まっくらあなのなかで



 消灯、と村長が叫びながら、村を回っている。俺はたいてい、消灯前には、穴に引っこんでいるから、あんまり関係ないけれど、出歩いていた村の人たちは慌てたように、いっせいに自分たちの穴に戻り出す。地面に横たわっていると、足音が地響きみたいに聞こえ、伝わる振動は地震のようで、少し怖い。
 手探りでブータを探して、胸に抱き込む。ブータが胸の真ん中当たりをぺろりと舐めた。大丈夫だよ、って言ってくれてるみたいで、ほっとした。
 村長の声が遠ざかると、あちこちの穴からひそひそ囁き合う声が聞こえ出す。小さな子の話し声や、誰かの笑い声が時々、大きくなるけれど、すぐにまた元通り、小さくなる。
 消灯だからっていって、みんなすぐに眠るわけじゃない。俺だって、父さんと母さんがいた頃は、消灯の後、穴掘りから戻ってきた父さんに、お喋りしていたし、母さんは俺をあやして、体をゆっくりぽん、ぽん、と叩きながら、色々なお話をしてくれた。
 今は二人ともいないし、三人で暮らしていた穴も、他の家族のものになって、俺は一人で小さな穴に寝起きしている。
 仲がいい同士だと、お互いの穴と穴の間に、小さな細い穴を掘って、声を通せるようにして、ずっとお喋りしていたりするらしいし、なかには、穴を移動して、一緒に眠ったりする人もいるらしいけど、『穴掘りシモン』の俺には、そんな相手もいないから関係ない――はず、だった。この間までは。
 消灯の合図の後、俺はいつもどきどきする。穴の外の気配に耳を澄ませてしまうから、他の穴のお喋りもよく聞こえてくるんだ。
 でも、俺が聞きたいのは、ううん、待ってるのは、足音だ。いつもは雪駄なのに、こんなときだけ裸足で、足音を殺して、やってくるから、聞き分けるのは難しいけど、もう覚えてしまった。
 ごそごそっと穴の外で物音がする。
 ブータが腕の中でびくっと動く。俺は背中をぎゅっと丸める。瞼も閉じてるはずが、俺は目を大きく開いて、穴の入り口を見てしまう。
 真っ暗な穴だから、消灯とはいっても、外はうっすら明るい。そこで大きな影が動いている。
「シモン、起きてるな」
 きっと、カミナは俺よりも、夜目が利くんだ。俺がちょっとだけ動いたのに、そんな風に訊いてくる。寝るためだけに掘った穴は横長で、高さはないから、カミナは四つんばいになりながら入ってきた。ただ、今日はいつもみたいに頭をぶつけたりはしないはずだ。
 俺はブータを抱っこしたまま、横にずれる。
 カミナは気づくかな、でも、あんまりそんなことに興味なさそうだし、たぶん、気がつかない。気がつかないでいてくれた方が、俺はほっとする。ちょっとだけがっかりするけど、本当にちょっとだけだし。
「よっ、と」
 カミナが俺の横に寝っ転がる。体をこっちに向けているのが分かる。
「起きてんだろ」
「うん」
「こら、最初に声かけたときに、返事しろ」
 こつんと額が人差し指の関節で叩かれる。ちっとも痛くなくて、そのままカミナは俺の肩に手を置いて、ぐいと抱き寄せられた。
「わっ!」
 ブータがあぶない、と思ったけど、するするっと胸の上をブータは走っていった。上手に抜け出せたみたいだ。
 カミナの胸の下くらいに俺のほっぺたがくっついている。ひっつきすぎかなと思って、少しずらそうとしたら、頭を押さえられてしまった。
「……シモン」
 声にうながすような響きがあった。それに、カミナには何度も言われているから、最後まで言われなくても、俺はどうしたらいいか分かる。
 分かるけど、まだちょっと恥ずかしいし、緊張する。でも、しなくちゃいけないんだ。
 カミナは横向きで、その腕の中の俺も横向きだから、両腕は無理だけど、片方の手を伸ばして、カミナの腕と腰の間から手を入れて、抱き返す。
 よし、とカミナがうなずいた。
