なぜ、こんな目に遭うのか。その相手が、なぜ彼なのか、ファルーシュには分からなかった。
絹で出来た衣服は男の手に裂かれるとき、悲鳴のような甲高い音を立てた。もとより、首筋が露わになる仕立てのファルーシュの装束は、容赦ない力により、たちまち、ただの布きれと化し、体に頼りなくまとわりつくだけになった。
床に組み敷かれそうになったとき、初めて抗った。彼の固く、太い上腕をつかみ、押し返そうとしたのだ。だが、指は滑ってゲオルグの騎士装束の袂を掴んだだけだった。
まるで、すがりつくようにも見えるファルーシュの抗いの仕草を逆手にして、ゲオルグはファルーシュの腰を抱くと、彼をそのまま床に押し伏せた。
鍛え上げられた体がのし掛かってくる前に、もがいて、体に力を入れ、何とか隙をついて、逃れようとした。ファルーシュが無茶苦茶に手を振り上げると、ゲオルグの顔のどこかにあたり、彼が苛立ったように舌打ちした。
途端、ゲオルグの手で、両手を掴まれ、頭の上へとねじ上げられる。骨にまで響くような力で手首を握られて、思わず、苦痛の呻きが出た。
「おとなしくしていろ」
低い、囁き声が耳元で聞こえる。熱い、湿った息が耳にかかる。ぞくりと肌を震えが走っていく。
こんなゲオルグをファルーシュは知らない。
ファルーシュの知るゲオルグという男は、異国の風を身に纏い、今までに見たことのない優しさを持っていた。父のそれとも母のそれとも違うし、カイルやリオン、ミアキスといった近しい者とも異なる、彼独特の雰囲気と優しさだった。
何より嬉しかったのは、王子としてでなく、フェリドという男の息子として、ただのファルーシュという少年として、接してくれることだった。カイルでも教えてくれないような市井の話をちっとも下品に感じさせずに話し、冗談に口の端をゆるめる。精悍な顔つきだが、凄みや恐ろしさは手合いの時にのぞかせるくらいで、普段の彼はいつもどこか、笑んでいるような飄々とした雰囲気を持っていた。
何もかもが初めて知る性質の男だった。彼を知って以来、ファルーシュは彼ばかりを追いかけた。まるで、兄を慕うリムスレーアのように、ひたむきに、懸命に。
それは夢中になったという言い方が正しい。自分でも驚くほど、彼が慕わしかった。恋しいほどの懐かしさを覚えた。彼に馴染むにつれて、ゲオルグもまたファルーシュに親しみを抱くようであった――そのはずだった。
だが、今、彼は、ファルーシュが受けたこともない荒々しい扱いを見せて、その体を組み敷いている。
どれだけ抗おうとも、ゲオルグのたくましい両腕や胸板はびくともしない。
「いや、離して!」
言葉を口にすると、ひゅっと風を切る音が聞こえ、頬を打たれた。
ゲオルグにしてみれば、かなりの手加減をしたそれだ。多少なりとも、彼が本気を出せば、ファルーシュの頬骨は砕けよう。
音ばかりが大きいような打ち方で、痛みも軽く痺れるようなものだったが、父にも母にも今までこのような折檻を受けたことのないファルーシュの体は強張った。
抵抗を止めたか細い体をゲオルグは組み敷き、膝を開かせた。
どこか粘りの感じられる視線が、ファルーシュの肌の上を撫でていく。
なめらかな肌には、一点の傷も染みもない。眩しいほどの白さだった。肌にまとわりつく衣服の残骸が、これから与えられる恥辱の予感を漂わせている。
ゲオルグが指を伸ばすと、ファルーシュは顔を背け、きつく目を閉じた。
ゲオルグは固く、強張りながらも、まだまろやかな曲線と柔らかさをたもつファルーシュの頬をさすり、顎をつかむ。
ファルーシュの小さな唇が震えている。薄桃色の上唇がほんの少し開いており、白い歯がちらりと見えた。
唇には触れず、貝殻のように薄く、やわい耳朶に前歯をあてる。ファルーシュの肩がぴくりと揺れる。耳朶の下から、輪郭を辿るようにして、ゆっくり舌を這わせる。
「ひっ」
