瞼を閉じて 夢の中
今日と明日の 境目へ
桜は今日も いい子でしたと
夢は黙して 少女は眠る
ある一日の朝(Fate/stay night)
ピピピピピピ―――――
寝室に置かれた時計のベルが鳴る。
その音に酷く脅かされた。
普段ならかけずとも起きられるから、セットしてあった事さえ忘れていたのだ。
普通の目覚し時計よりも音は小さいのだけれど今はほとんど何の音もしていないので余慶にその音を大きく感じてしまう。
ピピピピピピピピピ―――――
電子的な呼び出し音は断続的に続いている。
(やば、ライダー起きちゃう・・・。)
慌てて台所から飛び出し、あてがわれた寝室の片隅においてある目覚し時計を切る。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
耳を澄ましてみても同室の戦友が目を覚ました気配は無かった。
その事に微かな安堵の吐息を漏らす。
少し気になって押入れの中を覗いてみると、ライダーは猫のように丸くなって眠っていた。
魔眼殺しをかけていない安らかなその寝顔は普段の凛々しいサーヴァントとしてのそれではなく、どちらかというと愛玩動物を思わせる類のものだ。
(ドラ○モンみたい・・・。)
普通に考えれば寝苦しくて仕方が無いかと思うのだけれど、間近で目覚ましがなっても起きないところを見ると意外と寝心地がいいのかもしれない。
(それとも・・・意外と朝は弱いとか?)
もともと土倉で眠っていたものをこちらへつれてきたのだが、よく考えてみればライダーが自分より早く起きているのを見た事が無い気がする。
今だって普通ならば起きてしまうであろうのにすやすやと眠りこけている。
ほとんどの事をそつなくこなす彼女に限ってまさかとは思うが、自分の姉を知っているだけになんとも言いがたい。
(まあ・・・本人が幸せならそれでいい・・・かな?)
現在時刻は5時30分。
昨日あれだけ乱れたのだから、先輩が起きてくるまではもう少し時間があるだろう。
(昨日はまたすごかったな〜。)
・・・・思い出してしまった。
自分では分からないけれど頬は真っ赤だろう。
しばしの間壁に手をついて気を落ち着ける。
(って・・・こんなことしてる場合じゃなかった。)
作りかけの朝食を早く仕上げてしまわなければならない。
(私の馬鹿〜)
物言わぬただの時計へと戻った目覚し時計を積み上げた布団のうえに放り投げて、再度部屋を後にする。
「よしっ、頑張ろう。」
熱くなった頬を軽く叩き、小さく声に出して気合を入れなおす。
庭ではもう小鳥たちが囀っていた。
ぴんぽ〜ん
呼び鈴が鳴る。
誰が来たのかはもう分かっていた。
「おはようシロウ!今日のご飯は何?!」
私たちが迎えに出るよりも早く、呼び鈴を鳴らした張本人が駆け込んできていた。
毎日毎日遠いお城から歩いてきているにもかかわらずどうしてこう元気なのか、とこちらが不審に思うほどのはしゃぎっぷりでやってきた少女は士郎の胸元への体当たりを敢行する。
もう毎日の恒例行事になっているためか士郎も何も慌てることなくその小さな体躯を受け止めた。
「ああ、おはようイリヤ。今日のご飯は桜が作ったから訊くなら桜に訊いて。」
胸元でえへへ〜と笑う少女に対し士郎も笑いながら言葉を交わす。
その光景は傍から見ていれば微笑ましいことこの上ないものだろう。
だが、当のイリヤは士郎の言葉に露骨に眉を顰めて見せた。
「ええ〜、シロウが作ったんじゃないの?」
む。
予測はしていたけどそういう言い方は酷いんじゃないだろうか?