 ほっぺたから伝わるカミナの体温はあたたかい。目を閉じていると、カミナの心臓が、どくどくと脈打っているのが分かった。俺よりは、少しゆっくりかな。いつもよりは、ちょっと早いような気もするけど。
 出会ったときから、俺よりは大きかったけど、今のカミナは昔よりもずっとずっと肩幅も広くなり、胸板も厚くなった。背も伸びて、村でも一番か二番かっていうくらいに高くなった。俺と幾つも変わらないけど、俺よりもずっと大人の体を持っている。
 その腕の中にいると、体全体で包まれているような気持ちになる。
 父さんに抱っこされていたときのようで、うとうと眠たくなるけど、カミナはちっとも眠くならないようだ。
 カミナがあったかくなって眠たくなるためには、一緒に寝る俺があったくならなきゃいけない、らしい。だけど、俺は小さいし、がりがりだからからあんまりあったかくない。だから、カミナは俺をあためるために、体のあちこちを触ってくる。
 初めてそうされたときはやっぱり、びっくりしたけど、こうしたら暖かくなってよく眠れるって言われたから、納得した。
 今日も、カミナは俺のつむじに鼻先を押しあてたり、唇を当てたりしている。唇がたまに額にもあたって、くすぐったい。
 眠たいのに笑ってしまうから、なんだか、いつも以上に気が抜けた笑い声になってしまった。カミナが、ちょっと動きを止めて、また唇をくっつけてくる。
 唇は額から降りてきて、瞼や、鼻の上、ほっぺたに当てられる。たまにぺろんと舐められた。ほっぺたは、いっつも囓られるけど、前歯の先で、ちょこっとつままれるくらいだから、痛くない。痛くないけど、唇で触られた場所が火傷したみたいに熱くなる。カミナの舌は、ブータと違って、大きいし、もっと熱いから、たぶん、その熱いのが俺にも移っているんだろう。
 カミナの唇が、俺の唇に触れた。ちゅっちゅっと上の唇も下の唇を吸われたかと思うと、舌で唇が濡らされて、また吸われる。
 やっぱり、今日も、そうなのかな。俺をあったかくするのかな。たぶん、そうだろうけど、違っていたら、どきどきしている自分がみっともないから、確かめたくなる。
「かみな」
 ちょっと言い方が舌足らずになったから、きちんと言い直す。
「カミナ」
「兄貴だろ」
「あにき……今日も、おれのこと、あったかくするの?」
「おう」
 兄貴がうなずいたとき、耳に息が吹きかかって、ぞくぞくしてしまう。
 寒くないはずなのに、耳やうなじに触られたり、息がかかると、鳥肌が立って、むずむずしてしまう。変な感じだ。寒くないのに、寒くないなんて。
 耳たぶを囓られ、うなじを指で撫でられて、兄貴にしがみつく腕に力がこもってしまった。
「そうそう、しっかり抱きついとけ」
「だって……」
 兄貴が苦しくなるよ、と言おうとしたのに、兄貴が唇をくっつけてきたから、俺の言葉は口の中に戻ってしまい、言えないまま、兄貴の舌に呑み込まれてしまった。
 舌をくっつけてくる兄貴に、俺の舌もくっつける。舌先が絡まって、ほどける。兄貴の舌は俺の口の中を音がするほどに、舐め回して、また俺の舌にくっつく。
 続けていると、眠たいのとは違う種類のぼんやりした感覚が生まれてきて、息が苦しくなる。体はきちんと起きているんだけど、あちこちが、じんじんして、言うことをきかない感じだ。たぶん、腕から力が抜けてるはずなんだけど、こういうときは兄貴は何も言わない。
 唇を離した兄貴が、首筋を舐めながら、呟いた。
「上手くなってきたな」
 その声が嬉しそうだったから、俺も嬉しくなった。兄貴に誉められるのは、すごく嬉しい。わくわくして、幸せな気持ちになる。村長に誉められたときはそんな風には思わないのに不思議だ。
「ほんと? ちょっとはあったかくなった?」
「ああ、結構、あったまってきたぜ」
 へへっと笑うと、兄貴がもう一回、唇をちょんとくっつけてくれた。 
