―――起動

―――セクションワン、セット

―――キャラクター変数、固定

―――GRG、スタンバイ

―――G、スタート




misson1―1:『サイド7の悪魔』




ジリリリリリリリリリリ――――

現代では珍しい鐘を鳴らすタイプのアナログ式の目覚し時計の音で、俺は半強制的に覚醒させられた。

慌てて時計を止め、これまでの癖で箪笥の中に入っているはずの服を探す。

「・・・・・・?」

だが、そこに目当てのものは無かった。

クローゼットの中にはTシャツやズボンは入っているものの、自分の知る如何なる軍の制服も入れられていない。

――――人格固定、完了――――

「・・・あれ?」

暫く引っ掻き回した後で、はたと気付く。

さて、俺は一体、何故軍服なんて探していたのだろうか?

確かに連邦とジオンは戦争をしているけれど、その火の粉が中立であるサイド7に降りかかる事など有り得ないというのに。

ましてや、民間人である俺の家に軍服なんて、有ろう筈も無いのに。

「・・・疲れているのかな?」

やけに散らかっている部屋を見回しながら、思う。

考えてみれば、昨日の夜も遅くまでハロの改造に没頭していた。

おかげでつけたかった機能をつけることには成功したものの、疲れていないといえばやはり嘘になる。

「まずいな・・・またフラウに怒られる。」

近場にあるシルバー鍍金の施されたパーツで確認した限りでは隈は出来ていないようだが、だからと言って安心する事など出来はしない。

何しろ以前にはスクールへ向かう途中に眠ってしまい思いっきり転ぶという醜態まで晒しているのだ。

あの時のフラウの怒りようは凄まじかった。

普段はおとなしい彼女のまるで修羅の如き顔は二度拝みたいとはとても思えない。

「・・・・・・あ。」

思考に没頭している間に何をしようとしていたのかを忘れてしまっていた。

パンツとシャツだけで眠っていたのだから、兎にも角にも服を着込まなければならない。

「えっと・・・。」

特に服に好みなど有ろう筈も無く、箪笥の一番上にあった服を適当に見繕って着込んでいく。

そこに――。

「アムロ、起きてる?」

噂をすれば影、というか。

噂をしなくても影、というか。

フラウ・ボウその人が正面から堂々と乗り込んできた。

いつものこととは言え、朝も早いというのにご苦労な事だ。

・・・いや、苦労をかけているのは俺なのだが。

「あ〜、せっかく掃除したのにまた散らかしてる。足の踏み場も無いじゃない。」

口ではそう言いつつも、彼女はぴょンぴょんと跳ねるようにしてこちらまで近づいてきた。

螺子などを踏まないようにとの配慮だったのだろうが、スカートを持ち上げるようにして近づいてきたため肉付きのいい太ももが垣間見える。

幼馴染だから特に気にしていないのか。

それとも、本人に自覚が無いだけなのか。

それは分からないが、眼福である事に変わりは無い。

それとなく、そちらを眺めてしまう。

「でもま、起きてるだけでも上出来かな?昨日は何してたの?」

「ハロの改造。短波式GPSシステムの信号を受信可能にしてみた。」

「へ〜、すっごく無駄な改造に聞こえるけど・・・。」

床に転がっている緑色の球体を手にとり、しげしげと眺める。

「まあサイドでいる限り使うような機能じゃないけどね。簡単な受信機とソフトがあればつけられる機能だから、ものはついででつけてみた。」

何のついでにつけたのかは、言わない。

「フラウ、ゲンキカ?」

「うん、元気元気。おはよう、ハロ。」

何が嬉しいのか、彼女はハロの電子音声に笑いながら答えを返す。

さらにそれに答えるように、ハロが電子ブザーを鳴らす。

そんなやり取りが、暫く続いた。

よくもまあ毎日飽きずに会話が出来るものだと感心してしまう。

もっとも。

彼女とのこの他愛ない会話のためだけに毎日飽きずに機能追加を続けている俺も俺なのだけれど。

「で、さ。一体全体何しに来たわけ?フラウは。」

「ああ、そうそう。母さんが一緒に食事をとらないか?って。別に用事なんて無いんでしょ?」

