激しい雨粒が窓を叩いている。
外は大雨、部屋の中は薄暗い。
梅雨の時期は仕方の無い事とはいえ、連日雨が続いていると気持ちまで沈んできそうだ。
もう夏を間近にしているというのに雨のせいか、気温は下がっており微かに肌寒い。
「雨ですね」
「雨だな」
窓をぼんやりと見ていたマルスがぽつりと言い、座って本を広げていたメタナイトがぽつりと返した。
外では雨の音に混じって子供の声が聞こえてくる。
子供達はそれぞれレインコートや傘、雨靴なんかを装備してこの雨の中でも外で遊びまわっているらしい。
微笑ましく思うと同時に、少し心配でもある。
「みんな風邪ひかないといいけど……」
「濡れなければ大丈夫だろう」
「でもこの前、面白かったからってみんなでずぶ濡れになって帰ってきたんですよ。
その後やっぱり寒がってリザードンにくっついていたくらいで」
「…………」
「あと、この雨は丁度いいってスネークさんが訓練に行きましたし」
「そういえば言っていたな」
本から顔を上げ、メタナイトも呟く。そう、そういえば、雨の中の訓練にとマルスも連れて行こうとしたのを引き止めたのは自分だった。
引きとめはしたもののその後特にやることもなく、マルスはこうしてメタナイトの部屋で時間を過ごしているのだが、
もしかしたら退屈をしているのかもしれない。
本を閉じてソファからひょいと起き上がると、メタナイトはマルスに声をかけようとした。が、
「マ――」
「入るぞ」
呼びかけた所で別の声が邪魔をする。同時に音を立てて開かれた扉を見ると、アイクが入ってきた。
「アイク」
「どうかしたのか」
だが入ってきたアイクは何をするでもなく無言で部屋の中に踏み入り、無言でマルスが立っていた窓辺にあるテーブルセットに腰掛けた。
そして無言で肘をつき、その手に顎を乗せたまま窓を見ている。
「アイク?」
「退屈だから来た」
唐突な行動にメタナイトが疑問に呼びかけると、これまたシンプルな答えが返って来た。
マルスとメタナイトは顔を見合わせ、そして何となくそのまま、窓辺のテーブルセットに揃って腰掛ける。
音を立てて降る雨は止まず、退屈だから来たと言ったアイクもここに来て何かをするわけでもなく、ただ窓を眺めている。
しかしこうしてぼんやりと座っているのもな、とメタナイトが考えると、マルスが声を上げた。
「……カードゲームでもやりますか?」
何でまたカードゲーム、と思ったのはきっとマルス本人も含めて三人ともだろう。
しかし他にやることはなし、上手い具合にテーブルにそれぞれも腰掛けている。
なんとも微妙な雰囲気のままにカードゲームが始まった。
「上がり」
「……うっ……」
アイクが揃ったカードの面を見せてテーブルに置く。メタナイトは既に上がっており、要するにマルスの負け。
「しかし意外だな。マルスはカードゲームが苦手なのか」
「自分ではそうでもないと思うのですが……」
「でもあんた、五回連続でビリだろう」
「ううっ……」
その通り、五回連続で最初から最後までマルスは負けている。運も左右するだろうカードゲームでも変わらず、だ。
そしてただゲームをするだけでは面白味に欠ける、ということで、ひとつ賭けをしていたのだ。
統計の結果の勝者は、メタナイト。
「……で?」
「さて、どうするかな」
賭けの内容は『敗者は勝者の言う事を何でもきくこと』というありきたりなもの。
しかし外はこの雨で、メタナイトは誰かに何かをやってもらうような事もありはせず、しばらく考え込んだ。
ゲームを始めてから結構な時間が経っていたらしく、子供達が騒ぎながら帰って来る声が微かに聞こえる。
同じくそれを聞き、また気にしているのだろう、マルスが心配そうに窓から下を見ていた。
そこでふと、思いつく。
ひょいとテーブルセットから降りて、メタナイトは部屋の中央に備えられているソファの元へ行くと、マルスに手招きした。
「はい、何でしょうか?」
素直に寄って来たマルスに、ソファを指差す。
「腰掛けてくれ」
「はい」
不思議そうな顔のまま、マルスはソファに腰を下ろす。するとそのマルスの膝の上にメタナイトが飛び乗った。
「メ、メタナイト卿!?」
「今日は冷えるからな。暖を取らせてくれ」
「ああ、なるほど……」
驚きに声を上げたマルスだがメタナイトの言葉に納得をして、それなら、と笑いながらメタナイトをぎゅーと抱き締めた。
「あ、これ僕もあったかいです」
「そうか」
柔らかな感触がお気に召したのか、マルスは上機嫌でメタナイトの頭頂にそっと顔を乗せた。
カービィと同じ感触だなあ、という感想は心の中にしまっておく。
メタナイトの抱き心地のよさにマルスがほわほわしていると、急にそのマルスの身体が持ち上げられた。
「うわっ」
思わず腕の中のメタナイトをぎゅーと強く抱き締めてしまうが、その一瞬後にはマルスはアイクの腕の中にいた。
メタナイトごと、後ろから抱き包まれている。
「あ、アイク?」
「…………」
恐る恐るの呼びかけには答えず、アイクは無言でマルスの腰に手を回した。そして肩口に顔を乗せる。
つまり、メタナイトを抱き包んでいる体勢と同じように、マルスもアイクに抱き包まれている。
「暖かい」
ぽつりと呟かれたアイクの言葉に、マルスは思わず笑った。
「うん、そうだね」
笑ったまま、そっとメタナイトを抱き締めてからアイクの胸に背を預ける。
あまりの心地よさに、マルスは眼を閉じた。
「……それで、どうすればいい」
「下手に動けんな」
数分後。
部屋の中には雨の音と、そしてマルスの寝息が微かに流れている。
メタナイトを抱き締めてアイクに背を預けたまま、マルスは眠りについてしまった。
すると残った二人は動くに動けず、じっとそのままの体勢を保っているしかない。
起こせばいいだけの話だが、あまりにも気持ちの良さそうな穏やかな寝顔に、なかなかそれも出来ずにいる。
「敗者だってのに、呑気な奴だ」
「……仕方がないだろう」
むしろその敗者に甘く接してしまっているのは自分達なのだから。
同時にため息をついた二人は、結局最後の勝者はマルスなのかもしれないと思いながらも、この穏やかな時間に瞼を下ろす。
雨はしとしとと鳴る小雨に変わっていた。
やじかんさんから頂きました、X三剣士の小説です!
三人まとめて欲しいなぁとぼやいていたら本当に三人まとめて頂いてしまいました!
ほのぼのとした雰囲気がすごくツボです…*^^*
やじかんさん、本当にありがとうございました!