ。
記憶すらない。
「まだ・・まだあいつに勝てないのか・・・あんなガキの記憶に・・・。」
ガキ。
誰のことだろうか?
私の記憶に子供はいない。
恋人がいた記憶もない。
男など薄汚れた大人たちしか知らない。
女子校の友達の言うすてきな男性になんかあったことはない。
ずっと男のペットとして生きていた・・・はずだ。
「あいつって・・・誰?」
「あ?おまえ覚えてねえのかよ?くそっ・・・・赤城のやろう・・・俺はおまえと同じだけこいつと過ごしてきたのに・・・7年待ったのに・・・」
ヨシトはまだなにか言っていたがそこから先は私には聞こえなかった。
まるで何かがはじけたように頭の中に記憶が戻ってくる。
赤城。
ガキ。
二つの言葉が頭の中でつながった。
不合理なんて無かったはずの記憶に風穴があいた。
「赤城・・・赤城シンジ・・・・・うそ・・・なんで・・・。」
なぜ忘れていたのだろうか?
自分の夫。
最愛の人間。
私の知っている数少ない人間。
「あなた・・・だれ?」
知らない男がそこにいた。
・・・いや、知っている。
初めてここにきた日、私と一緒にこの男もここへきた。
ここの主人の遠縁の親戚の子。
そう言っていた。
「なにを言っているんだアキナ?ヨシト。冬月ヨシトだよ・・・。おまえの兄さんじゃないか。」
にじり寄ってくる。
私はその恐怖に耐えられなかった。
男の左の頬を力の限り引っ掻く。
バリ、という音とともに血が飛び散った。
男の左の頬に4本の爪の後が走っている。
呆然としている主人の顔。
それを見た瞬間、私は反射的に謝っていた。
「あ・・・ごめんなさい・・・・ヨシト様・・・。」
その声に意識を取り戻したヨシトがはじめはふらふらと。
やがて何事か叫びながら走っていってしまった。
追えない。
いくら私でも鋼鉄製の扉を突き破ることはできない。
だがこれ以上ここにいても私はあの男を傷つけてしまうだけだ。
それは私の望みではない。
・・・記憶が錯乱している。
私は私のために動けばいいはずなのに。
シンジ君を捜し出せればそれでいいはずなのに・・・。
私はさっき青年が見ていた窓に目をやった。
鉄格子が鈍いきらめきを放っている。
破れるだろうか?
細い格子が全部で5本。
試しに手で押し広げてみたらがくりと動いた。
動かせる。
なら私の力でどうにでもできる。
私は洋服ダンスの中に入れられた数少ない普段着用のワンピースを取り出してそれを着込んだ。
そのまま格子を蹴り、吹き飛ばす。
気がついたときには私の体は私がさっきまでいた三階と同じ高さで空中に飛び出していた。
ドン、という着地音。
身体を折り曲げ、可能な限り衝撃を殺す。
一緒に落ちてきた格子が派手な音を立てて散らばった。
行き先は決めていない。
これからどうなるかなんてどうでもいい。
私は夢中で外へとかけ出していった。
そして、気がついたら一年に一度だけ来る墓地に入っていた。
そして物語は始まった。
少女は思いだした。
優しかった過去の自分と。
完全な縦社会で暮らす自らの持つ記憶と。
過去の家族たちと。
すべて思い出した。
戦う運命が彼女を突き動かしていく。
いかなる破錠も飲み込みながら・・・・。
あとがき
どうも、ダークパラサイトです。
ああ、石投げないで。
これでも精一杯やってるんですから・・・。
・・・と、それはさておき今回のこれ、実は本編に組み込みたいんですよね。というのもこれがないと本編が矛盾だらけになっちゃうんですよ。何でアキナの性格があんなに残酷なのかとか、コウシロウの家から出てきた理由とか、そこに子供、しかも男の・・がいる理由とか。・・・かすい様が許してくれたらな・・・。
ちなみに余談ですがセナとアキナは完全に対照の存在として書いています。(作者の自己満足のため)体格的なものを含め、性格、行動パターン。ほとんどが正反対なんです。ここを見つけられた人がいたら・・・その辺も参考にしてほしいですね。
蒼來の感想(?)
・・・・・・・・暗いよー!狭いよー!!怖いよー!!(何か違うw)
しかし、アキナちゃん不憫だなあ(T-T)ダラダラ(T^T)ズルズルー
ホントに人形みたいに諦めてるし・・・・(──┬──__──┬──)
ええと、ダークパラサイトさんから強引(?)に頂いた18禁用のSSなのですが・・・上記の感想になってしまった_| ̄|○
このSSはかすいさんのHP〜楓桜 かすい亭〜にダークパラサイトさんが投稿している「姫君の寵愛」の外伝となります
かすい亭さまにある「姫君の寵愛」をお読みになってからの方がより理解よく読めると思います
読まれた方々はダークパラサイトさんに感想を送りましょう!!
