オリジナルキャラ紹介

 

ユキノ:
 オンカミヤムカイからやって来た、ウルトリィ付きの女中さん(要するにメイド)です。
 カミュと同い年で、ミコトに近い種族らしいです。オンカミリュー族ではありません。
 ぷにっとしたほっぺで、アルルゥと同じような体形をしています。背も同じくらい。
 髪は栗色で、瞳は緑。
 シンプルなメイド服に身を包み、ベレー帽のような白い帽子を被っています。
 ちなみに、「〜ですの」としゃべりますが、某すばるとは関係ありません。モデルでもないです(笑)

アズリィル:
 某うたわれるものFANBBSでご一緒させていただいている、荒田 影さんのオリジナルキャラ。
 肩まで伸ばした金髪で、可愛い顔立ちをしたオンカミヤリュー族の女性です。……で良いですよね?(笑)
 ユキノの親友で、『メイド イン トゥスクル』シリーズの時間設定では、現在は國師になるための修行中。
 ちなみに、このお話ではユキノの回想にちょっと顔を出すだけの登場です(笑)
 荒田さん、ご了承いただきありがとうございました♪


 タタタタタ タッタッタ……

 トゥスクル城内通路に軽い足音が響き、やがてそれがゆっくりしたものへと変わる。

 「はう〜、まだドキドキしてますの……」

 足音の主がそう呟き、白い手袋をはめた手で胸を押さえる。
 彼女の名はユキノ。
 オンカミヤムカイからウルトリィに仕えるためにやって来た、メイドである。
 彼女の胸を高鳴らせている原因は、主たるそのウルトリィに関することであった。

「姫様と皇(オゥルォ)様が、あんな関係だったなんて……。
 あんな、あんな……。
 ああ〜ん、もう☆ あたし、困っちゃいますの〜♪」

 口ではそう言いながらも、ちっとも困っていない様子のユキノ。
 両の掌を頬にあて、身をくねらせる。

「姫さまがなかなか國にお帰りにならないのは、こういうことだったんですのね〜。
 こんな時アズちゃんがいれば、面白かったですのに……」

 國にいる、親友の顔を思い浮かべる。
 オンカミヤムカイにいた時は、このテの話の相手は“アズ”ことアズリィルだった。
 今は國師になるための研鑽を積んでいるであろう彼女だが、きっと盛り上がっただろう。
「それで、それで?! その後どうなったの?!」
 と両のコブシを握り締めて、こちらに続きを促す姿が目に浮かぶ。

「でもここにはアズちゃんはいないですし……。
 来たばっかりじゃ、お知り合いもいないですの……」

 話をしたくてもできず、「つまらないですの」とでも言いたげな顔で通路を歩いていく。

(あ、そう言えば……。ここにはあの方もいるはずですの――)

 不意に名前を思い出した、もう一人の知人の顔を思い浮かべようとしながら、何となく城の外へと足を向けたとき。

 

 ぽふ。

 

「はれ?」「ひゃう!?」

 突然、ユキノの目が柔らかいもので塞がれた。

「?」

 とりあえず、目を塞いでいた黒いかたまりを触ってみる。

 ふにふに。

「ひゃっ!!」

 ヘンな音を立てて、かたまりが急に遠ざかる。
 少し離れて見ると、なんとそれは女性の胸であったことが分かった。

「ご、ごめんなさいですの!あ、あたし、そんなつもりでは……」

 自分が何をしたかに気付き、ユキノはぺこぺこと頭を下げた。
 いくら女同士とはいえ、いきなり胸を揉むのは失礼なことこの上ない。

「ア、アハハ……。気にしなくて良いよ。ちょっとびっくりしたけど」

 その豊かな胸の双丘には幾分不釣り合いな、子供っぽさの残る声で相手の女性が答える。

「――――!」

 その声に聞き覚えのあったユキノは、そこで初めて顔を上げた。
 先ほど考えていた、“あの方”の声。

「カミュ様、ですの……?」

「……え? あ……。ユキノちゃん……」

 

 無言で向かい合うユキノとカミュ。旧知の間柄の二人。
 だが再会を喜ぶでも無く、二人の間を不自然な沈黙が流れる。
 それはしばらく続いたが、やがて先にカミュが口を開いた。

「久しぶりだね、ユキノちゃん……」

「ええ、本当にお久しぶりですの……」

 当たり障りのない会話。
 向かい合ってはいるが、その間視線がからむこともない。
 普段の明るい二人を知っている人間が見たら、不審に思っただろう。
 そのくらい、冷めたやりとりだった。

 しかし、オンカミヤムカイではこれが普通なのだ。
 始祖の血が色濃く現れているカミュと、仲良く振る舞おうという者は皆無と言って良い。
 オンカミヤリュー族でないユキノも、例外ではなかった。
 顔見知りではあるが、カミュ自身もそういう相手には心を開けないでいた。

