ダークパラサイトさんの短編集
GAME
ものすごい熱だった。
コクピット内の温度計は見事に振り切れ、あちらこちらで破れた水冷用ケーブルからはもうもうと蒸気が立ち上っている。
ノーマルスーツ越しに伝わってくる温度が、息をする事さえ困難にさせている。
「・・・・・・まずいな・・・」
その中で、俺は酷く冷静だった。
「このままだと死ぬ・・・かな?」
計器など見るまでもない。
エンジンのメルトダウンは、既に始まっている。
時間なんて、在って無いようなものだ。
ボゥン
鈍い爆発音と共に、機体の左腕が千切れ飛んだ。
熱にやられたのだろう。
少し飛んだ後、地球との大気摩擦でその腕は砕け散ってしまう。
「・・・まあ、しょうがないか」
紙切れのようになった機体の中で足掻いても仕方がない。
死ぬときとは、得てしてこのようなものだ。
「にしても・・・暑いな・・・。」
死ぬときはなるだけ安らかな死に方をしたいと願っていたと言うのに、この落差はいったい何なのだろう。
ドゥン ゴゥン
続けて二度の爆発音。
今度なくなったのは、右手と、右足と。
そして・・・
ズゥゥン
ようやく、背後から巨大な爆焔が襲ってきた。
「あ・・・。」
何を言おうとしていたのだろうか?
開きかけた口は、その形を保つ事が出来なかった。
ノーマルスーツが一瞬で焼け、剥き出しになった肌も瞬く間に蒸発し、最後まで残っていた骨も、結局は灰になる。
それは目を背けたくなるような悲惨な光景だというのに、俺は、それをじっと眺めていた。
これで終わり。
これでデッドエンド。
バイバイさよならまた来週。
そうなる筈だったのに、何処にも身体が無いまま俺は自分の死を眺めている。
(へえ・・・。)
本当に、良く出来ているものだ。
そう思った。
死の瞬間まで再現してしまうなんて、中々できる事ではない。
暫くの間、宇宙の塵と化した自分の身体と、共に漂いながら、そんな事を思う。
だが、こんな事を考えられるようになったら本当にもう終わりという事だ。
現世の記憶の引き出すためのロード時間。そういうことだったのだろう。
ポーン
そして、こちらの予測よりも遥かに遅れてゲームエンドを示すチャイムの音が聞こえてきた。
それでようやく自分の身体を埋めていたGRGから体を起こす。
(さて、次は・・・。)
ヘッドギアを外しながら、俺の頭の中では既に次の計画が立ち始めていた。
いっそ、ジオン側に裏切ってみると言うのも楽しいかもしれない。
あの世界にいる限り時間などいくらでもあるのだから、たまには絶対にありえないシチュエーションも体験してみるものだ。
熱愛
「お姉ちゃん。どうしてそんなに哀しそうな顔をしているの?」
ある日、公園の片隅で少女に声をかけられた。
母親の趣味なのだろう。
少女の長い髪は頭の両脇で三つ編みにされている。
丹念に振りかけられているらしいベビーパウダーの乳臭さぐらいしか特徴らしい特徴は無かったが、母親からの愛情を一身に受けているらしいという事は分かった。
可愛らしい。
そんな思いが湧き上がり、けれど私は少女の問いに答える事はしなかった。
口にだしたのは、
「ん・・・・・・。」
という返事とも寝言ともつかないような言葉の歯切れだけ。
だって、哀しそうなんじゃなくて、哀しいんだ、なんてそんな事をこんな年端の行かない少女に教えても、何の意味も無い。
私が悲しんでいる理由なんか、説明したって分かりっこない。
「ごめんね・・・。」
だから。
問いに答えるその替わりに。
ーーー殺したーーー
左手で少女の三つ編みをわしづかみ、首をナイフで掻っ捌いて殺した。
血の流れる首を片手に、公園を練り歩き、彼女への追悼と、彼女の「初めて」のお披露目とした。
この子は可哀想でしょう?
この子が哀れでしょう?
だから・・・・泣いてあげてください。
この子のために、哀しみの涙を上げてあげてください。
そんな事を言いながら、公園の中を練り歩いた。
そして、涙をこぼした人を
ーーー殺しーーー
悲鳴をあげた人を
ーーー殺しーーー
気付かずにすれ違った人を
ーーー殺しーーー
ベンチで眠っていた老人を
ーーー殺しーーー
少女の母親らしき人物を
ーーー殺しーーー
ーーー殺しーーー
ーーー殺しーーー
ーーー殺しーーー
ーーー殺しーーー
ーーー殺しーーー
ーーー殺し 殺し 殺し 殺し 殺し 殺し 殺し 殺し 殺し 殺し 殺し 殺しーーー
全ての人。
普段は人気のあまりない公園の中にいた運の悪い二十四人の人、全てを
ーーー殺したーーー
恍惚も、美悦も、悲しみも、何も感じる事がないままに二十四人の命を消した。
「あ・・・。」
そして、気がつけばそこには何時もの血の海が出来上がっている。
その事に、自己嫌悪する。
せっかく待っていたのに。
せっかくあちらから連絡をくれたのに。
また、待ちきれなかった。
恋人の死を、受け入れられなかった。
「ごめんなさい・・・。」
もう何度この言葉を口から吐いただろうか?