「嫌なら食べなくてもいいです!それと先輩から離れてください!!」
睨めつけるようなじと目から目を逸らさないようにしつつ自分の意見を口にする。
最近になってようやくできるようになった事。
だが、そんな付け焼刃は最近妙な知恵ばかりつけ始めた雪の少女相手には全くの無意味だった。
「おにいちゃ〜ん、サクラがいじめる〜。」
自分が先輩の胸元にいる事をいい事に、そこに顔をうずめるような嘘泣きでさらに強くシロウを抱きしめる。
どうでもいい事だけれど子供らしさを強調しつつ必要以上に強く抱きしめる事がポイントで、先輩はあれにはめっぽう弱い。
・・・・・・だめだ。
あれをやられると先輩には回避する有効な手立てが無い、つまりイリヤが先輩に抱きつくのを阻止できなかった時点で私の負け。
「桜・・・。」
案の定先輩は心底困ったような顔をこちらに向けてくる。
そんな顔をされると断るわけにも行かない。
ただ、イリヤもイリヤだけど先輩も先輩だと思う。
そんな嘘泣き、さっさとはがしてしまえばいいと思うのだけれど、どうしてもそれができないらしい。
その顔の下でイリヤがぺろっと赤い舌を出しているのが見えた。
完全な勝者にのみ許された相手を見下したような笑み。
(ッ!!・・・・・・いっそライダーに跡形もなく消してもらおうかしら・・・。)
夜中に呼び出して声を立てるまもなくキュベレイで石化、そのまま東京湾のそこにでも沈めて・・・・。
ばれるような事はまず無いだろう。
皆には彼女は突然本国に帰ったとでも伝えればいい。
訝しがりはするだろうけど決定的な証拠をつかませるような事さえしなければすぐにこんな小娘の事など忘れてしまうに違いない。
背後を見るとライダーがやりましょうか?とでもいいたげな目でこちらを見ていた。
命じれば令呪など使わずとも今すぐに実行してくれるだろう・・・多分嬉々として。
(って、だめだめ・・・。)
そんな事をすれば間違いなく先輩は悲しむだろう。
他はともかくそれだけは避けたい。
というか未だにこんな事を考えているあたりアンリ・マユの痕跡がまだ残っているのだろうか?
自分のあやふやな思考回路に真剣に悩む。
「ま、まあとりあえず上がろうか。まだタイガーも凛も来ていないから暫く待ってもらうことになるけど・・・・。」
こころのどこかで何かと折り合いをつけようとしたのだろう。
結局先輩は胃の上のほうを押さえながらも振り返り・・・、
「あ、私昨日から泊まってたからもういるわよ。」
思いもしていなかったであろう女帝の登場に完全に凍りついた。
人がいるのに求めてくるなんて可笑しな事もあるものだとは思っていたけれどやはり気付いていなかったらしい。
「へ?・・・と、泊まってたって・・・?」
「気付いてなかったの?一応桜から了解は得てるんだけど・・・。」
ぎこちなく振り返った先輩の顔に納得がいかなかったのだろう。
姉さんは憮然とした表情でライダーを睨みつけた。
「リン、そこでこっちを見るのは反則です。シロウへの報告もするべきだとの助言はしました。」
対するランサーは冷静に姉さんの目を見返している。
こういうとき、ライダーは意地でも引こうとしない。
魔眼殺し越しとは言え、その迫力は文字通り鬼気迫るものがあった。
そのせいかどうかは分からないが姉さんは目を逸らし、朝から中身の無い論争が起こるという事態だけは回避できた。
ただ、姉さんが口元に手をやっている事が気にかかる。
あれは何かをたくらんでいるのか、それとも笑いをこらえようとしているのか。
いずれにせよ良い兆候とは言いがたい。
「あら、私だって自分で言おうとしたわよ?ただ士郎の部屋から変な声が聞こえたから言いそびれただけで・・・あ、それとも踏み込んでいったほうがよかったかしら?結構無茶してたみたいだし。」
やはりというかなんというか、姉はとんでもない事を口走り始めた。
頭が言葉の意味を理解するより早くからだが言葉に反応し、全身の体温を数度押し上げる。
「ちょ!何言ってるんだよ、遠坂!」
「リン!今の話は本当ですか?!」
「サクラ、無茶してたってどういうことなの?」
姉さんの言葉を皮切りにとたんに場が騒がしくなった。
真赤になって姉さんの言動そのものを止めようとする先輩。