生あたたかく濡れた舌の感触に、ファルーシュの肌が泡立つ。舌は首筋を舐め上げ、鎖骨のくぼみにしばらくとどまっていたが、その薄い皮膚を軽く噛んで、離れていった。
頼りないほどに薄い少年の胸板は激しく上下し、淡い紅色をした乳首と小さな乳輪が白い肌にほつりと浮かぶようだ。
男の太く長い、指先が伸ばされた。
ひときわ柔らかい感触の乳輪の形を確かめるように撫で上げていると、乳首はぷっくりと立ち上がる。
「ふ、あっ……」
衣服が擦れたときや寒いときくらいにしか意識しなかった乳首をそのように触れられて、ファルーシュは羞恥に身をよじった。
奇妙なむずがゆさが生まれてくる。髪を結われるときに首筋や耳元に、何かが触れたときにも似たそれだった。
「やめて、ゲオルグ、触らないで」
その願いが受け入れられるはずもない。
爪先でつつき、指先で円を描くようにくるくるとこね、擦るようにして摘まんで、ゲオルグはファルーシュの乳首を嬲った。その頃になると、乳首の色は赤みを増して、白い胸に小さな赤い花でも咲いたかのような印象を与えた。
くにりとゲオルグの指がまた乳首をつまみ上げる。
腰の辺りがぞくぞくする。ゲオルグがふと顔を傾けた。前髪の強い感触が皮膚を擦る。それに戸惑う間もなく、ファルーシュは息を呑んだ。
「あっ」
胸元に顔を寄せたゲオルグが、赤みを増した乳首を口に含んだのだ。
軽く前歯があてられ、引っ張られる。かと思えば、こりこりと舌の上で転がされ、ちゅうっと音を立てられ、きつく吸われる。その間にも、片方の乳首は指で絶えず、いじられている。
恥ずかしいのに、とてもくすぐったいのに、足の間がむずむずした。目が潤んでくる。どくどくと心臓が耳のすぐ近くで脈打っているようだ。
胸の上で揺れるゲオルグの髪からは彼の匂いが立ち上り、その匂いにくらくらした。
ゲオルグはファルーシュの頭によく手を置いた。父がするように、よく髪をくしゃくしゃにするのだ。近い距離で、体温を感じ、手のひらのあたたかさを知り、彼の匂いを嗅いだ。そのたびに、彼の気配が身に染み込むようで、嬉しかった。
涙が今にも落ちそうな目で、ファルーシュが見下ろせば、ゲオルグの赤い舌は乳首を巻き取るかのようにして、なめ回している。
「ゲオルグ、おねがいだから、やめて……」
ちゅぱりと濡れた音を立て、ゲオルグはファルーシュの乳首を吸い上げて、顔を離した。
願いが聞き届けられたと思ったファルーシュは、安堵の息を吐いたが、すぐに、目を見張った。ゲオルグの手は胸から臍へと下りていく。腰の線を撫で、一度、離れると、顔がふたたび伏せられた。腹や脇腹に吐息がかかる。唇が触れ、舌が触れ、そのまま下がっていく。
「あっ、だめっ」
臍の横をちゅっと音を立てて吸われたと同時に、膝裏に手が回る。持ち上げられ、左右へと押し広げる力に気づき、ファルーシュは腰をひねろうとした。
ゲオルグは片手を伸ばし、たやすく、それを押しとどめる。
彼の顔がそのまま、自分の足の間に伏せられようとする。
「いや、そんなとこ、どうして」
ゲオルグに逆らい、彼の顔を押しのけ、膝を閉じようとしたファルーシュだったが、ゲオルグの大きな手は、さほど力を込めたように思えないのに、それを許さない。
「暴れるな」
金色の目が荒々しい光を浮かべた。
「――噛み切るぞ」
喉元に剣を突きつけられたときの空気を声にすればさもあろうという殺気の籠もった低い声でそう言われ、ファルーシュは体を竦ませた。
おとなしくなったファルーシュの開かせた膝の奥、まずは太腿の内側へ唇を寄せる。怯えと羞恥に震える細く、薄い腿の肉を吸い、軽く噛む。
同じ場所でそれを何度も繰り返し、白い肌に一日や二日では消えぬ鬱血した痕が残ると、満足したように男は唇を離した。
ファルーシュは目を閉じて、羞恥に耐えていたが、唇が離れたので、瞼を開いた。
いつの間にか、閉じていた拳をゆるめかけたファルーシュだったが、すぐにきつく握りしめた。