言いながら、彼女はハロを地上へ置いた。

機械仕掛けのボールは自ら作り出す反作用で時折飛び跳ねながら、フラウの周りをぐるぐると回る。

余談では有るが、ここ数日はずっと彼女の家で食事を取りつづけている。

「朝食・・・か。じゃあ、頂こうかな。」

「分かった。じゃあ、母さんに伝えてくるね。」

言って、彼女はドアに手をかける。

まさにその瞬間だった。

―――ズウウゥゥゥン

「キャッ!!」

何処からとも無く、爆音が、そして、もっと近くから女性の悲鳴が(要するにフラウの悲鳴が)聞こえた

音に驚いたらしく、彼女はドアに手をかけたまま蹲っている。

だが、人のことは笑えない。

自分だって、咄嗟に頭を抱えてしゃがみこんでいる。

「ちょッ!何なのよ?!」

「知ってるわけ無いだろう!そんな事!」

停電し、暗くなってしまった部屋の中でいがみ合う。

だが、もう一度響いた爆音で俺はようやく状況を理解できた。

なぜかは分からないが、このサイド7が襲撃を受けているのだ。

二度目の爆音はそれほど大きくなかったが、地面が揺れたのは絶対に気のせいなんかではない。

鉄の塊は爆発に強いとされているものの、コロニー中に響き渡るような爆発を相手にしては然程長くは持たない。

この足元に広がる大地は精々が厚さ10m足らずの鋼板でしかないのだ。

「フラウ!逃げよう!」

「何?何なの?!」

「分からない!けど、ここでずっといるのは危険だ!」

フラウが手をかけたままになっていたドアノブを急いでひねり、文字通り転がるようにして外に飛び出す。

理性での行動ではなく本能で動いた結果だったが、結果としてそれが良い方向に働いた。

「・・・・・・ザクU・・・ジオン軍・・・?」

ちょうど爆音が聞こえたほう――ほんの一キロほどしか離れていない地点を、二体の巨人が蹂躙していた。

神話の怪物サイクロプスよろしく一つ目の顔と緑色のカラーリングが施された体は、これほどにはなれていてもよく見える。

「そう言えば・・・ニュースで連邦の戦艦が一時寄港してるって・・・。」

後ろで呆然と呟くフラウの声が耳に入る。

俺も、そして彼女も、TVで見た事こそあれ本物のザクを見たのは今日が初めてだった。

「戦艦が・・・寄港・・・親父が?」

「け、けど、だからっていきなり中立コロニーに侵入してこなくても・・・。」

「今は戦争中なんだ!妙な動きをしたら、それを調べに来るのは当然だろう!」

フラウの暢気な発言に少し苛立ちながら、彼女の家まで走る。

「フラウは御両親と一緒に逃げて!ポートまで行けば、ある程度何が起こっているか分かるはずだから。」

ついてきてしまっていたハロを彼女の胸に押し付け、エレカに向かって走る。

例えそこにジオン軍が陣取っていたとしても、今は彼らの理性に期待するしかなかった。

中立であるこのサイドに対し攻撃を仕掛けてきた時点でかなり望み薄と言わざるを得ないが、避難民に対しての攻撃は一応条約で禁止されている。

「アムロは?どうするつもりなの?!」

「親父に会いに行く!これだけの事をしでかしたんだ!責任を取らせる!」

「そんなの後回しでいいじゃない!」

「そういうわけにもいかない!早くしないと、サイドごとやられる!」

悲鳴のようなフラウの声を聞きながら、キーを回す。

すぐにバッテリーが繋がり、エレカは公道へ向かって走り出した。

見る見るうちに、フラウの姿が小さくなる。

父親にあって何を言おうか、とか、そんな具体的な考えがあったわけではない。

ただ自分のサイドが親父のせいで壊れていくというのが我慢できなかった。

「ッ!どけよ、轢かれたくないだろう!!」

異変に気付いて公道に溢れている人の隙間を縫うように走る。

向かう先は直感で決めた。

こういうとき、俺の直感は驚くほど当たる。

「親父!」

案の定、暫く走り回っているうちに連邦の下士官らしき男と会話している父親の姿が見えた。

驚いた事に、そこはザクが暴れまわっている地点から2kmと離れていない道路の中央帯だった。

その隣には、見た事の無いタイプのMSが鎮座しているのに、どいつもこいつも暢気にも程がある。