姉さんに質問しているにもかかわらずなぜか先輩の胸倉を掴みあげているライダー。
あどけないふりをして私から情報を根掘り葉掘り聞き出そうとしているイリヤ。
私は・・・ようやく理解した言葉の意味に指先まで真っ赤になっていることだろう。
いつもどおり、騒がしい朝が始まる。
「ねえねえ、タイガはどうしたの?朝から一度も姿を見ていない気がするけど。」
食事が終わって一段落がついたころ、自分にあてがわれた分の食事を綺麗に完食したイリヤがようやく自称先輩の保護者、実質ただの半居候が不在である事に気づいた。
絶対に気付くのは最後だろうと思っていたのだけれどどうやら洞察力はなかなかのものらしい。
むしろこれまで気付かれなかった事のほうが異常であるということはこの場合は気にしないほうがいいだろう。
「あら・・・そう言えばそうね・・・。桜は何か知ってるの?」
・・・姉さんも気付いていなかったらしい。
つくずくこの屋敷の中での先生の地位が低いものである事を思い知らされる。
・・・まあ、いつもの事ではあるのだけれど。
「あ・・・えっと、今日は弓道部の大会があるからって出てるよ。遊びに行くならお土産よろしく、だってさ。」
私が口を開くより早く、台所でいっしょに洗い物をしている先輩が苦笑しながら先生がいない理由を説明した。
その目が明後日の方向を向いているあたり、もしかしたら今の今まで先輩も気付いていなかったのかもしれない。
だが、その情報はこの状況において告げるべきものではなかった。
いずればれるにしてももう少し後に回しておくべき情報だったのだ。
「へえ・・・じゃあ藤村先生は行かないんだ。残念ね。」
「そうね。残念でならないわ。」
心配になって後ろを振り返ってみると案の定、姉さんとイリヤは示し合わせたように互いの顔を見合い、にししし、と下品な笑みを浮かべていた。
間違いなくよからぬことを考えているのだろう。
「・・・・・・・ライダー、今日一日、あの二人の監視をお願いしてもいいかしら?」
暫く考えた末、私はライダーに先輩に聞こえない程度の小声で耳打ちをした。
こうでもしなければ連中はすぐに防壁を突破しようとあの手この手で忍び寄ってくるだろう。
最近の彼女たちの手管はといえば古代のいかなる妖怪変化より巧妙で、その上ゴキブリよりもしつこいときているのだから始末におえない。
こういうとき手持ちのカードは最大限有効活用して、それがいかなる手段であれ躊躇すべきではないと思う。
「え?・・・ああ、それは構いませんが・・・宜しいのですか?」
洗い終わったものを拭いて棚に入れる作業をしていたライダーは半ば驚いたように一瞬その手を止めていた。
「その・・・場合によっては実力行使も辞さない事態になると思われますが。」
「別にいいわ。殺さない程度にやっちゃって。」
というか二人が先輩に対し善からぬことを考えているのであればそれぐらいのリスクは受け入れるべきだと思う。
「・・・・了解しました。」
一瞬躊躇うような仕種を見せたライダーだったが、すぐに半歩分後ろに下がった。
それは彼女なりの覚悟の証。
彼女がこの仕種を見せたとき、その言葉はお願いから契約へと昇華する。
「ごめんね。後で埋め合わせはつけるから。」
うん、これで後顧の憂いのほとんどは絶たれた。
あとは先輩と思う存分楽しめばそれでいい。
私にとってはこれ以上、望むべくもない朝。
私が一番望んでいた世界。
姉がいて、イリヤちゃんがいて、ライダーがいて、先生がいて、そして誰よりも先輩がいて。
まるで、夢のような朝。
「先輩!こっちは終わりました・・・・け・・・ど・・・。」
振り返った先には誰もいなかった。
いつも通りの静かな台所が広がっているだけ。
「え・・・なんで・・・?」
一瞬、全ての思考が停止した。
全身全霊で状況を理解しないように勤めているのに、脳は急速に覚醒していく。
ピピピピピピ―――――
どこかで目覚ましの音がなっている気がした。
タイガー道場(番外編)
タイガー:は〜い、良い子の皆、元気にしてたかな?ちょっとした発言のミスでプレゼントが嫌がらせに進化しちゃったあなたのためのタイガー道場の時間だよ〜。
イリヤ:司会はご存知、イリヤお姉さんと〜
タイガー:タイガー兎・・・ってそれは別の番組!!