「カミュち〜、どうしたの?」

 その時、カミュの背後からアルルゥが顔を出した。
 見知らぬ相手から隠れて、ずっとカミュの背後に隠れていた彼女だが、カミュのいつもとは違う様子に、不安げな表情を見せている。

「ううん、なんでもないよ」

「……」

 カミュは、アルルゥを安心させようと微笑んだが、無理をしているのは明らかだ。
 アルルゥはそんなカミュを見て顔をしかめ、キッとユキノを睨んだ。

「う〜、カミュち〜いじめちゃダメ!」

「え……?」

 アルルゥの強い視線を受け、狼狽するユキノ。

「あ、アルちゃん! 違うんだよ……」

 カミュは慌てて、そんなアルルゥを後ろから軽く抱きしめる。

「ちがう?」

「うん。カミュ、別にいじめられてたわけじゃないから。ね?」

「……ん」

 また微笑んで言うカミュに、今度はアルルゥも安心したようだった。
 今のカミュの微笑みは、優しい友達に向けた、心からのものだったから――

「……」

 そんな仲の良い二人を見て、ユキノは不思議な感じがした。
 カミュがこんな風に自然な笑顔を見せるなど、今までに無かった。

(今までに無かった…? ううん、違いますの。
 だって昔はカミュ様も、こうやって友達と笑っていましたもの……)

ユキノの意識が、十年近く昔の記憶へと遡って行く――

 

 

* * * 

 

 

 幼い頃、あたしとカミュ様は友達だった。
 オンカミヤムカイの姫とメイドの娘という身分の差はあったけど、そんな事はあたし達には関係なかった。
 同い年という気安さも手伝って、とても仲良く遊んでいた。

 でも、ある日から少しずつその関係に変化が訪れた。
 きっかけは、お城の文官から言われた言葉。

「なあ、ユキノちゃん。カミュ様とお話しするときは、もっと丁寧な言葉を使わなくちゃいけないよ?」

 そんな些細な言葉だった。彼も、軽い気持ちで言ったのだと思う。
 國に仕える者として、幼いとは言え姫君と対等の口を利くあたしにちょっとした注意をしただけだろう。

「どーして?」

 その時のあたしには、“ていねいな言葉”というものがよく分からなかった。
 ただ、「です」とか「ます」とかを使うのだとだけ、何となく分かった。

「カミュ様は、この國のお姫様なんだ。分かるかい?」

「うん」

「お姫様とお話しする時はね、おじさんみたいな大人でも丁寧な言葉を使わなくちゃいけないんだ。
 お姫様は偉い人だからね」

「……うん」

 それも何となく分かった。確かに、あたしと他の人とでは、カミュ様に対しての話し方が違っていたから。
 でもそれは、他の人はカミュ様と友達じゃないからだと思っていた。

「……あたしとカミュちゃんはお友だちだよ。それでもダメ?」

 恐る恐る訊いてみた。
 人の良いその文官は、あたしのそんな様子を見て、安心させるように微笑んで言った。

「そうだねぇ……。今は良いかもしれない。
 でも、君達が大人になったら、お友達でも言葉遣いは変えないとね。
 君達が大人になってもお友達なら、今から変えても良いんじゃないかな。
 それに、ちょっとだけ言葉遣いが変わっても、ユキノちゃんとカミュ様が仲良しなのは変わりないだろう?」

「……」

 彼に、他意は無かったと思う。
 でもなんとなく、“丁寧な言葉”を遣わなければ、カミュ様とお友達ではいられない、と言われているような気がした。

「……うん。……じゃなくて、えっと。
 はい、わかりました、ですの」

 だから、これからは丁寧な言葉を遣おう、と思った。
 それだけで、ずっとカミュ様のお友達でいられるなら。
 口から出た言葉は、幼い子供ならではの妙な語尾だったけど。

「ははは、ちょっとぎこちないが……。
 でも、早速実践するとは。偉いな、ユキノちゃんは」

 彼は、そう言って頭を撫でてくれた。
 褒めてくれたことよりも、カミュ様とお友達でいても良いんだよ、と許してくれたような気がして、とても嬉しかった。

 でも何故か、カミュ様はその日からいつもの笑顔を見せては下さらなくなった――。

 

 

* * * 

 

 

「――キノちゃん。ユキノちゃん?」

「は、はいですの」

 カミュが自分を呼ぶ声で、ユキノが追憶から戻って来る。
 目の前には、カミュとアルルゥ。ユキノの視線は自然と、二人が繋ぐ手に向けられた。

「……」

「どうかしたの、ユキノちゃん?」

「……仲の良いお二人を見て、ちょっと昔を思い出したんですの」

「昔……のこと……?」

「はいですの……。カミュ様、立ち話もなんですから、あそこに座りましょう」

 ユキノはそう言うと、広場にある一本の木の下を指差した。

 