「あ、あ、いやだ、そんな、汚らわしい……」
ゲオルグの口が、ファルーシュの幼げな肉芽を含む。ぬめぬめした生暖かい舌が絡み、巻き付いてくる。
根本から裏筋にねっとりと舌を這わせてから、指先を添え、先端の皮を舌先でこじ開ける。引っ張られる痛みに、ファルーシュはびくりと体を大きく揺らした。
痛みへの反応を見て、ゲオルグは包皮を剥くのはとりあえず止めておいた。何もこのときにすべてを行わずともよいのだから。
指でまだ小さな睾丸をもてあそぶ。指で弾いたり、二つを軽く打ちつけたりと、嬲っていると、ファルーシュが腰をくねらせた。拒んでいるはずのその仕草に、どこか誘うような媚態を感じるはなぜだろう。
唇からは、はっはっと絶え間ない荒く短い呼吸が漏れる。抗いの声も次第に響きが弱くなる。
「離して……ゲオルグ」
口腔からの解放は許さず、ゲオルグは肉茎を舌で嬲り続けた。膨れあがった先端を舌先でぐりぐりと擦り上げ、固く張りつめた全体を指でしごく。
初めて受けるであろう甘い刺激にファルーシュはうわごとめいた声を出し始めた。
「あ、だめ、いやあ……そこ、きたない――」
止めて欲しかった。恥ずかしくて仕方ないのに、何かがうねるように腰を突き上げてくる。
「あっ、ん、変、変なのが……」
その何かが排泄時のように外に出たがっている。それだけは駄目だとファルーシュは必死に堪えたが、口に含む肉茎の状態から、終わりが近いと判断したゲオルグは鈴口を舌で強く舐め上げた。
熱い舌に刺激され、ファルーシュの体から力が抜ける。
「だめ、だめ、出ちゃう、汚いからっ……!」
悲鳴のように叫んで、のけぞり、喉を露わにしたファルーシュの腰ががくがくと揺れる。
ゲオルグの口中に放たれたのは、えぐみも苦みもほとんどない、薄い精液だった。量も多くない。簡単に飲み干し、ちゅくりと先端を吸い上げる。
唇を離したゲオルグはファルーシュが見ているのを承知で、わざと自分の舌で唇を舐めた。かわいそうに。この少年の心は羞恥と衝撃によって、壊れそうなほどだろう。
ゲオルグの唾液に濡れ光る肉茎は、子どものような色合いともあいなって、何とも淫猥だった。目を凝らすと見えるような淡い、銀色の体毛を撫で、ゲオルグはちらとファルーシュを見上げた。
「あ……」
他人の口に粗相したという恥ずかしさに打ちのめされ、ファルーシュの目からは涙がこぼれ始めている。今から、この涙は絶えることがないだろう。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
泣きじゃくるファルーシュは、すっかり混乱しているようだった。膝を閉じることも忘れ、いやいやと首を振り、幼子のように泣いている。
「ごめんなさい、ゲオルグ」
「――射精するのは初めてか」
ファルーシュのいぶかしげな表情から考えれば、射精という言葉も聞いたことがないのだろう。
汚れを知らない、柔らかい新雪にも似た、真っ白なファルーシュの心を思い、ゲオルグの暗い欲望は、さらに貪欲さを増していく。
「ここに自分で触れたこともないのか」
軽く握りしめてやると、びくりと体が跳ね上がる。内腿を撫でさすり、鼠径部をゆっくり揉むようにする。
唇が開き、乱れた息が漏れる。赤い舌がちろりとのぞき、涙で潤んだ目が、すでに快楽への期待を無意識にもちらつかせているのに、ゲオルグの心は満足を覚えた。なかなかに従順だ。これからが楽しみだった。
「どうなんだ? ファルーシュ」
叱咤するように言うと、ファルーシュがこくこくうなずく。
体を起こしたゲオルグは、涙で汚れた頬を舌で舐め上げ、うっすらと右目を細める。
「そうか」
片方だけとはいえ、その金色の目に漂う凄みに、ふたたびファルーシュは恐れをよみがえらせた。本能的な恐れだった。男に、身も心も食い尽くされる。そんな予感がある。
