「私に脅しは効きません」

きゅっと唇を引き締め、少女はブルートパーズの瞳を見つめる。
それからふわりと微笑み、薔薇色の唇に指を当てた。

「私を止めたかったら、貴方が私を殺してください」

むっと不機嫌そうに眉を寄せる王子に、少女は『無理ですよね?』っと赤い舌を覗かせる。

少女は知っていた。

『人間嫌いのシルフソード』

その異名を持つ王子は、本当は他のどの宝玉よりも『人間を愛している』ことを。
だからこそ、こんなことが言えるのだ。

「貴方に私は殺せない」

少しだけ自嘲気味に微笑み、少女は王子の瞳から視線を落とした。
落とした先には、手に握られた一対のイヤリング。
王子の瞳と同じ色。
何者にも染まらぬ澄んだ風の色の宝玉。

「貴方は人間を……私を、愛してくれているから」

だから王子には、彼女を殺すことができない。

だからこそ、彼女は自分を殺すことで彼を生かすことができる。