砂が、掌からこぼれ落ちるように。

大切なものが、かけがえの無いものが、消えていく……。

大好きな祖母も、たくさんの兄姉たちも。そして、故郷さえも……。


ずっと一緒にいると約束してくれた、二人目の父も自分の元を去ってしまった。

二人の親友も、今や銀髪の少女を残すのみ。


いずれは、たった一人の肉親である姉も、家族も去ってしまうのか……。

それとも。

去るのは自分だろうか――


* * *


不意に、目を覚ます。

珍しく、ぐっしょりと寝汗を掻いていた。

目尻からは、月光に輝く雫。

「ん……。夢、か…」

安心したような、疲れたような声音で呟く。

少し癖のある、艶やかな黒髪が、微かな風に揺れていた。


「お目覚めですね」

寝起きの少女の傍らで、団扇を手にした青年が、囁くような優しい声を発した。


「夢、見てた……」

中空に虚ろな視線を向け、独り言のように呟く。

「…どんな夢でした?」

「ん…。よく、覚えてない…。
 でも、悲しい夢。みんな、どこかへ行っちゃう…」

「そうですか…」

要領を得ない、少女の呟き。しかし、青年は聞き返す事はしない。

ただゆっくりと、少女に風を送り続ける。



「――貴女を、独りになどさせませんよ……」

「……」

半刻ほどの沈黙の後、今度は青年が呟く。

「姉君も、私達も…。
 そしてあの方も、必ずお還りになります」

「……ん」

そっと、少女の髪に手を触れ、梳く。

汗で細かい束になった髪を、少しずつほぐしてゆく。



「……す〜。……す〜」

程無く、少女が規則的な寝息を立て始めると、青年は団扇を仰ぐ手を止め、
少女の髪からそっと手を離した。

「……」

安らかな寝顔を覗き込み、目を覚まさないことを確認すると、静かに立ち上がる。



「おやすみなさい。今度は良い夢を……」