「死なないで、死なないで…」
まるで呪文のように繰り返し、『残酷』な言葉を囁く幼い姉の声。
小さな手が、同じく小さな手の温もりを繋ぎとめようと懸命にこすり合わされる。
「許さないから。こんな事、許さないから…」
冷たい頬に、子供特有のやや高い体温の手が触れる。
ぽっ…ぽっ…と間隔をあけて、熱い雫が頬をぬらした。
また泣かせてしまった。
誰かの負担にしかならない自分が嫌で。
いっそ楽になりたいと、『薬』を飲んだのに……
温もりを与えようと、こすり続けられる手をそっと握り返す。
うっすらと目を開くと、少年には不似合いな大きなベッドに座り、覗きこむようにして姉が泣いていた。
「あ…ぅ…イス…ラ」
視線が合い、安心したように不器用な微笑みを浮かべる少女。
不思議だった。
己を死を願わない日はないのに。
それでも今こうして、自分の生を喜んでくれる人がいるのなら。
『生きたい』と心から願った。
まだ身体の中で『薬』が暴れている。
それでも涙をこぼす姉を安心させるように、弟は微笑んだ。