自然、体をゲオルグから離そうとしていた。ゆっくりと自分から逃れようとするファルーシュに、ゲオルグは獣めいた笑みを浮かべた。
「そんな格好で王子が王宮を歩くのか」
その言葉に、ファルーシュははっとする。
衣服はもはやその用を為さず、布きれとして床に散らばっているだけだった。
部屋には錠が下ろされ、目の前には、ファルーシュが知る中で、最強の位置に属する男がいる。
なすすべがなく、ただ震え、怯えるファルーシュを横目にしながら、ゲオルグは自分の衣服に手を掛けた。
騎士装束を無造作に脱いでいく。肩当てや腰当てを外し、帯を解く。騎士服に覆われていた、骨太で筋肉質な肉体が露わになる姿を、ファルーシュは呆然と眺めていた。古傷があちこちに残る体は重たいほどの存在感があった。
下衣だけになったゲオルグは、ふたたびファルーシュに目を向けた。
「逃げないのか」
逃れられぬようにし向けた男の方が、おかしそうに訊ねる。そこにいつもの面影を見いだしたようでファルーシュは唇を開いた。
「ゲオルグ、どうして――」
「自分に聞け」
のし掛かってきた体の重みに、肌の熱さにファルーシュは目眩を感じた。
膝を開かせる手にも、あらがえない。何をしてもファルーシュの力はゲオルグには通じない。諦めと屈辱感に混じり、なぜという疑問が絶え間なく浮かぶが、声にもならなかった。
膝を閉じようとすれば、足首を掴まれ、ぐいと左右に広げさせられる。
もはや、隠しようもないほどに、何もかもが露わになってしまった。
ゲオルグの指や口腔に思う存分、愛撫された性器だけでなく、その下にひっそりとつぼんだ後孔まで、男の目は容赦なく、視線を注ぐ。
自分ですら見たことのない恥部が、彼の視線にさらされている。たまらない羞恥に、ファルーシュは幾度目かの許しを請うた。
「お願いだから、ゆるして……」
涙したたるような声にも、心を揺らさず、ゲオルグはさらに足を開かせた。
性器よりもさらに淡い色を見せる蕾へと人差し指を伸ばす。
「あっ!」
指先が襞を一つ一つ、丁寧になぞる。唇を噛み、ファルーシュはぞくぞくする感覚を堪えた。
と、指が入り込んできて、ファルーシュは思わず、うめき声を上げた。
太い指がぐにぐにと中で動いている。
「痛い、ゲオルグ……おねがい、抜いて」
気持ち悪さと痛みにファルーシュは喘いだ。握られた拳を口元にあて、肩を震わせるファルーシュの懇願を初めて、ゲオルグは受け入れた。
ゲオルグは指を抜き、後孔の狭さと小ささを確かめるように、またゆっくりと周囲を撫でた。会陰を指でなで上げ、睾丸の境目も同じように撫でてやる。
「ふっ、ああっ」
指を差し込まれた痛みの後に与えられた愛撫は、くすぐったさと違う感覚をファルーシュに与えた。悪い感覚ではない。
体から痛みに耐える緊張が消えたのを見て取り、ゲオルグは口の端をかすかにつり上げる。思う以上にこの体は素直で、淫らだ。
ファルーシュの肉茎は、かすかな反応を見せ始めている。そちらには愛撫を与えず、ゲオルグは襞へと顔を寄せた。
ふっと息を吹きかける。びくりと震えた尻の肉を甘噛みし、ゲオルグは舌を襞へ伸ばした。
「あっ、なにを――」
ファルーシュは身をよじったが、ゲオルグの手は彼の腿と尻を巧みに押さえて、逃げることを許さない。
余りの羞恥にファルーシュは、息を止めた。
厚い舌が入り込んでくる。生暖かく濡れた柔い感触が、ファルーシュの内側を探り、這い回る。
「ゲオルグ、いやあ、やめて、そんなとこを……ああっ」
舌でほぐし、唾液でぬらしてなお、後孔は容易にはほぐれない。拒むような怯えるようなその狭さに、これだけでは足りんなと独りごちたゲオルグは、身を起こすと、寝台の傍らにある卓の引き出しから、小さな瓶を取り出した。
ゲオルグが離れている間、ファルーシュは部屋の空気に冷たさに驚き、そう感じる自分の体と男の体がどれほどの熱を帯びているかを思い知らされた。
