「あ・り・が……ありがとう?
 何のことだ?」

 手の平に綴られた意外な言葉に、クラトスは眉を寄せる。
 その不思議そうな表情をみて、コレットは小さく笑い、クラトスの手の平に続きを綴った。

「……いつも……ロイドを、助け……てくれて……?」

 声に出せない変わりに文字を綴る少女の姿は儚い。
 声を失い、眠りを失い、これから向う先で心を……人としての営み全てを手放そうとしている少女。
 『神子』という呪いにも似た運命を背負わされた、女神の器。

「……ロイドを守るのは当然だろう。
 私が守らねば、神子が守りに飛出すのだからな。
 私は金で雇われた傭兵。神子を守るのが仕事だ。
 ……その守るべき対象が、ロイドを守るために進んで危険を犯すのだ。
 ロイドを守ることは、神子を守ることに繋がる」

 憮然と眉を寄せたまま返すクラトスに、コレットは再び小さく笑う。
 そしてまた、文字を綴った。

「……嘘……?
 私は嘘など付いてはいないが?
 ……それも、嘘……?
 神子よ、何度も同じことを――――――」

 『同じことを言わせるな』と続けようとして、その言葉を遮るように綴られたコレットの言葉に、クラトスは口を閉ざす。

 『それ』をコレットが知っているはずはないのだ。
 知っているのは……自分と、亡き妻と、幼き日の息子。

 文字を綴り終ったのに、読み上げて確認をしないクラトスを、コレットは不思議そうに首を傾げながら見上げた。
 それからすぐに自分の発言を取り消す言葉を綴る。

「……そんなわけ、ない……ですよね。 か。
 そうだな……私がロイドの父親であるはずがない。
 神子の……思い過ごしだろう」

 普通に考えればあり得ない。
 ロイドとクラトスは、親子と呼ぶには歳が近すぎる。
 血のつながりがあると考えるのならば、せいぜい――――――歳の離れた兄弟だろう。

「……でも、クラトスさんが、ロイドのこと、すごく……大切に想ってくれてるのは、
 わたしの……思い過ごしじゃ……ない、ですよね?」

 幼馴染みの父親というには若すぎるクラトスに対し、変なことを云ってしまったと気恥ずかしいのだろう。
 コレットはほんのりと頬を染めて言葉を綴った。

「わたしが、天使に、なっても……
 この旅が、終っても……ロイドの、ことを……
 まも……守って、ください……?
 ――――――神子よ、私は金で雇われる傭兵。
 神子の旅が終れば、ロイド達と旅をする理由もなくなる」

 そもそも、神子を連れてデリス・カーラーンへ渡るのだ。
 いつまでもロイドのそばにはいられない。

 クラトスの答えにコレットは少しだけ残念そうに微笑んだ。

「……しかし、イセリアまでは送っていこう。
 マナの血族に再生の旅の報告をしなければならない。
 その後のことは、ロイドとジーニアスの問題だ」

 ロイドとジーニアスは村を追放されている。
 コレットの旅が終ったからといって、イセリアには帰れない。
 が、ジーニアスの姉であるリフィルは村を追放されていない。
 リフィルであれば、ふたりの事を村長に取りなすことも可能だろう。

「……それで良いか?」

 穏やかな鳶色の瞳に見下ろされ、コレットはこくりと頷いた。

ハイマ。救いの塔直前。
なんとなく、クラトスとコレット。
いや、いつかは義理の父と娘ですから(爆)
からめて書いても、バチはあたらないかなぁ……と(笑)

GC版発売当時、クラトスとロイドより少し年上。
コレットをめぐり、恋の鞘当ゲームをするのだろう……と思っていたのは秘密です(笑)

いや、全然情報調べてませんでしたし(爆)
実際には、ゲームプレイ1時間半ぐらいで、父親だと思っていたあたり……(苦笑)