おふねにのって



 きもちよくてきもちよくて、仕方ない頭の隅っこで、将は、まるで船に乗っているみたいだと、ぼんやり考えていた。
 ここまで気持ちがいいと、恥ずかしいのも、どこかに行ってしまう。さきほどまでは、見上げられるのが、恥ずかしくて、恐かったが、今はそんなこともない。ゆうらり、ゆうらり、体を揺らされて、眠いくらいに気持ちがいい。本当に眠いのかもしれないが、幾ら、将でも情事の最中に眠れる自信はなかった。
 すおうさんの、あついなあ。ずっとぼくのこし、ささえてるけど、うで、いたくないのかなあ。あせいっぱいかいて、いき、くるしそう。あ、なんだか、じょりじょりする。ぼくもいつか、あんなふうにもじゃもじゃになるのかなあ。
 思考は考える側から、とろとろ流れていく。将が、ふにゃふにゃ泣くような声を上げると、周防は、どこかとろんとした声で訪ねた。
「もうだめか?」
 将が首を振って、平気です、と言ったら、語尾のろれつが回らずに、平気でしゅ、になってしまった。周防が笑い出す。
 体が揺れて、将は、あっあっ、と声を上げて、目を閉じた。
「周防さん、揺れないで」
「ベッドが揺れたんだよ」
「うそばっかり」
 嘘じゃない、と周防は言って、もう一度揺れた。将はたまらなくなって、涙をにじませて、きもちいいと泣いた。
「いい?」
 返事しても言葉がもつれるばかりなので、将は仕方なしに黙ってうなずいた。
 涙が散って周防の腹の上に落ちる。
「俺も気持ちいい」
 周防が長い息を吐いた。
「ふね……」
「ん、何だって?」
「船にのってるみたいだなあって」
「なんだ、それ」
 周防は笑って、自分の腰を動かした。
 熱い芯が触れた場所から溶かされていくようだ。将の体が上がって、すぐに下に落ちた。またどこかを突かれてしまったので、将は、はあとため息をついた。
「もう、そろそろ終わりにするか」
 二度ほど、腰を突き上げると、将は喉の奥からくぐもった声をあげた。
 子猫のような声だ。周防は自分の動きに応えるかのように、締め上げた将に目を細めた。
 とろとろと濡れた感触がまとわりついてくる。後で、掻き出してやるときにまた泣かせてしまうだろう。
「だめ、です」
 将がいやいやと首を振って、その動きでまた新しい涙を浮かべた。目の端のそれは今にも落ちそうだ。
 指でぬぐってやるかわりに別の部位へ周防は手を伸ばした。
「ここ、もうきついって泣いてるぞ」
「ひ、あっ」
 周防の手の中におさまってしまうそこは、色といい、形といい、成長具合といい、まだまだこどものそれなのだが、周防の愛撫には、しっかり反応する。
 まだ極まらないように根本を指で締め、親指の腹で先端を擦りあげると、将は悲鳴じみた嬌声をあげた。この張りつめようでは、将にはさぞ甘い、あまい苦痛になっているだろう。
「すお、さん、さわっちゃ、だめ」
「んー、聞こえねえなあ」
 更に指を動かして、将を泣かせると、周防は満足そうに笑った。
 将のこの方面の成長を導いたのは、すべて周防だ。だからこそ、ここに将以上の愛着を持っている。
 たらたらと透明な体液を零して、周防の手を濡らしている。その濡れを利用して、指を滑らせると将はだめだだめだと首を振った。先端がはち切れそうなくらいに充血している。
 幼いそこがその性にふさわしい反応を示しているのを見ていると、こちらも煽られる。
 後でぜんぶしゃぶってやる。したたるのが、唾液なのか、将の体液なのかもわからなくなるくらい、どろどろになるまで、思い切り。
 がばりを身を起こした周防は、将の耳元でささやいた。
 周防の体の動きに加え、吹き込まれたかなり直接的な単語も加わった言葉に、将の底は周防の手の中でびくびくと震える。手で押しとどめていなければ、今の刺激で達していただろう。
「すおうさん、すおうさん」
 泣きじゃくってしがみついてくる。指先で縛ったまま、腰を突き上げてやると、将が哀願する。
「やだ、いじわるしないで、いじめないで」
 将の意識はかき回されて、どろどろだ。普段は凛として、健やかな少年が、ここまで快感に溺れている。甘えた声に、まどろむような快楽に浸っていた周防の体も、激しさを取り戻す。
 将の尻を掴み、腰を引く。
 今まで内部でうごめいていた熱がずるっと抜けていく。
「ああっ」
 将が離れていく周防の感触に切なげな声を上げた。
「周防さん、いや、だめ」
 首を振って、訴える将にうなずいてやる。
