「笑いたければ、笑えばいいだろう」
地面に座りこんで呼吸を整えながら、アズリアはレックスを睨みつけた。
勝負に負けた今となっては……それは負け犬の遠吠え意外の何者でもなかったが。
「笑うだなんて、そんなコト……」
どうにか神妙な顔を作ろうと努力しているのか、レックスの頬は時々ぴくぴくと動く。
そしてそれがアズリアの逆鱗に触れた。
「すごく可愛いかっ……」
のうのうと語るレックスの頭上に―――――――――――
ガンっ
「慰めの言葉など、欲しくはないっ!」
アズリアが握り締めているのはサモンマテリアルの召還石。
どうやら手近に投げるものがなかったため、レックスの言葉をさえぎるのにわざわざ召還術を使ったらしい。
(本当に可愛かったんだけどなぁ……)
―――――金ダライの直撃を受けたレックスは頭を押さえつつ、苦笑するしかなかった。
きっかけはとても些細な事。
最近はずっと、弟の事で沈んだ表情をしているアズリア。
体でも動かせば気もまぎれるだろう、とレックスから珍しく勝負を挑んだ。
剣の勝負かと思い、快諾したアズリアにレックスが挑んだのは―――――島の子供達に大人気の『あっぱれ!ハッスル蓮JAMP!』
「馬鹿にしているのか!?」と最初は激怒したアズリアだったが、最後にはレックスになだめられ承諾した。
レックスより体重の軽いアズリア。
その勝負は一見アズリアに有利に見えるが。
(あんなに可愛い姿、そうそう見れるものじゃないし)
はじめての不安定な足場に戸惑ったアズリア。
その顔は普段の凛とした雰囲気を一掃し、歳よりも幼く見える無防備なもので――――
「でも、ほら……一応、新記録だったよ?」
「秒、という偉大な新記録だったがなっ」
すっと細められるアズリアの黒い瞳に、レックスは頭上を仰ぎ見―――るまでもなく、鉄アレイの祝福を食らった。
その後、レックスにリベンジを誓ったアズリアと子供達が非常に仲良くなったとか。