 体をくるんでいたブタモグラの毛で出来たマントを脱がされる。兄貴がそれをひょいと投げやった先にブータがいたみたいで、ぶっと小さな鳴き声がした。
「ブータ?」
 ブータが返事する前に、兄貴がまた俺の口に唇をあてて、それだけじゃなく、胸を触ってきたから、俺はブータのことを考える余裕を無くしてしまった。ごめんね、ブータ。いま、俺の頭の中も、外も兄貴でいっぱいで、どうしようもないんだ。
 兄貴の大きな親指は固くて、ちょっとざらついている。その先で、俺の乳首をきゅうっと押す。それだけじゃなくて、丸を描くみたいにぐりぐり動かして、俺は鼻声みたいな声を出してしまう。
「んっ」
 声を出すと、兄貴は触り方をもっと強く、でも、優しい感じの触り方にしてくれた。
 親指と人差し指の間でつまんで、ひっぱったり、周りを撫で回しながら、乳首を時々、ひっかいたりするんだ。
「ひゃ、んっ」
 声が自然に出ちゃって、恥ずかしい。
 俺は、自分の体が、熱でも出てるかと思うくらい火照っているような気がするんだけど、兄貴にはまだ冷たいらしい。だからって訳でもないだろうけど、兄貴の顔が下りてきた。
 おっぱいなんて出ないのに、兄貴は俺の乳首を吸う。指でしていたときと同じだ。歯で噛んだり、引っ張ったり。舌で舐めたり、つついたり、ぐにぐにこね回すみたいにする。
 濡れて、あったかい舌でそうされていると、足の間が痛くなる。体の奥のじんじんと心臓のどきどきが一緒になって、涙がいっぱい出てきてしまう感じの痛みだ。
 吸われていない方の乳首も、指で、いっぱいいじられて、俺は、変な甘ったるい声を出してしまう。
「ふあっ……あっ、あっ」
 父さんや母さんに甘えていた頃だって、こんな声出したことなかったのに。兄貴に乳首を吸われてると、たくさん、声が出てしまう。
「あっ、やん、あっ」
 ちゅぱちゅぱ音が聞こえる。それはまるで、本当に赤ちゃんがお母さんのお乳を吸うような感じだから、もっと恥ずかしくなる。
 足の間が痛くて熱くて仕方ない。おちんちんが腫れてきているのが、今でははっきり分かった。兄貴が乳首を吸ったり噛んだり、触ったりするのにあわせて、そこも、腫れて痛くなる。膝をすりあわせると、先が褌に擦れて、その感触に目の前が白くなった。
 もじもじしているのを気づかれたくないのに、兄貴は見逃さない。
 兄貴は俺の腰を抱いて、浮かせると、履いていたズボンをするすると取り去ってしまう。
「あにき、やだ、ゆるして」
 兄貴の言うとおりにするしかないのは分かっているけど、その通りにしていても、恥ずかしさが消えることはなくて、いつも俺はぐずってしまう。
 だけど、こういうときの兄貴は容赦なくて、褌の横紐の結び目も簡単に解いてしまった。褌を脱がされるとき、おちんちんがくっついていた前袋が冷たくて、もう濡れてしまっているのが分かって、恥ずかしさに涙がまた出てきてしまう。
 兄貴の指が先っぽに触れると、それだけで、体が震えた。兄貴の手のひらに、包み込まれて、目眩がする。
「だめ、あにき、だめ」
 いつも触られるけど、そのたびに、俺はだめって言ってしまう。だって、そこは、おしっこをするときに使う場所だから、綺麗じゃないはずだ。そりゃ、ブータにだって、ちゃんと舐めてもらってるけど、でも、やっぱり。
「先っぽ濡らしといて、だめ、はねえだろ」
 兄貴は指の腹で、濡れているのを広げるようにしながら、くにくにいじる。それだけじゃなくて、玉を指でくすぐられたり、持ち上げられたりして、俺は泣きながら首を振るしか出来なくなった。
 痛いんだけど、ものすごく嫌って訳じゃない。ううん、もっとしてもらいたいような気持ちになるけど、こんなところを兄貴に触られて、悦んじゃうなんて、俺はだめな子だ。
「あっあっ、だめ」