作者:(チ・・・)
タイガー:今ものすごい強力な世界の修正力を感じたんだけど・・・。
イリヤ:え〜、気のせいでしょ?そんな事より今回の失敗の原因は何なの?管理人さんの返答に不備は無かったと思うんだけど・・・。
タイガー:そうね、本編よろしくいきなりBADENDじゃ納得がいかないよね・・・。けどね、これは管理人さんの重大な選択ミスなの。
イリヤ:え?選択なんてあったっけ?
タイガー:一つ目の原因はFateなんてプレイした事も無かった作者にFateものを書かせようとした事。これのせいで作者は結構手痛い出費をこうむっているわ。
イリヤ:引き受けた作者の自業自得じゃないの?
タイガー:そのとおり。けど作者はこういうの根に持つタイプの人間よ。それこそ桜ちゃんばりに。
イリヤ:事実は小説より奇なりを体現して歩いている人だからね、この作者。そのあたりは納得。
タイガー:・・・で、もう一つの原因が作者にギャグものを頼んでしまった事。
イリヤ:これは管理人さんがダークものが嫌いだからよね?
タイガー:そ。けどね、この作者にギャグ者なんて絶対に頼んじゃ駄目。ギャグ形は書きたいけど一文たりとて形にならないなんて悩んでいる作者の事よ。死んだとしても絶対にそんなものは書けないわ。
イリヤ:わ〜、このコラムの存在意義さえなくしてしまいそうな発言〜。結局は救済措置なんてあり得ないってこと?
タイガー:そうでもないわ。ほのぼのしたシーンぐらいなら腸捻転と胃潰瘍と急性高血圧の発症ぐらいで何とか書けるはずよ。
作者&イリヤ:(・・・・・・殺す気(か)・・・?)
タイガー:というわけで来年はそのあたりを念頭においてリクエストしてみてね。ではでは〜。
イリヤ:また来年〜。
あとがき
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・・・・。(無限リピート)
・・・・・・・・・ふう。(疲れた)
あ、まずはお誕生日おめでとう御座います。
リクエストされたものとはだいぶ違いましたがこの作品の発送を持ってプレゼントとさせていただきたいと思います。
えっと・・・分かるかとは思いますが桜ノーマルエンド後のお話です。
セイバーがいないのは望みとして桜がセイバーの生きている世界を望むとは思えないということが原因で、似た話が続編(hollow ataraxia)にあるとしたらそれは作者の勉強不足です。(stay nightしかプレイしていません)
いろいろな注釈は付けたいのですが見苦しくなるのでこのあたりで・・・再見!!
蒼來の感想(?)
鈴菜「蒼來が苦労かけてすみません<(_ _)>」
観月「ホントですわ、FateとかIZUMO2かをリクエストするなんて」
鈴菜「蒼來は只今、死んでるように寝込んでます。」
観月「なので、今回は私たち二人で感想を述べることにしますわ。」
鈴菜「まず、やはりBAD ENDに近い物になりましたか。」
観月「蒼來も短編ということで、ダーク物が来るんじゃあないかと、戦々恐々してましたわ。」
鈴菜「まあ、ハズレだったわけだがな。」
観月「しかし後書きの前にタイガー道場が・・・」
鈴菜「だな。桜と言うキャラは、Fateの二次創作物では、不幸物が多いしな。」
観月「ええ、しかも夢オチですから・・・」
鈴菜「合掌だな・・・」
観月「・・・・」
鈴菜「ん?如何した観月?」
観月「お姉様・・・いやな予感がするのですが・・・」
鈴菜「え?!蒼來が重傷とか?!」
観月「違います!!お兄様に関することみたいですが・・・」
鈴菜「ええ?!」
観月「早くしないと誰かの毒牙にかかるような気が!!」
鈴菜「そいつは一大事だ!!」
観月「早く、お兄様のところに行かないと!!」
鈴菜「ああ、今行く!!それじゃあ皆さん、またね〜」
観月「感想になってなくて申し訳ございません。皆様はしっかり、ダークパラサイトさんに感想を送ってくださいね。それでは〜」