あまりの眩しさに、イスラは夢から覚めた。

 そのままの姿勢でうっすらと目を開け、空を見上げる。
 雲ひとつない晴天。
 覚醒したばかりの頭で現状を確認。
 木陰で木に寄り掛かり、気持ち良く眠っていたはずなのだが……太陽の位置が変わったせいで、今まで眠っていた場所は日向になっていた。

 木陰に逃げ込み、もう少し休息を……と体を起こそうとして、ソレに気がつく。
 体が妙に重い。
 体…というよりも、左肩と下腹部。それから右手が温かい。
 ゆっくりと視線をめぐらし、納得する。
 左肩を枕にスバルが眠り、右手を枕にパナシェが眠っている。そしてお腹の上にはマルルゥ。

 いつもの3人組が、みなイスラを枕に眠っていたのだ。

 これでは、さすがに重いはず。

(困ったな…)

 身動きが取れず、苦笑をもらす。
 いったい、いつの間にこんな情況になったのか。
 枕にするために身体に触れた時もそうだが、3人が近付いて来る気配にまったく気がつかなかった。

 油断…と言うよりは、安心かもしれない。
 この3人とは、よく行動を共にしている。
 認める事は出来ないが、心の深いところで『信頼』しているのだろう。
 自然と警戒を解いてしまったらしい。

(そういえば、良く眠れた気もする……)

 昔は眠るのが怖かったのに。

 この島に来てから、確実に自分は変わっている。

 陽の光を浴び、森林を抜ける風を受け、大地のぬくもりを感じ、自分の足で好きな場所を散策する日々。
 小さな喜びを分かち合う、これまた小さな友人たち。

 あまりにささやかすぎて、普通なら見逃してしまいそうな――――――――幸せ。





「わきゃっ」

 お腹の上で小さな悲鳴が聞こえた。

「あやや? 雨ですか?」

 頭上を襲った突然の雫に、マルルゥは慌てて体を起こし……すぐに雨の匂いがしないことに気がついた。

「どうかした?」

 突然飛び起きて、不思議そうに首を傾けているマルルゥ。
 イスラでなくとも、気になるはずだ。
 その証拠に、スバルが小さく声をもらし、パナシェの耳が揺れた。

 声をかけられて、顔を上げたマルルゥが大きく目を開き…
「どうしたですかー!?」と、勢いよくイスラの顔に張りついた。

「ニコニコさん、どこか痛いですか? 怖い夢でも見たですか??」

 イスラはぺたぺたと頬に触れる、マルルゥの言葉が理解できなかった。

「どこも痛くないし、夢なんかみなかったよ」

「本当ですか? 本当に、本当ですか? 無理してないですか?」

「本当に、本当だよ」

 念をおすように言葉を区切って答えるイスラに、マルルゥはますます不思議そうな顔をする。

「じゃあ、なんで泣いているですか?」

「…僕が、泣いている?」

「はいですぅ」

 マルルゥに指摘され、初めて自分の頬に触れた。
 白い指先に触れたのは…熱い雫。
 確かにそれが、頬を伝い落ちている。

「本当だ。僕、泣いているね。どうしてだろう…」

「うぅ〜ニコニコさんにもわからないですか…」

 何故涙が溢れているのか、イスラには本当にわからなかった。
 ただ心配そうに顔を覗きこむマルルゥを安心させるように、微笑もうと唇の端に力を入れる。

 いつも見せる綺麗な微笑みとは違う、どこかぎこちない微笑み。




 それはぎこちないゆえに伝わる、イスラの本当の微笑みだった。