世界に対し謝り。
死体に対し謝り。
私に対し謝り。
そして何よりも、彼のために謝った。
「また・・・待ちきれなかったの。」
目の前にいるのは、私の恋人。
全身を醜く変貌させた異形の徒。
ふぎゅるるるる・・・・
耳障りな声が、少年だったものの口から洩れる。
今回は声帯さえ駄目になってしまったらしい。
もう何時もの声が聞こえなくなってしまったのだと思うと、それだけで泣けてくる。
自分の罪深さに、嫌気が差してくる。
ふぎゅうぅぅ・・・
一歩一歩、ゆっくりと近寄ってくる彼の姿に最早以前の面影は無い。
けれど、私は思う。
彼はきっと、何時もみたいに「良いよ。」って、そう言ってくれたのだ、と。
その確信をもてる。
だって彼は泣いている。
私のために、涙を流してくれている。
だから私はその涙に答えるべく、ナイフを構えなおす。
ぎゅびゅああぁぁぁ!!!
だが、後数メートルと言う所まで近づいたところで、少年が歩む足を速めた。
そのことに少し驚き、だが、笑みが洩れる。
私に殺されるために、最後の力を振り絞って駆け寄ってくる。
その姿に、涙が出そうなほどに感動する。
「もう言葉は、要らないか。」
私は彼を愛していた。
彼も私を愛していた。
その記憶。
万感の思いを胸に。
ナイフを。
振るう。
その先に、異形と化した少年の姿を、捉える。
ぴぎ!!
少年の断末魔の叫びが、耳元で響いた。
違える事は、無かった。
ナイフは異形の身体に深々と刺さり、少年の心臓を貫き通した。
「ごめんね。」
崩れ落ちる少年のみ身元で最後にもう一度だけ、謝罪の言葉を空気にのせる。
「あなたには、酷な結果かもしれないけど、世間の誰もがあなたを信じられないとしても、私はあなたを愛します・・・。」
だからせめて、
「願わくば、汝の死後汝の心の安らかならん事を。」
こうして、私はまた独りぼっちになってしまう。
恋人を失ってしまう。
けど、それならそれでいいのだ。
また次の、心の底から愛する事の出来る恋人を探すだけなのだから。
日記
「決めたよ、僕は世界を救わない」
雨の降りしきる学校の屋上で、髪に雫を滴らせながら少年は言った。
その目はどんよりとした空をそれでもまぶしそうに眺め、一歩、フェンスへと近づいてく。
「代わりに、世界を救う勇者を滅ぼします」
かしゃん、とフェンスが音を立てた。
彼が上に座ったのだ。
私はそんな事を言う彼を見上げながら、
「ふぅん」
と言うしかなかった。
「・・・・・・止めないのですか?」
「私に止められるの?」
「・・・いえ」
その言葉で、私達の短い会話は終わる。
彼は、雨に濡れながらもひたすら空を見ていた。
私は、そんな彼の背中をずっと見ていた。
少しでもちょんと押せば壊れてしまいそうな、そんな彼の背中を。
しかし、それが何よりも頼もしく思えるのは、何故だろう。
「それじゃあ――――」
私は言った。
「一緒に、狂おっか」
雨は降りつづける。
遠く、遠く。
心の内までも。
日記2
今思えば、僕はずっとずっと昔から自分の事を嘆いていたように思う。
この世に生を受けてまだほんの二年しか立っていないというころ、僕はこの世に生きていてはいけない存在なのだと、何の気なしに気付いてしまった。
別に、何があったわけでもなく、ただ単に親に買ってもらったアイスを舐めながら道を歩いている最中、そんな思いが胸をよぎり、そのまますっぽりと心のうちにすっぽりと収まってしまったのだ。
それはまるで、自分が生きているのだと認識するのと同じように。
もしくは、自分が人だと認識するかのように。
ごくごく自然に僕の中で確信となった。
そして、その一年後、僕は若干三歳にして自殺を試みて、そして失敗した。
否、それを自殺と呼んでいいものかどうか、正確に言えば僕にはそんな事すら分からない。
勿論、慣例にしたがって状況だけを見るのなら、自ら意思を持って時速六十キロで走行する大型トラックの前に飛び出したというその自殺未遂に至るまでの状況だけを見るのなら、それは明らかに自殺だった。
自殺以外の何ものでもなかった。
そこには確実に自ら死のうという意思が存在し、死への道が開かれていたはずであり、実際に僕が普通の存在であれば死はすぐそこにまで迫っていたはずだったのだ。
ただ、不幸だったのは僕が普通の人間ではなかったという事。
状況が、普通などではあり得なかったという事。
「うわあぁぁぁ!!!」
上がった悲鳴はどちらのものだったのだろう?
