どきどきとダイナモ

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コーチ陣との明日のメニューの確認を中心としたミーティングが終わり、達海は夕暮れの風にふくらむカーテンに隠れるようにすうと寝入ってしまった。目が覚めたときは部屋も暗く、クラブハウスのなかも常夜灯だけになっていた。
達海は首をこきこきと鳴らし、あいつ呼び出そうかと思ってたんだけどな、と革張りのソファから立ち上がった。自室である倉庫へ向かう前に、事務所へ寄って冷蔵庫を覗くがまた甘いものしかない。
ため息まじりに今度こそごまかせない空腹を満たそうと自室に入る。すると開け放した窓に見慣れた人影が浮かんでいた。
「かんとくー……」
ん、と首を傾けたまま、達海は窓へ寄る。寝起きいちばんに思い出した顔がそこにあり、達海は夢でないと言い聞かせるように声を高くした。
「あんだよ。夜練か」
暗さに目が慣れて、椿の顔をまじまじと見ると頬を赤くして唇は涙をこらえるように引き結ばれている。どうしたのよ。
「監督、きのう言ってくれましたよね、びびっても大丈夫だからって」
へえ、ちゃんと聞いてたんだ。達海はそちらのほうに驚いた。
「うん、言ったよ」
達海は平然と応じる。椿は顔をうつむけて言葉を繋ぐが、高い位置にいる達海には伝わらない。おまえ、ちょっとこっち上がってこいよ。
椿はえ、と聞き間違ったかという顔で見るので、達海はこっち、と部屋の中へあごをしゃくる。面食らったまま椿は窓枠に手をかけた。
「エネルギーが溜まるって、こういう意味なんすか?」
達海はまだ椿の言わんとするところがわからなかった。椿は同じくらいの背丈の達海を器用に上目遣いで見て、もう一度視線を落とす。達海もつられて目で追うと、あ、と邪気なく声が出た。
「え……、なにこれ」
「エネルギーが溜まるって、こういう意味なんすか?」
もう一度椿が半べそで達海に訴える。なあーによ、それ。ゆるいトレーニングウェアの上からもはっきりとわかる違和感に達海は目を逸らした。
「とりあえずトイレ、行く?」
「行きましたよ。擦っても突いてもびくともしないんす」
そりゃすごいね、と達海は他人事のせいか顔色を変えて感心する。椿はそんな達海の顔を見てはあ、と大きなため息をついた。
「マジで?」
右手を椿の足の付根へ伸ばし、ふくらみを撫でる。椿は野良猫のように飛びのいた。
「なにすんですか」
「なに避けてんだよ」
好奇心に火がついたのか、達海はにやにやと口角を上げて椿を窓枠へと追い込む。逆手にした手の中にそれはやすやすと収まった。
「おまえでかいな」
「知んないっすよ、そんなの……」
手の中でかたちを確かめて、骨ばった指でなぞるように擦ると椿が窓から落ちるような勢いで腰を引いた。ひゃ、あ!
「……え?……」
達海は急に温度が高くなった手のひらを離す。椿は窓枠に手をかけて、二、三回ちいさく痙攣した。あ、あ。
「……監督」
上げた顔は紅潮して、恨み言を搾り出すというよりもこの先をねだっているように見える。達海も初めてやべーな、と口を尖らせた。
「監督、これ、どんな呪いをかけたんです……」
自らの小心に悩む椿に、悩まなくても良い、というのはなによりも甘い福音だろう。しかしその結果ときたら。達海は昨晩の自分を思い返す。
「とりあえず脱ぐ? それ」
「駄目です、まだ納まってないんで」
だからさ。達海が椿の膨張をごまかすようにジャージのウエストを引っ張る。
「俺しか呪いが解けないんだから、仕方ないじゃん」
椿は赤い顔のまま眉をしかめ、複雑そのものという顔をする。本当に人間の心と体というのは言うことをきかない。そもそもそこが持ち主の言うことを聞く場面なんてほとんどないのだけれど。










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いつものゆるーいえろです
無意識いちゃいちゃ!