 兄貴と唇や舌をくっつけたり、乳首を吸われていると、俺のおちんちんは腫れて大きくなり、お漏らしでもしているように先が濡れてしまう。病気じゃないって兄貴は言ってくれるけど、こんな風になると、体中が火傷しそうなくらいに熱くなっていて、頭の中がぐずぐずになって、まともなことを何も考えられなくなる。
「こわいから、だめ」
 涙が止まらなくて怖いはずなのに、兄貴が触ってくれていると、俺のは、もっと固く熱くなる。
「こわくねえよ。俺がいるだろうが」
 兄貴が額に唇をあててくれる。おちんちんを触っていない手が優しく体を撫でてくれた。
「いっつも言ってるだろ。気持ちいいことなんだから、こわがらなくていいって」
「ふっ、え、だって……」
 何が言いたいか、よく分からなくなって、しゃっくりがこみあげてくる。こんなにだだをこねたりしたら、兄貴に嫌われそうでいやなのに、止まらない。
「おれ……なんか、はず、かし、へ、変だもん」
「変じゃねえよ」
 ああもう、と兄貴は呟くけど、怒ってる響きは全然なかった。ちょっと困ったような、でも嬉しそうな、変な感じ。俺の頭が、ぽわぽわしてるから、そう聞こえるのかな。
「あんま泣くな。眼、溶けるぞ」
 兄貴が瞼に唇をくっつけて、涙を吸ってくれた。そのまま、手を掴まれて、兄貴の足の間に持って行かれる。
「ほら、俺もお前と一緒だろ。変じゃねえ。恥ずかしくもねえ」
 俺が触っているところは、布越しでもはっきり分かるくらい、熱くて大きくなっていた。眠気なんてどこにもないのに、眼がとろんとなって、なんだかぞくぞくしてしまう。
「……これ、いっつも、おれの中に入ってるの?」
「ああ」
 兄貴がかすれた声でうなずく。そこが、なんだかまた固く、大きくなったようだ。
「これで、おれ、あったかくなるんだよね」
「ああ」
 どくどくとまるで、そこが心臓みたいに脈打ったような気がした。俺も兄貴に触られていると、そうだから、ほっとした。よかった。
「そっかあ……。あにきと一緒なんだ、おれ」
 兄貴がしてくれることだから、大丈夫なのに、どうして俺、不安になってたのかな。
「あにきのも、おっきくなってるね」
「――シモン」
 兄貴が、かすれているのに、変に熱っぽい声で俺を呼んで、すごい勢いで舌を吸ってきた。そのまま呑み込まれてしまうかと思ったくらいだ。
 顔に兄貴の唇が降ってくる。息が止まるほどの力で抱きしめられてびっくりした。
「毎回、毎回、煽りやがって」
「ふえ、ご、ごめんなさい」
 兄貴があちこちに吸いついてくる。時々、噛んだり、口の中でむにゅむにゅ食べたりもしている。初めて、されたときは、兄貴が俺のこと食べちゃうのかなと思って、ちょっとこわかった。
 今はこわくないけど、兄貴がこうしたあとは、必ず、赤い痕が残ってるから、俺はマントでしっかり隠さないといけなくなるんだ。
 首や肩や腕の内側、胸に脇腹、吸いつかれて触られて、俺の体からは、きっと兄貴の匂いしかしない。ブータは俺のことちゃんと、分かるかな。
 シモン、と兄貴が、俺の名前を呼ぶ。ふわふわあたたかくて柔らかい毛布に包まれているような気分になって、俺も兄貴と呼ぶけれど、その前に唇を吸われてしまう。
 兄貴の手がお尻をつかむ。むにゅ、と揉まれて、兄貴のおっきな手がお尻の肉を二つとも掴んで、こね回す。
 自然、体がくっつきあって、おちんちんが兄貴のお腹に擦れてしまう。
「ひ、あ……」
 よごれちゃうよ、と言おうとするけど、なんだかふにゃふにゃした声にしかならない。
 兄貴の固くなったものも俺の腿にあたる。そのたびに、目の前がちかちかして、兄貴に触られると、それがどんなところでも、泣き声と甘える声を混じらせたみたいな声が出た。
 ぐに、とお尻の穴に指が入ってくる。少しずつ指が増えていって、かき回すみたいに俺の中で動く。
 目を閉じたら、端っこから涙の粒が落ちて、口の中に入った。