戻ってきたゲオルグが、ふたたび床に膝をつき、ファルーシュの両膝を開かせる。
ファルーシュは無意識に力を込めていたが、かすかな抵抗を楽しむように男の手は腿を撫でて、膝を開かせ、その間に己の体を割り込ませた。
ゲオルグは小瓶の封を開き、自分の指や手に垂らした。
彼の無骨な外見に似合わない、甘い匂いが漂う。嗅いでいると、頭が、さらにぼんやりしてくる。
わずかな量しか含まれていないが催淫作用のある香油があたたまったのを確認すると、ゲオルグはふたたび指をファルーシュの後孔に伸ばした。
ぬるりと指が呑み込まれる。ファルーシュは目をきつく閉じたが、そうすると、よりいっそう感覚が鋭くなる。
入り口付近を揉むように指が押し広げている。最初のような痛みはなく、周辺をいじられていたときのようなくすぐったさとむずがゆさがあった。
くちゅくちゅと濡れた音が響き始め、それと共に、匂いがいっそう濃くなった。
目を開くのが恐く、閉じているのも怖ろしく、ファルーシュはまばたきをしては、目を閉じ、また目を開いて、視線を彷徨わせた。
ゲオルグが何を望んでいるか、これから何をするつもりなのか、分からない。
あのような排泄に使う器官を苛んで、屈辱を与えるなんて、ゲオルグが知らぬ間に自分は、どれほど彼に嫌われるようなことをしたのだろうと思う。
「――ゲオルグ、ごめんなさい」
涙が落ちる。
「僕は自分が気づかないうちに、あなたに失礼なことをしたのでしょう」
ゲオルグの怒りの原因すらも分からない自分の愚かさが情けなくて、悲しくて仕方ない。白く柔らかな曲線を描く頬を、涙が濡らしていく。
「だから、あなたは、僕に」
ファルーシュの言葉を遮るように、ゲオルグはやれやれとため息をついた。
「なんて子どもだ」
苛立ったような呟きだった。
「ファルーシュ、お前の鈍感さには呆れるぞ」
ああ、やはり、自分が思ったとおりだったのだとファルーシュはうなだれた。
あれほどにしつこくまとわりついても、ゲオルグが厭な顔をしていないから、図に乗ってしまったのだ。彼は女王騎士で、父の親友なのだから、その子どもで王子である自分に対して、拒否など出来ようがない。
それなのに甘ったれるばかりで、彼の気持ちも想像しなかった。もはや、ごめんなさいと繰り返すしか、ファルーシュには出来ない。悪い子だから、失礼な子どもだから、このようにお仕置きをされるのだ。
ぐったりと力を抜いたファルーシュの体を撫で回し、ゲオルグは言った。
「そのまま力を抜いておけ」
ファルーシュから手を離したゲオルグは下帯をゆるめた。下衣から男根を引き出し、手で数度、擦り上げて、勃起させる。ファルーシュの後孔に塗り広げた香油の小瓶を傾け、己の男根の先端へも香油を垂らす。
濃い、黒々とした茂みから隆起した男根は、濡れ光ることもあり、怖ろしいまでの肉の凶器に思え、ファルーシュの体は震えた。
その怯える様も、男の欲望を煽るとは知らず、ファルーシュは涙に濡れた目で、ゲオルグを見つめ続けた。もしや、何か奇跡が起きてゲオルグが許してくれるかもしれないと信じるような、ひたむきな眼差しだった。
健気なまでのファルーシュの表情に、ゲオルグは幾分、眉をひそめただけで、ふたたび、少年の膝を抱え直した。
唾液と香油で濡れそぼった後孔に、ゲオルグの先端があてがわれる。
ひくりとファルーシュの喉が鳴った。
「あ……」
自分の下肢を見下ろすファルーシュの瞳からは信じられないと言いたげに涙が落ちる。それを指先で拭ってやり、ゲオルグは男根の先端を後孔へと押し入れた。
息を噛み殺すような音がファルーシュの唇から漏れる。苦痛の度合いを推し量りながら、ゲオルグはカリの部分までそろそろと押し込んだ。
ファルーシュの胸は荒く上下し、口も開いたり、閉じたりを繰り返している。大きく見開かれた瞳から、涙が粒となって、落ちていく。貫かれる衝撃と痛みに声も出ないようだった。
