オリジナルキャラ紹介

 

ユキノ:
 オンカミヤムカイからやって来た、ウルトリィ付きの女中さん(要するにメイド)です。
 カミュと同い年で、ミコトに近い種族らしいです。オンカミリュー族ではありません。
 ぷにっとしたほっぺで、アルルゥと同じような体形をしています。背も同じくらい。
 髪は栗色で、瞳は緑。
 シンプルなメイド服に身を包み、ベレー帽のような白い帽子を被っています。
 ちなみに、「〜ですの」としゃべりますが、某すばるとは関係ありません。モデルでもないです(笑) 


 太陽がとうに中天を過ぎ、しかし山の端に沈むのにはまだ時間を要する、そんな時間。

 

 ぴこ ぴこ ぴこ ぴこ…

 ぱた ぱた ぱた ぱた…

 トゥスクル皇城通路に、いつものより幾分元気の無い足音?を響かせるアルルゥ。
 その隣に、こちらもいつもより羽音に元気の無いカミュ。

「う〜、オナカすいた……」

「うん、もうペコペコだね……」

「ん」

 今日も今日とて、つまみ食いを企むふたりである。

 

 不思議なことに、朝昼晩と規則正しく食事を(しかもお腹いっぱい)摂っているにも関わらず、この時間には必ず小腹が減るのだ。

 エルルゥなどは欠食児童たちに目くじらを立てながらも、いつもそれに首を傾げていた。
 もっとも、家族の半分を占めるその盗み食い犯たちに言わせれば、

『減らないほうがおかしい(よ・ぜ・ですわ)』

 といったところらしい。

 

 そんなふたりが厨房の前に差し掛かったとき、

『正義ぃとはぁ〜♪ 宇宙さえも恐れぬぅ〜♪
 心にだけ〜♪ 宿るぅものなんだぁ〜♪
 勇気ぃとはぁ〜♪ 星よぉりも――』

 中から、えらく調子の良い歌声が聴こえてきた。

「……なにかきこえる」

「うん。何だろ?」

 そっと厨房の中を窺うふたり。すると、かちゃかちゃと食器を用意している人影があった。

「あ、ユキっち」

「ホントだ」

 

 アルルゥとどっこいの小柄な身体に、メイド服。

 先日トゥスクルにやって来た、ユキノであった。

 ユキノは、厨房の入り口にふたりが立っているのにも付かず、楽しそうにお茶の準備をしているようである。

『――胸をはって、立ちまわれぇ〜♪ 海はいつも、見つめてるぅ〜♪
 おまえの〜真実ぅ〜♪ 嗚呼――』

「ユキっち!」

「うにゅう!?」

 がしゃん!

 突然掛けられた声に驚き、ユキノは手を滑らせて陶器をひとつ落としてしまった。

「あちゃ〜、やってしまいましたの……」

「ア、アルちゃん。急に大声出しちゃダメだよ〜」

「う〜」

「あ、カミュちゃんとアルちゃんだったの」

 

 しゃがみこんで破片を集めようとしたところで、ユキノはふたりだと気付いた。

「うん。ゴメンねユキノちゃん、邪魔しちゃって」

「ユキっち、何してた?」

「あ、今ね。ウルトリィ様にお茶を淹れて差し上げようと思って」

 にっこりと微笑みながら答えるその口調は、この國に来たばかりの時とは少し変わっていた。

 

 特徴的な「ですの」という語尾は、元々は彼女なりの敬語であった。
 しかし、友達と話すのに敬語は必要ない。

 そのため、カミュとアルルゥが相手の時だけは普通に話そうと、ユキノが口調を矯正することを思い立ったのである。

 もっとも、十年近くも変わらなかった口調が急に変わるわけも無く、たびたび「ですの」が顔を出してしまうのだが。

 

「お茶? エル姉様に教わったの?」

「エルルゥさん? ううん、違うよ。あたし、メイドだもん。
 これでも、お茶を淹れるの得意なんだよ♪」

「ん〜、なんかいいニオイ……」

 アルルゥが卓の上の茶葉の入った壺を覗き込むようにして、鼻をふんふんとさせている。

 それを見たユキノがくすくすと笑いながら、

「うん、オンカミヤムカイから持ってきたんだよ。
 アルちゃんも飲む? カミュちゃんも」

「へ〜、紅茶だね。久しぶりだなぁ」

 カミュは目を閉じて、その懐かしい香りを楽しんだ。

 

