「椅子の書?」
看護医療用機械人形が並べた6冊の色違いの本を手に取り、イスラは何気なしに見下ろす。少なくとも、重々しい紋章の描かれた表紙には……『椅子』は描かれていない。
「通販カタログかなにか?」
パラパラとページをめくり、古めかしい文字を目で追う。
「読めないよ」
見たこともない不思議な文字にイスラは眉間を軽く押さえ、古めかしい書物をクノンに手渡す。
「それは歴史書です」
淡々とした口調で、クノンが書物を受け取りながら説明する。
「ちなみに、通販カタログでも、『椅子』の歴史書でもありません。
『椅子』という古代王国の歴史書だと言われている……とても珍しい書物だと、
アイテムショップの店主が言っていました」
「このメガネをかければ、誰でも簡単に読めるようになるとか…」っと、ごそごそとポケットをあさり、クノンは奇妙な形の『メガネ』を取り出す。
感情は無いはずのクノンが、神妙な顔つきで『メガネ』と『椅子の書』とイスラを順番に見つめた。
療養生活中、今だ体力が回復しないため部屋から出れないイスラのために、クノンがどこかから用意してきてくれた本。
物が物だけに、内容が想像できない。
それでも、今読んでいる本よりは……期待できるかもしれない。
「気にいらないようでしたら……他にも
『デ・メタリカ』『キャプテン・トーマス最期の戦い』
『疾風のラヴィン』『孝子の手紙3』…………」
っと、いったいどこから取り出すのか、次々と不可思議なタイトルの本をイスラの前に積み上げる。
そのあまりの冊数に…イスラは手に持った本に視線を落とす。
「とりあえず、あとページだから……
この『恋する乙女は片手で竜をも殺す』を読んでしまうよ」
年頃の少女向けの恋愛小説ではあるが……謎の書物(の山)よりは、いくらかマシだろう。
「そうですか」と何故か残念そうに書物を片付けはじめたクノンに、イスラは苦笑を浮かべた。