一度、腰を引き、少しだけ抜くと、また先を沈める。二、三度、そうする内に、ファルーシュの乱れた呼吸も、少し落ち着き、男根も半ばほどは、ファルーシュの内へ入っていた。
頃合いだろうとゲオルグは強く突き進め、根本まで呑み込ませる。
ファルーシュは、はっと苦しげに息を引いた。
眉間に皺を寄せたその顔を眺め下ろしながら、ゲオルグは前後に腰を揺すった。
くくっとファルーシュは呻く。熱い塊が下から全身を押し上げてくる。痛いというよりも苦しかった。
狭さときつさにゲオルグも顔を歪め、中を確かめるように、軽く、揺さぶった。
内側から擦られ、ファルーシュはその余りの感覚に、悲鳴を上げた。
「助けて、いや、父上っ、母上っ」
ゲオルグは腰を引き、また抉ってくる。
肉の楔は最奥で蠢き、その熱さと大きさをファルーシュの体に刻み込んでいく。
ゆっくりではあるが、抜き差しされ、ファルーシュは涙をこぼし、首を振った。絡まり、もつれる髪を男の指が梳いてやる仕草にも気づかないまま、ただ、助けを求め、許しを請うためにゲオルグの名を呼んだ。
重たく、たくましい体にのしかかられ、その肌の熱さと共に潰されてしまいそうだった。
内側の肉を擦るように、ゲオルグは腰を動かす。触れられる、ということすら知らなかったそこは、男根の熱さと堅さに怯え、とまどうようにひくつき、蠢いている。
己の肉をたっぷりと打ち込み、その感覚を覚えさせようと、ゲオルグは抜いては貫き、ファルーシュを喘がせた。
香油とゲオルグの性器から溢れる先走りでびっしょりと濡れた結合部分からは絶え間なく、ぬぷぬぷと卑猥な音が響く。
深い場所にあった男根が引かれていく中、ファルーシュは、びくりと腹部を波打たせた。
「ひうっ」
それをゲオルグは見逃さず、もう一度、同じ箇所をカリの部分で擦るようにした。
「あっ」
腰を浮かして逃げ出したくなるようなふわついた、それでいてじんと痺れるような感覚が襲う。ゲオルグの微笑にファルーシュは気づかず、目を閉じて、首を振った。
ゲオルグはゆるゆると、そこを攻めてやる。
「こわい……あっあっ……いやあ、こわい」
つつかれ、擦りつけられる箇所から湧き上がる異様な感覚が、全身に広がる。ゲオルグの口に肉茎を含まれたときにも似て、それ以上に強いそれだ。
目の前が白くなり、腰を引きたいほど怖ろしいのに、もっとその感覚を与えて欲しくなる。
ぐいっとゲオルグが先で突き上げてくる。
「あ、んっ」
下肢はじんじんと痺れたようになっている。ゲオルグが腰を打ちつけてくると、それに合わせでもしたかのようにファルーシュの腰も揺れてしまう。
「いやらしいな、お前は」
ゲオルグが乾いたような、どこか低い声で囁いた。
「男を受け入れるのは初めてなのに、これほどに乱れて」
「ひっ、ごめんなさい……あっ、あっ」
何を言われているのか分からぬままに謝り、ファルーシュは口を手で覆った。ゲオルグがファルーシュの腰をつかみ、揺さぶったのだ。
今までよりも強く、擦られて、瞼の裏に火花が散った。さきほどまで苦しさと痛みで、どうしようもなかったのに、今はまったく違う。頬に流れる涙も、意味を変えて、口を覆わなければ、甘えた息や声がこぼれてしまいそうだった。
これは仕置きなのだ。ゲオルグに失礼なことをした自分は身をもって、償わねばならぬのに、これではまるで、歓んでいるようだ。
けれど、ゲオルグが動くたびに、じわじわと体が高みへと押し上げられていく。彼の腰が引かれて、中に容れられた熱くて固いものが抜けそうになると、腰が揺れてしまう。自然と後孔がすぼまって、くわえ込もうとしてしまう。
淫らな王子だとゲオルグはファルーシュの耳朶をくわえ、息と共に言葉を吹き込んだ。
「俺が仕置きを加えているというのに、お前は反省もせず、悦んでいる」
「ごめ――あっ、ひっ、いやっ」
