背中に加わる微かな体重。
振り返らなくても、誰の仕業かわかる。
時々、こうして彼の背中に甘えにくるのは……背格好が彼女の父と似ているからだろうか。
「ん」
背中合わせにもたれかかり、用もないのに呼び掛けられる。
「なにか、御用ですか?」
答えがわかっているのに、そう聞き返す。
ここは書斎。
以前から書斎に顔を出す事はあったが、現在は彼女の目当ての父はいない。
つまり、彼女がここに顔を出す理由は何もないのだ。
返事のかわりに、背中でもぞもぞと動く。
どうやら首を振って答えているようだった。
「エルルゥ殿の作ってくれた、茶菓子がありますよ」
机に置かれたままになっている、手付かずのお皿を差し出す。
「ん〜」と答えつつも、皿に手が伸びてくる気配はない。
カミュがオンカミヤムカイに帰り、ユズハが眠っているこの時間。
ひとり遊びに飽きたか、疲れたかするとここにやって来ては……ただ何をするでもなく、背中をぴったりとくっつけて、大人しく座っている。
「ん」
大人しく……と思っていると、また話し掛けられる。
「はい?」
返事を返すも、会話は続かない。
答えが返ってくるのが嬉しいのだろう。
時々そんな無意味な問答をくり返す。
そして、いつの間にか少女は眠りに落ちている。