「おお、アムロ。どうした?血相を変えて。」

「どうしたもこうしたもあるか!さっさと艦もこれも運び出せ!何でこんなところにMSが有るんだよ!」

指差した先には、純白のMS。

どうしてか、酷く不気味に映った。

「フン、今運び出すから待っていろ。」

父は俺の事になど興味がないといわんばかりに、少し目をくれただけで下士官との会話に戻ろうとする。

その胸倉を掴み、無理やりこちらを向かせた。

「今って、いつだよ!」

「もうすぐこのトレーラーを動かせるものが来る。・・・それから、だな。」

「ふざけるな!パイロットはどうした!」

「現在一号機を起動中だ。こちらは予備機といったところだな。今回は出番は無い。」

「・・・な・・・・・・!!」

絶句した。

兵器がそこにあるのに、動かす人間がいない。

要約すれば、そういうことだった。

「そもそもこいつはこの戦争の行方を変えられるかもしれない機体だ。サイドと同等か、それ以上の価値があるといってもいい。私だって迂闊に動かすわけには行かないんだよ。」

俺の手を振り解き、父は馬鹿にしたように笑っていた。

「あんた達・・・正気かよ・・・。」

「正気だとも。旧時代の戦争においても、一つの町や村がたった一つの兵器のために犠牲になった例などいくらでもある。」

まあ、流石に少々犠牲が多すぎるがな・・・という父の呟きは、もう耳に入っていなかった。

「ふざけろ・・・。」

父親に背を向けて、白いMSへ向かって走る。

「動かせないってんなら俺が動かしてやるよ!こんなところで鎮座しているだけなら、壊れたほうがまだましだ!」

下で叫ぶ連邦兵の声が聞こえたが、止まるつもりは全く無かった。

MSの胸に向かってよじ登り、開けっ放しになっていたコクピットを覗き込む。

何をどうすればいいのかは分からなかったが、それほど計器は多くなかった。

滑り込むようにしてコクピットシートに座る。

――――バトルスタンバイ――――


どういう仕組みになっているのか、それだけで主電源が入り、コクピットカバーが閉じた。

――――バトルシステム、セミオート――――

メインモニターに次々と映し出される情報の群。

その一つ一つに目を通しながら操作用のペダルを踏みしめ、両手で操縦桿を握る。

そのまま操縦桿を押し出すと、機体のメインエンジン火が入ったのが分かった。

熱核パルスエンジン特有の重厚な起動音と大量の廃熱があたりを包み込んでいく。

「これ・・・分かる・・・。」

繰り返すことになるが、俺はMSを触る事は勿論、実物を見た事さえ今日が初めてだった。

なのに、操作方法は頭が理解していた。

迷うことなくボタン類を操作し、外部モニタを全て表示させる。

そこに―――

「うわああぁぁぁぁ!!!」

巨大な銃口が、表示されていた。

――――バトルステージ、サイド7――――

――――mission1レディー――――

――――バトル、スタート――――





あとがき

以前お送りした『ゲーム』の続き、というか本編です。

設定的にはある男がゲームの中でアムロと同化しているだけなのですが、記憶などはかなりの改竄が加えられている様子・・・?

ある程度読めばおわかりになるかと思いますが、アムロもテムもフラウも、名前以外は殆ど同じところがないというはっちゃけ設定。

ちなみに作者である私でさえ何年前に書かれた作品か覚えていないというかなり古い作品(古いノートを整理していたら出てきた・形状から判断する限り少なくとも4年以上昔)で、姫君の寵愛共々、過去の作品群の内でもキャラクターブレイカーとしての作者の才能(?)が遺憾なく発揮された駄作。

まあ、せっかく書いてるんだし一応送ってみようかということで転写。

蒼來の感想(?)
・・・・・ダーク物ぽいので壁紙を黒にしたのだが・・・・・失敗かも(A^^ゞ
ええと、指定はなかったのですがコンピューター表示を赤としてみました。
とりあえず、原作沿い(ただアムロの性格激変してますが)なので感想はここまで。
あ、一つだけ。
こんなに連載抱えて全部完結できるの?(−−;