「さ、お湯も沸いたみたいだし、お部屋に行こ? ウルトリィ様もきっとお待ちになってるから。
 お菓子もあるよ。お腹、すいてるんでしょ?」

「え? なんで分かったの?」

「ウルトリィ様がね、このくらいの時間になると皆がつまみ食いをしに来るんじゃないかって」

「……ヒドイなぁ、お姉様ってば」

 口の先をとがらせて、ほっぺも膨らませるカミュ。

 その脳裏には、口元に手をやって楽しそうに笑う姉の姿が浮かんでいた。

 

 

 

 

 場所をウルトリィ達の部屋へと移し、午後のおやつを楽しむ四人。

 

 ある時、それまで黙々とお菓子を口に詰め込んでいたアルルゥが不意に口を開いた。

「ユキっち」

「なあに、アルちゃん?」

「その“めーど服”着たい」

「え、コレ?」

「ん」

「別に良いけど。でも、なんでみんなメイド服を着たがるのかなぁ」

 小首を傾げて、不思議そうな顔をするユキノ。

 

 彼女にとっては、メイド服は女中の制服であり普段着でもある。

 もちろん嫌いではないのだが、そんなに羨ましがられる物とも思えない。

「え? みんなって?」

「元々、あたしがこの國に来たのって、ウルトリィ様が――」

「ユキノ!!」

 その時、それまで優雅に紅茶の香りを楽しんでいたウルトリィが鋭い声を上げた。

「ど、どうかされましたの……? 姫さま?」

「いきなりどしたの、お姉様……?」

「?」

 

 突然の声にびっくりする三人。

 しかしウルトリィはそんな三人の反応など意に介せず、ユキノの首根っこをまるで猫の子にでもするように摘むと、そのまま部屋の隅まで連れて行った。

(あのね、ユキノ。この間見たことは内緒にしておくって言ってたでしょ……?)

 ひそひそと猫撫で声で話しかけるウルトリィ。
 
(え? そうでしたっけ……?)

(『あたし何も見てませんの』って言ってましたよね?)

(そ、そう言えばそうでしたの……)

(だから、話がそちらへ向かうようなことは言わないで。ね?)

 にこにことした顔で念を押す。しかし、ユキノはその笑顔に背筋が寒くなるのを止められなかった。

 もし言ったら、一体どうなるのだろうか……。

(は、ハイですの。気を付けますの……)

 だから、引きつった笑顔でそう答えるのが精一杯であった。

 

「一体なんだったの? ユキノちゃん」

「な、なんでもないですの。ちょっとお仕事のお話をしてただけですの」

 胸の前ではたはたと両の掌を振り、必死で誤魔化そうとする。

「なんか、また『ですの』が戻ってるんだけど……」

「うにゅ!? な、なんでもないですの…よ(汗)。
 あ! アルちゃん。メイド服着たいんだよ、ね?
 じゃあ、取り替えっこしようかぁ!」

「ん♪」

「なんかヘンだなぁ……。あからさまに話を逸らそうとしてるし……」

 

 怪しむカミュを後に残し、ユキノはアルルゥの背を押してそそくさと部屋を出て行った。

 

 

 

 

 ぴこぴこぴこぴこぴこ!

 

 ユキノと服を交換したアルルゥは上機嫌でハクオロの書斎に向かい、

「おと〜さん♪」

 と入り口から顔だけを出して呼びかけた。

 丁度小休止を入れていたのか、書斎の中には伸びをするハクオロだけがおり、ベナウィの姿は見あたらなかった。

 

「おお、アルルゥか。どうしたんだ?」

「ユキっちに、めーど服借りた。似合う?」

 そう言いながら、ぴょんっと全身を現す。

「うおっ!?」

 

 それを見たハクオロは、思わず妙な声を上げてしまう。

 ユキノから借りたというメイド服は、丈もアルルゥにぴったりだった。
 背が低いため、どうしても上目遣いになってしまうその表情。
 柔らかそうな二の腕をあらわにした短い袖。
 活動的な短めのスカートと長めの白いタイツの間に覗く太ももが、小悪魔的な魅力を発している。
 そして、スカートの裾から垂れている、ふさふさとした尻尾……。

 

(くっ! これは……。この前のウルトとは、また違った魅力が……。

 

 あぁ……。あのスカートの下は、どうなっているのだろーか――

 

 

 

 

 ――は!? いかん、いかんですよ……。私はあくまでアルルゥの父親であって――)

 