「あにき……変なかんじだよお」
 兄貴のお尻の中をいじられていたら、むずむずしてきた。痛いよりも、喉の奥まで、柔らかい塊で塞がれているような、変な苦しさがある。
「痛えか?」
 首を振る。
「変なの、むずむずする」
 じゃあもう大丈夫だなと呟いて、兄貴が俺の体に覆い被さってくる。
 兄貴の息はすごく荒くなってる。村長に追いかけられて、村中駆け回り、最後に俺の所に逃げ込んでくるときみたいに、はあはあ言って、体にもたくさん汗をかいている。
「シモン、力抜いとけよ」
 赤ちゃんがおむつを返る時みたいな格好にさせられて、膝を広げられる。
 開いた足の間に兄貴が入ってきた。帯をほどいて、ズボンを下げている音の後に、膝裏をぐいっと持ち上げられて、俺は目を閉じる。
 兄貴のがお尻の穴に触る。先は俺と同じように濡れてて、俺よりもずっと大きいそれが、ゆっくりゆっくり体の中に入ってくる。
 兄貴の唇や胸や腕、指も熱かったけど、やっぱり、一番、熱いのは、ここだ。
「あっ……」
 指でほぐしてくれたけど、兄貴のおちんちんは、指なんかよりももっと太くて熱いから、入ってくるとき、体が二つに裂けちゃいそうなくらいにきつい。
 体が強張って、無意識に締めつけていたみたいだ。ぐっと兄貴が苦しそうに呻く。
「シモン、喰うなら、もうちっと、優しくな」
 兄貴が顔を近づけて、吐息混じりにささやく。頬に唇があてられて、手が胸全体を揉む。
「ふぁ、あっ」
 力が抜けて、その間に、兄貴のがどんどん奥に入ってくる。
 ああ、俺、兄貴の食べちゃってる。そう思ったら、体中がぶるぶる震えて、兄貴と俺のお腹に挟まっているおちんちんが、きゅうっと固くなる。
 兄貴が体の間に手を伸ばしてきた。
「あ、だめ、さわっちゃ、だめ」
  ほんとはだめじゃないのに、だめなんて、言って、兄貴が止めたらどうしよう。
 でも、兄貴は止めたりはしないで、親指と人差し指の間でゆっくり擦ってくれた。
「あっ」
 つまむみたいな、優しい触り方なのに、そこからびりびりと電気が走ったみたいになる。
「あにきぃ、あついよお……」
 お腹がとてもあつい。兄貴のおちんちんが、俺の中で暴れている。
「お前の中の方が熱いっての」
 兄貴が腰を引いたり、揺らしたりするたびに、体が勝手に跳ねるみたいになって、腰が揺れてしまう。
 腿の奥や足の付け根のあたりに、じょりじょりしたものがあたった。俺と違って兄貴は、ちゃんと立派な太い毛が脇や臑や股間にも生えているから、それがあたってるんだ。むずがゆいようなちくちく痛いような、でもそれだけじゃないから、訳がわからなくなる。
 お尻からは、ぬちゃぬちゃ粘っこい濡れた音が聞こえて、兄貴が俺をいじめるみたいに、ぐりぐりとおちんちんの先を奥に擦りつけてくる。
「ひゃ、あんっ、あん、だめ、そこ、だめ」
 体の奥に、不思議な場所があって、そこを兄貴に突かれると、俺の頭の中は真っ白になる。ぽたぽた、おちんちんの先から液がいっぱいこぼれてしまう。
 あんなにいたかったのに、もういたくなくて、体がぐずぐずに溶けていく。兄貴の腰に自分の足を巻きつけて、兄貴が腰を揺らすと、俺も合わせるように動かしてしまう。
「シモン」
 兄貴の両手は顔のすぐ横にあった。兄貴の汗が俺の頬や唇に落ちた。舌先で舐めたら塩辛くて、なのに甘い気もする。
俺はここにいるのに、兄貴を食べちゃっているのに、兄貴に食べられちゃってるのに、一人で、どこか遠いところに、とても高いところに引き上げられたみたいな気持ちだ。
「あにき」
 胸が苦しくなって、呼んだら、まるで俺がそうして欲しいと思ったのが分かるみたいに、兄貴の唇が重なった。
 今まで以上に強く、腰を強く打ちつけてくる。ぱしぱしと肉がぶつかる音が大きく、早くなった。
 おちんちんがきゅうきゅうに膨れあがっている。痛くて苦しくて切なくて、胸がいっぱいだ。