「わかってるって」
 すぐに戻してやるからと言って、中に残っていた先端だけを呑み込ませると、将が甘えた声で泣き出した。このまま目玉が溶けてしまったらどうするんだと周防が心配になるくらい、目が潤んでいる。
 涙をこぼしている将を眺めながら、周防は自分の唇を舐めた。欲情が高まってくる。一気に押し入りたい心を抑えて、掴んでいた尻を自分の上へ下ろし、改めて、将の中へ埋め込んでいく。
 今の将なら、中で少し動かすだけで達してしまいそうなので、周防は尻から手を離し、ふたたび将の根本を指先で戒めた。
 ぼたぼたっと将の大粒の涙が落ちて、周防の肉は更に固くなり、そうやって中で蠢く熱に、将はまたも喘ぐ。
 もうすぐだからなとなだめると、唇を噛みしめながらも、素直にうなずく。
 汗で濡れた額やこめかみに唇をあてながらも、将のそこが自分の肉を銜えていくのを、嬉しげに見つめた。ほぐれたそこは、ひくつきながらも周防を受け入れているに違いない。
 将は目を閉じ、突き上げてくる快楽に健気に耐えている。腹部が震え、先がいっそう濡れて、周防の手を汚す。先は腫れたようになってしまい、さすがに周防もこれ以上、焦らすのはよくないと判断した。
「いじわるして、悪かったな」
 将がかぶりを振る。
「いいん、です、周防さん……」
 周防はふっと目を細めて、指の力を緩め、将がもっとも好む場所を、将が一番好きなやり方で擦り、突き上げてやった。
「あっ――」
 将が震えながら、勢いよく放つ。内部が締めつけをやわやわと繰り返す。周防も遅れて、将の中で達した。
 杭のようだったそこは芯を失い、柔らかく将の中を圧迫するが、周防は抜かないまま、将を抱き直した。
 こいつは俺のものだとばかりに涙で汚れた頬を舐める。
「しょっぱいなあ」
 将の目は真っ赤だ。寝る前に冷やしてやらなきゃなとその瞼の熱を唇で味わいながら思う。
「汚しちゃった……」
 将がしょんぼりと呟く。将の視線を追いかけると、将と自分の胸や腹に白濁した体液が飛び散っている。
 洗えばいいだろうに、何を気にしているのやら。とはいいつつも、恥ずかしがっているのは分かるので、周防は将を慰める。
「わりい、コンドームつけときゃよかったな」
 将は顔を伏せて、首を小さく振った。
「そうか、ゴムの臭い嫌いだったもんな」
 汗で湿るつむじをつつきながら、周防は笑み崩れた。初めて、コンドームを使ったとき、その臭いがあまり好きじゃないと言った将を思い出す。
 臭いし、痛いから、外してほしいと胸の中で訴える年下の恋人に、使わなければいけないとと言い聞かせる立場の周防は骨抜きにされてしまったのだ。もっとも責任感から現在、周防の骨は一応、復活してはいる。勝率的には七割であるが。
「嫌いというか、苦手だと、思うんです」
「そうかそうか」
 口ごもる将のほっぺたを唇で挟み、引っ張っておいて、周防は提案した。
「よし。今度はイチゴの味と匂いするやつ買ってくるからな。あ、バナナのが方が、らしくていいか?」
 どうやら、ふざけすぎたらしい。
 将の小さな拳が胸を殴ってくる。が、なにせ、この小さな体で、今日、何度目かの絶頂を迎えたばかりだ。その力ときたら、周防には痛いどころか、じゃれてくる子猫か子犬くらいにしか思えない。
「あー、もうお前、ほんとかわいいなあ」
 周防は腕を回して、将に頬ずりした。
「俺、やばいわ、うん、まじでやばい」
 真剣に周防は言ったのだが、将の目は怒っている。
「周防さん!」
「なんだよ。告白してるのに、なんで怒るんだ」
「僕のこと、子どもだと思ってるから、そんな風に言うんです」
 それがどれだけ誘惑的な仕草かも知らないままに将は上目遣いで言う。
 拗ねて、怒って、膨れて、大人っぽく背伸びして、将が将として振る舞うすべてが、周防を駆り立てると、本人が理解するのはいつだろう。
「……お前が思うほど、二十代って大人じゃないぞ」
 ぼそっと漏らした本音に将が気づく前に、周防は動いた。
「――ところで、こっちはもう大人かな?」
 やんわり握って、手の中で揉みしだくと、たちまちぴんと張りつめてくる。
「周防さん!」
 胸を突き上げてくる将にはお構いなしに、周防は腰を動かす。
「やだ、もう、ほんとに……」
 ゆるして、と将の細い声が続いて、その声を吸い取るために周防は唇を落とした。 

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