「何故だ……何故勝てない?」

 開口一番、彼女はそう呟いた。
 髪と同じ漆黒の瞳に映っているのは、試験の結果発表。
 成績上位何名かの名がそこに書き出されている。

「でも、負けてもいないよ」

 頭上から聞こえた声に、アズリアは眉根をよせて振りかえった。
 そこに立っていたのは……予想どおりの人物。
 嫌味なほどに穏やかな微笑みを浮かべた、赤毛の青年。
 成績表において常に1番に名を連ねられる、自分のライバルとも言える男。

「勝たなければ意味がない」

 っと視線を成績表に戻すアズリアに、レックスは苦笑するしかなかった。
 どうやら彼女は負けるのが嫌なら、引き分けるのも嫌らしい。
 一方的にライバル視されている身としては、なんとも複雑な気分だった。

「だいたい、なんだって毎回同点なんだ。
 おまえも男なら、見事な点差で私に勝ってみろ!」

「全科目をお互いに満点とってる状態で……それは無理だよ」

「だったら性転換しろ。
 男というだけの理由で、私の上に毎回名前があるのは我慢できん」

「ああ、確かにアズリアの「ア」と、レックスの「レ」だったら……
 アズリアの方が上に見えるね」

 女性の身で軍人を目指すのは、まだまだ珍しい。
 当然、軍隊という性質上……同じ成績ならば男の名前の方が先に書かれる。
 じつにわかりやすい『男尊女卑』というものだろう。

 納得、納得……っと気の抜けた微笑みを浮かべるレックスに、アズリアは――――

「のほほ〜んと笑うなっ! 
 これで回目だぞっ!? おまえと引き分けるのは!」

 レックスの襟首を掴み、ガシガシと容赦なく揺すった。

「数えてたの?」

 アズリアの怒りに赤く染まった顔を見つめながら、レックスは――――

(わざと成績を落としても怒るんだろうな……)

 っとまだしばらく続きそうなアズリアとの衝突に、ため息半分。

 残る半分は……