「あにきぃ、あついの、いっぱい、くる、きちゃうよ」
 イけよ、と低い声がすぐ側で聞こえた。ぱちんと目の前で火花が弾けた。
「あ、だめ、ひ、あっ……!」
 気持ちいいのが体から流れ出していく。
「シモン」
 名前を呼ばれて、上を見上げたとき、兄貴が呻いた。
 兄貴の熱いのが、俺の中にどくどく流れこんでくる。
「ふ、あ……」
 自分がそうなったときとは違う、気持ちよさがあって、兄貴が出してる間、また口から声が漏れてしまった。俺の体の中ぜんぶ、兄貴でいっぱいだ。
 しばらく、兄貴は俺の上で動かず、肩を大きく揺らして、呼吸を整えている。
 俺も深呼吸を繰り返す。動き回ってる訳じゃないのに、兄貴とこうしていると、心臓は早く打つし、汗だらけになるし、不思議だ。
 兄貴が一度、大きく息を吸って、長く吐き出した。お腹いっぱいになった時みたいな満足したため息だった。
「――抜くな」
「……うん」
 本当はもうちょっと、このままがいいな、っていっつも思う。兄貴に申し訳ないから言わないけど。いつか、勇気が出たときに言ってみようかな。
 ぬるりと兄貴のが俺の中から出ていく。また少し体がぞくぞくする。こんな風にあったくなった後は、変に過敏になっちゃって、何でもないことに体が震えてしまう。
 疲れて、あんまり動けない俺の体を兄貴が拭いてくれるときも、むずむずするときがあって、我慢するのが大変だ。
 今日も、体を拭かれている最中に、またおちんちんがちょっと痛くなってしまった。なんとか堪え切ったから良かった。兄貴がそことか、お尻を丁寧に拭いてくれるとそうなってしまうから、自分で拭きたいんだけど、兄貴の手は優しくて、甘やかされてるみたいだから、どうしても我慢する方を選んでしまう。
 体を拭いてくれた兄貴は、使っていた布をどこかに放り投げて、俺の横に寝っ転がった。
 うーんと言いながら伸びをしたかと思うと、抱き寄せられて、髪の毛を撫でられる。
「……兄貴」
「ん?」
「おれ、あったかくなった?」
 毛布くらいにはあったかくなってるといいんだけどなあと思いながら訊いてみる。
「ああ」
「よかった。じゃあ、兄貴、もう寒くないね」
 兄貴は背中を丸めて、俺の肩あたりに顔をくっつけた。
「お前は、いっつもあったけえよ」
 いっつも俺があったかいなら、別にこんな風にあったかくしなくてもいいんじゃないかな。ちょっと思った。でも、いいや。兄貴がそうしたいなら、それが一番いいことなんだ。
「そういや、シモン」
 兄貴が思い出したように言った。
「なんか、ここの穴、広くなってねえか?」
 ――あ。
 俺は嬉しいのと恥ずかしいのとでいっぱいになって、言葉が出てこなくなる。
 兄貴、気がついてたんだ。気がついてくれたんだ。
「もしかして、もしかするとな……俺が、しょっちゅう来るから、広くしてくれたのか?」
 ああ、ばれちゃった。
 俺は兄貴の腕の中で出来る限り、体を小さくした。
「なあ、シモン。そうなのか?」
 うん、なんて、照れくさくて言えない。なのに、兄貴はちょんちょんと俺の肩をつつく。
「おい、返事しろよ。起きてんだろうが」
 優しく揺さぶられても、俺は黙っている。
「こら」
 ふにふにほっぺたをつままれても、こしょこしょくすぐられても、やっぱり、言えない。
 兄貴はため息をついた。怒ったかなと心配になった瞬間、抱きしめられた。
 真剣な声で囁かれる。
「――穴、広くしたんなら、俺は、また来るぞ。ずっと来るからな」
 来てよ、とはやっぱり言えなくて、返事の代わりに兄貴にぎゅっと抱きついた。
 また来て。いつでも来て、一緒に眠ってね。俺、兄貴のこといっぱいあったかくするから。



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