* * * 

 

「――そう、だったんだ」

 木陰に座り、懐かしそうな顔でカミュはじっとユキノの話を聞いていた。
 目を閉じ、幼い頃に想いを馳せる。

「あの時は、悲しかったですの……。
 急にカミュ様がよそよそしくなって。
 あたしにはあの頃、他にお友達がいませんでしたもの……」

 でも、いまの自分にはアズリィルという親友がいて、カミュにも友達――アルちゃんと呼んでいた――がいる。
 だから、昔の思い出として話すことができたのだろう。

「そっか……。ゴメンね。
 そんなことがあったなんて、カミュちっとも知らなかった。
 ……でもね、ユキノちゃん知ってた? そのお話には続きがあるんだよ?」

「え?」

 

 

* * * 

 

 幼い頃、カミュとユキノちゃんは友達だった。
 ユキノちゃんは、カミュと普通に接してくれる、たった一人の友達。
 同い年という気安さも手伝って、とても仲良く遊んでいた。

 でも、ある日から急にユキノちゃんからの接し方が変わった。
 なんでなのか、カミュには全然分からなかった。

「カミュさま〜、遊びましょうですの〜♪」

 いつものように遊びに来たユキノちゃんの言葉は、何故かいつもとは違っていた。
 その時はただ、ヘンな言葉を遣うなぁ、とだけ思った。
 何かの遊びなのかな、とだけ。

「アハハ、なぁにユキノちゃん? ヘンなことば〜」

 カミュは笑いながらそう言ったけど、ユキノちゃんは笑わなかった。
 彼女はちょっと胸を張り、「えへん!」といったカンジでこう言った。

「カミュちゃん……さまは、このくにのお姫さまですの。
 だから、カミュちゃ…さまとお話しするときは、
 “ていねいな言葉”をつかうんですのよ?」

「え……」

 どうして、そんなことを言うのだろう。
 確かにカミュは、この國のお姫様。
 でも、カミュとユキノちゃんはお友達なんだよ?
 お友達は、敬語なんか遣わないよ……。

「……ねぇ、ユキノちゃん。そんなのやめようよ。
 お友だちはそんな言葉つかわないよ?
 いつもみたいに、カミュちゃんってよんでよ」

「ダメですの。
 大人になったら、ちゃんとていねいな言葉をつかうんですの。
 だから、今から変えても同じですの。
 それに、言葉が変わってもあたしたちはお友だちですの」

「……そう、なの?」

 ユキノちゃんはそう言ってくれたけど、カミュはどうも釈然としなかった。
 ちょっと言葉遣いが変わっただけなのに、何だかユキノちゃんが全然知らない人になってしまったみたいだった。

「さ、カミュさま! お外にでかけましょうですの〜♪」

「う、うん……」

 ユキノちゃんに手を引かれ、いつものように遊びに行った。
 でも、その日はちっとも楽しくなかった。
 ユキノちゃんの変な敬語を聞くたびに、カミュは悲しくなった。

 だからその日以来、だんだんユキノちゃんとは遊ばなくなっていった――。

 

 

* * * 

 

 

「――そう、でしたの……」

 カミュの話が終わって、しばらくの沈黙を挟んだ後。ユキノが俯きながらつぶやいた。
 その目には、涙が浮かんでいる。本当は、雫がこぼれないように上を向きたかったが、それ以上にくしゃくしゃになった顔を見せるわけにもいかず。
 太ももの上でぎゅっと結んだ手の甲に、ぽたぽたと涙が落ちる。

 あの些細な出来事がカミュを苦しめていたなんて、全く考えてもいなかった。
 カミュがよそよそしくなった原因は、自分だったのだ――。

 トゥスクルに来るまで、ずっと独りだったカミュ。
 同年代の女の子達を、遠くからただ眺めているだけの彼女を何度も見かけた――。

 それに比べ、自分にはアズリィルを始め、何人も友達がいた。
 なのに、あてつけがましくあんな話をしてしまった――。

 そんな罪の意識が、ユキノを深く苛んだ。

「カミュ様、ごめんなさいですの……。あたし、あたし――」

 顔を上げ、はらはらと落涙しながらカミュを見つめる。
 そんな彼女を、そっと抱きしめるカミュ。

「ううん、カミュのほうこそゴメンね……。
 ユキノちゃんは、ずっと友達でいようって思ってくれてたのに……」

 カミュの頬にも、一筋の雫が流れた。
 孤独だった、昔の自分を思い出して。
 そして、今の幸せな自分を嬉しく思って――

「カミュ様……」

「ユキノちゃん……」

 ちょっとしたすれ違いが、幼かったユキノとカミュの間に溝を作った。
 しかし二人の少女は、十年近くもの歳月を費やして、かつての友情を取り戻したのだった。

 そんな二人を、アルルゥが優しげに見守っていた――。