いずれにせよ事は、笑ってしまいたくなるほどの一瞬で終わる。
なぜか真っ二つになって僕を避けるように走っていったトラックはそのまま暫く慣性で走りつづけ、そして何が起こったのかすらわからずに立ちすくむ僕の後ろで大爆発を起こして、ようやく止まった。
トラックに乗っていた運転手は爆発に巻き込まれて即死。
道路の脇にあった民家は大破。
そして、自殺をしようとした張本人であるはずの僕は爆発に巻き込まれる形で負った軽い火傷。
これが僕がはじめてしようとした自殺により発生した被害の全てだ。
だが、何も知らない僕の両親は涙ぐんで僕の無事を喜んでくれた。
急にいなくなってわけのわからない事故に巻き込まれた僕を抱えて、本当に生きていてよかった、助かってよかったと、そう言っていた。
そのときのことは、今でも当時の新聞を見れば記事の一枚や二枚は見つかるかもしれない。
最終的には原因不明で終わりを告げることとなったこの事件は一時世間を騒がせ、だが、不思議と僕の周囲で騒ぎになることは無く、そのまま迷宮入りとなった。
そして時は何事も無かったかのように流れ、当然のように僕と言う存在の本質も変わらなかった。
結局、どうやら僕には自分に危害を加えようとするものを真っ二つにする力があるらしいと気付いたのは七歳のとき。
両親を真っ二つにしたそのときだった。
ああ、どうりでドッジバールをしているときなんかにボールが良く割れるわけだ、とか。
血の海の中で僕はそんな事を考えていた。
目の前には真っ二つになった両親の死体が転がっていたと言うのに、今思えばひどく暢気な事を考えていたものだ。
僕はそのころから異常だったのか。
それとも、それがその異常な状況からの逃避だったのか。
今となってはそれすら定かではない。
今となっては何故両親を殺したのかすら覚えていないのだから、そんな些細な事を思い出そうとしても無駄な事だ。
しかしまあ、全てが終わった後で何を思ったとしても、何を考えたにしても、いずれにせよそれは・・・遅すぎる。
密室での殺人事件であったという事。
僕が両親からの返り血を全身に浴びていたという事。
そんな事を抜きにしても十分この事件は面白く、猟奇的で、くだらない。
僕が自分の能力について知った時というのは、世間の人間たち(少なくともその一部)が僕の能力について理解した時と、同義だったのだ。
僕にはもう引き取ってくれるような孤児院も親戚もなく、どうしようもなくなった僕は殆ど付き合いもなかったような親戚たちによってアメリカの妙な施設へと売り飛ばされてしまった。
まあ、結果的にはそれが一番良かったのだろうけど、最善で最良で最高な選択肢だったのだろうけど。
それが他者にとっての最善であったがゆえに、僕はその親戚を随分と憎んだ。
親戚を憎む事と平行に、自分のもつ能力を憎んだ。
何の役にも立たない、自衛のための殺人能力。
自らに死を許さず、他者に危害を加える事しかできない能力。
高いところから飛び降りれば身近なものが真っ二つになって体に引っかかり、入水自殺を企てればまるでモーセのそれのように海が割れ、唯一割れないはずの焔はそれを燃やそうとしただけで専属の監視員にこっぴどく叱られる。
そんな憤りを憤りと感じる事さえ許されないような施設での生活は、かれこれ二年近くも続く事になる。
その間に試した自殺は両の指では足りず、その全ては未遂に終わった。
まるで賽の河原のように全てを徒労とされるのは、あまり気分のいいことではない。
結局僕の自殺未遂は日を追うごとにその頻度を緩め、ようやく落ち着いてきたころ、施設内の学校に通うことが認められるようになった。
あとがき(?)
(メールより抜粋)
この続き読みたいなぁ。というのがあればお教えください。
ちょっと性根入れて書いてみようと思うので。
蒼來の感想(?)
・・・如何しろと?w
つうわけでアンケートにしまーす。
ちなみ蒼來は、「勘弁してください」です。
・・・ダークやサイコ物苦手なんだってばw
でアンケートの結果なのですが・・・・・投票なしなので続かな(ry
集客力不足か(--;