「ん?」

「い、いや。なかなか似合うぞ。可愛いじゃない、か」

 内心の動揺を押し隠し、父としての褒め言葉を口にするハクオロだが、その目はふるふると揺れる可愛い尻尾に釘付けである。

 頭の中では、イケナイ衝動を抑えるのに必死な天使ハクオロくんと、『汝の成したいように成すが良い』と誘う悪魔ハクオロくんが激しい戦いを繰り広げていた。

「んふ〜♪」

 しかしアルルゥがそんな父親の葛藤に気付くわけもなく、いつものように膝の上に甘えてきた。両腕をハクオロの首に絡め、ほっぺを首筋にスリスリと擦りつける。

(うあ……。なんか……もうどうでもよくなりそーな気が――)

 

 悪魔ハクオロくんが勝利し、人の道を踏み外しそうになった正にその時――

「ハ・ク・オ・ロ・さん?!」

「いぃっ!? エ、エルルゥ?」

 部屋の入り口には、般若のような形相をしたエルルゥが仁王立ちしていた。

 気のせいか、その額には以前自分が被っていた仮面のような角が生えているようにも見える。

 それを見た瞬間、悪魔も天使もハクオロの頭の中から尻尾を巻いて逃走してしまった。

 

「ユキノちゃんとナニをしてるんですかッ!?」

「なっ、ユキノ!?」

 確かにアルルゥはユキノとほとんど変わらない背格好だし、メイド服を着て背を向けているのだから、見間違えるのも無理は無い。

「ま、待てエルルゥ! この娘はアルルゥだ! 誤解だ!」

「……え? アルルゥ、ですか?」

 エルルゥがハクオロの膝の上の人物の顔を覗き込もうとすると、アルルゥは姉の顔をチラッと見やり、まるで見せ付けるかのようにハクオロの左頬に「ん〜〜〜♪」と可愛い唇を寄せたりする。

 それを見たエルルゥは、顔を俯けてプルプルと肩を震わせだした。

「だから、な? 別に構わないだろうエルル――」

「ちっとも良くありませ〜〜〜ん!!!」

 

 だっ!!

 身の危険を感じたアルルゥは、獣の素早さでその場を逃げ出した。

 その背後からは彼女の父親が、いつぞやの仮面兵のような「あ゛〜〜〜!!」という断末魔の叫びを上げていたが。

 とりあえずは気にしないでおいた。

 

 

 

「アルルゥ様。皇女ともあろうお方が、一体何を着ていらっしゃるのですか……」

 ぴこぴことしばらく走ったところで、正面からベナウィがやって来た。

 アルルゥのメイド服姿を見て、呆れたように深々と溜息を吐く。

 

「ユキっちと交換した」

 何故か、その場でクルッと回るアルルゥ。

「似合わない?」

「そんなことは申しておりません。
 しかし、メイド服は女中の服です。
 聖上やエルルゥ殿ががそれを御覧になったら――」

「おと〜さん、喜んでくれた」

 

 ベナウィの説教が始まりそうだと気付き、すかさずその言葉を遮る。

 実際、ハクオロは喜んでいたわけだし、嘘は吐いていない。

「ほう。しかし、そんな聖上を御覧になったエルルゥ殿はお怒りではありませんでしたか?」

「う」

 

 いつも通りの展開で、アルルゥの逃げ道はすぐに回り込まれた。

 

『どうしてこの人はいつも、見て来たかのように分かるのだろう?』

 そう言いたげなアルルゥに、ベナウィは微笑みかける。

 

「すぐに分かりますよ、他ならぬ貴女のことですからね。言い訳をなさっても無駄です」

「……」

「さあ、アルルゥ様。着せ替えごっこはそのくらいにして、いつもの服に御召し替え下さい」

「…つまらない」

 

 ほっぺを膨らませてそっぽを向き、しゃがみこんで膝を抱えるアルルゥ。

 尻尾の先が『たし! たし!』と床を叩いている。

 

 拗ねてしまった小さなメイドさんを見て、ベナウィは苦笑を浮かべた。

(やれやれ。確かにとってもお似合いではあるのですけどね……)

 口の中でそう呟く。

 すると、アルルゥの耳がぴくぴくっと動いた。

「……?」

 ゆっくりと振り向き、不思議そうな顔でベナウィの顔を見上げるが、彼の表情に大きな変化は見られない。

「さ、行きましょうアルルゥ様」

「……ん」

 ベナウィがそっと手を差し出すと、アルルゥは今度は素直に頷く。

 

 

 いつの間にか西日が差し込み始めた通路の壁には、侍大将と小さな皇女の影が、まるで寄り添うように映りこんでいた――。