ゲオルグの指が、乳首をぴんと弾く。痛いはずなのに、じいんと腰に甘い痺れが走る。
そのままゲオルグの指が、二つの乳首を同時に挟み、こね回す。痛みに似て、まったく違う熱いものが、触れられるたびに生まれて、ゲオルグと繋がっている部分に流れていく。
「ファルーシュ、お前は、いやらしい悪い子だ」
仕置きのように、ゲオルグが乳首をきつくつまみ上げる。
「あっ」
今、痛みを与えた乳首を、くにゅりと指の腹で押すようにして、揉む。せわしない息を漏らし、ファルーシュは切なげに首を振った。
ゲオルグは腹の下で、じわりと雫を滲ませているファルーシュの肉茎を片手で包み込んだ。
「王子ともあろうものが、こんな恥ずかしい場所に男のものを呑み込んで、よがっているとはな」
言葉の意味ではなく、声の響きに自分が責められていることを悟り、ファルーシュはごめんなさいと何度も謝った。
ゲオルグが低い声を上げて笑う。
「そうやって謝りながら、どうだ」
ゲオルグは腰を引き、男根を中程まで抜く。ぐちゅりと濡れた音と共に、後孔が未練そうにひくひくと蠢いた。
「お前の尻は、男を欲しがって、ひくついているぞ」
「あ、あ、いや……」
ファルーシュは喘いだ。そこに誘うような匂いを感じ取り、ゲオルグは先端で、中をかき混ぜるようにしてやった。ファルーシュの甘い悲鳴を聞きながら、再び、中にずずっと押し入る。媚肉は悦ぶようにして、男根を迎え、やわやわと締めつけてきた。
「ファレナの王子が、これほどに淫らでいやらしいとはな」
呆れたようにゲオルグがファルーシュをなじる。
「他の者が知ったら、どうするだろうな? リオンやカイル、それにお前の父や母が知ったら――」
ファルーシュは口に当てていた拳を離し、首を振った。
「やめて、ゲオルグ、言わないで」
ファルーシュが涙をたたえた瞳で哀願する。
「おねがい」
ゲオルグはファルーシュの下肢に滾りきった男根を打ちつけているとは思えぬほどの、冷徹な眼差しを見せた。
「それが、人にものを頼むときの態度か、ファルーシュ?」
ぐりぐりとファルーシュを抉るように、男根が突き上げられる。
その衝撃に、唇がだらしなく開きそうになる。堪えようと、必死に唇を噛みしめた。
「お前は口のきき方も知らんのか」
「あ……ごめ、んなさい」
言葉の途中にもゲオルグはファルーシュを喘がせた。
ずずっと押し入ってくる男根は、ファルーシュの思考をぐずぐずにかき回すがごとく、熱い。
「――悪い子だ、ファルーシュ」
低い、どこか艶のある声が耳元に息と共に吹きかかる。
「ひっ」
ゲオルグの親指が先端を擦り上げた。同時に、内部を強く突かれた。その瞬間、意識が真っ白になる。声を上げたのもゲオルグの肩に爪を立てたのもまったく気づかず、ファルーシュは二度目の吐精を迎えた。
さきほどよりも、もう少し粘りを帯びた精液が己とゲオルグの腹を汚す。それにも気づかず、ファルーシュは激しい快感の余韻に目を閉じ、ただ荒い息を吐いていた。
ひくひくと震えるファルーシュの体を見下ろしたゲオルグの口元にかすかな笑みが浮かぶ。
紅潮した頬、目尻に溜まった涙に濡れた睫毛。薄く開かれた唇は呼吸のたびに、赤い舌がちろちろとのぞく。整いすぎて、人形めいてさえ見える美貌がいま浮かべているのは、陶酔であった。ファルーシュ自身も気づいていないその快楽に酔った表情はゲオルグのみが、満足げに見下ろしている。
さらに、男根は質量を増す。貫かれる快感を覚えたばかりのファルーシュの内は熱く、とろけるようにして、ゲオルグを包み込んだ。
ファルーシュはかすかに身をよじる。逃げるというよりも逃がすまいとするように、後孔が男を締めつけた。
細い腰を掴み上げ、ゲオルグは激しく、己の腰を打ち付けた。ぱしぱしっと皮膚が擦れ合う音が響く。
「ああっ」
