彼の印象を人に聞けば、きっと皆がみな『いつも笑っている』と答えるだろう。
 そんな印象を与える程、彼は常に微笑んでいた。

 子供たちにまとわりつかれ、あちこち引っ張り回される時の苦笑。
 島の住人に頼み事をされ、快諾する時の微笑。
 本心を隠すために浮かべる、寂し気な微笑みだってある。

 とにかく、どんな時でも彼が笑顔を絶やすことはなかった。

 その彼が。

 現在は大変不機嫌そうな顔をして、これまた笑顔を絶やさぬことで有名かもしれない赤毛の青年を睨んでいた。




「……………」

 じっとレックスを見つめて、何か言いたそうに口を開き……結局なにも言わずにまた口を閉ざす。

「……………」

 この沈黙が恐かった。
 恐かったが……同時に少しだけ嬉しくもある。
 いつもは笑顔の仮面を付けたイスラが、今自分の目の前で本心を晒しているのだ。
 それはある意味で、とても良い事だと思う。

 ――――――むけられた感情が、たとえ『怒り』であろうとも。

「……それで」

「え?」

 たっぷりと間を置いてから、やっと一言。

「それで、どうして、今、僕は、ずぶ濡れなんですか?」

 一言ひとこと区切り、はっきりと告げられる言葉。
 口調こそかわらず丁寧ではあったが……そこに込められた感情は容易に感じ取れる。

「……え〜っと…」

「…………」

「……ごめんなさい」

 剣呑な光を宿した黒い瞳に射すくめられ、レックスは素直に頭を下げた。

■□ 余談 □■
これでいいかな? っと終わらせましたが…短文につき、イスラが怒ってる理由かかれてない(爆)
まあ、そのうち…そちらも形にしますです、ハイ。