ファルーシュの唇から、切ない声が漏れる。衝撃に腰が浮き、指先が床を擦り、銀の髪がうねるように乱れる。その姿は羞恥に身をよじるのではなく、与えられる快楽に酔いしれる痴態だった。
ゲオルグは片手で、たった今、精を吐き出したファルーシュの肉茎をいじる。鈴口とカリを刺激されると、快楽を教えられて間もない若い肉茎はゲオルグの手の中でたちまち、張りつめ出す。
「いや、んっ、あっ」
くちゅりと水音が響く。性急ともいえる手つきで、ゲオルグはファルーシュを追い上げた。
「あっ、いや、出ちゃう……」
いやいやするようにファルーシュが首を振り、目尻から涙がこぼれた。
「あっあっ、だめっ――!」
腹部を震わせながら、ファルーシュは白濁を放った。
達したファルーシュの後孔がきゅっと男根を締めつける。ゲオルグはファルーシュの内に、深く沈み込ませた。
痺れに似た余韻が残るファルーシュの体の中で、どくりと何かが脈打つ。ゲオルグが射精したとは分からず、ファルーシュは内側を満たすように溢れてくるその熱さに目を見開く。
ふっとゲオルグが息を吐き出す。張りつめきった男の肩から力が抜けていく。
熱さだけを残し、中に入っていた男根は力を失っている。それでもなお、まだその存在を感じさせた。
ゲオルグはしばらくファルーシュの上にいたが、体を引いた。中でずるりとそれが動く。後孔が引き抜かれることを拒むようにゲオルグの肉にまとわりついてきた。
「まだ、欲しいのか」
ゲオルグの声には笑いが含まれている。
「本当にお前は、はしたない、悪い子だ」
ゲオルグはファルーシュから身を離すと、性器を下衣に仕舞い、帯を締め直した。脱いだ衣服を淡々と身につけていく。上衣を羽織るとき、ゲオルグの指先がファルーシュがつけた肩の傷を、そっと撫でたが、ファルーシュは気づかなかった。
全裸で床に横たわったまま、どこかうつろな目で、自分の指先を見つめていた。
するすると涙が溢れてくる。それがどのような意味を持つ涙かは、自分にも分からなかった。悲しいとも苦しいともいえるし、やるせないともいえる。ただ、心は虚ろだった。
持て余すほどに熱かった体が、ひどく冷たい。無意識のまま膝を動かすと、何かがとろりと内側から流れてきた。
女王騎士の装束にふたたび身を包んだゲオルグはファルーシュの側に膝をついた。
女王騎士たる彼が、自らが仕える王子の側に跪くのは、不思議なことではないが、彼は、その王子を陵辱したのだった。
固い手のひらが、ファルーシュの膝を開かせる。ゲオルグを受け入れていた後孔は、すぐにはつぼまず、引き抜かれた男根に引きずられた精液をこぼしていた。
凄惨なまでに淫らなその部位に、ゲオルグは隻眼を細めた。舐めるように、ゲオルグはファルーシュの全身を眺める。
乱れ、もつれた銀髪のうちかかる白い顔には、打ちひしがれた表情が浮かぶ。細い首筋になまめかしい影を持つ鎖骨、赤みが引かない乳首、細い腰へと視線は下がり、ゲオルグがひときわ濃く、付けた太腿の付け根近くの痣へと向けられた。
指先が優しく、その痣を撫で回す。それは、ファルーシュがこの部屋に入って、初めてゲオルグから与えられた優しさだった。
おののきながらもファルーシュはゲオルグを見上げた。
ゲオルグはファルーシュの眼差しを受け止め、薄く微笑した。
ファルーシュは身を起こした。彼から逃れたいのか、それとも、すがりつきたいのか。
肌の感触を楽しんでいたゲオルグの指が、ファルーシュの迷いを捕らえるかのように、きつく痣に食い込んだ。
爪が立てられる。痛みに身をよじらせたファルーシュの顎をつかみ、こちらを向かせると、ゲオルグは睦言でも囁くかのように、優しく、ささやいた。
「――誰にも知られたくなかったら、腿の痕が薄くなった頃、またここに来い」
仄暗く光る金色の瞳に、魅入られたようにファルーシュはただ、うなずいた。
男が浮かべた笑みは、獲物を食い尽くした肉食獣の満足げなそれであり、ふたたび獲物を狙う獣のそれでもあった。