「ひい、ふう……みい……8つ?」
可愛らしくラッピングされたお菓子の包みを数えて、ジャスティーンは首をひねった。
どう数えても、計算が合わない。
「あたしがケイドさんにもらったんだから……1つは確実にあたしのだとして……」
他7つは誰に渡したものか。
ジャスティーンとそう歳の変わらないシャトーとダリィの数は、当然含まれているだろう。度々この城を訪れるケイド・ダリネードにとっては……ヴィラーネの元に留まり、魔術の修行を積む2人は娘のような存在かもしれない。
残るは5つ。
ジャスティーンの知る限り、かなり限定された数だが……はたしてあの宝玉達がお菓子をもらって喜ぶものか。それ以前に、可愛らしいハロウィンのお菓子はあまりにも似合わない―――――――ある意味ではとても似合っているが。
外見的年齢だけなら、スノゥあたりは喜びそうなイメージがあるが……それでも素直に喜ぶかは謎だったし、そもそも宝玉は物を食べるのだろうか。
それ以前に、宝玉たちにお菓子を渡したとしても、1つ余る。
さて、どうしたものか? とお菓子の包みを見つめていると、軽くノックをする音が聞こえた。
「……どうぞ」
返事をするも、来訪者はドアを開く気配を見せない。
「シャトー?」
来訪者のあたりをつけ、名前を呼んでみるが……答えはない。
どうやら、あの金髪の少女ではないらしい。
少し考えて…他にノックをしそうな人物が思い浮かばなかった。
宝玉の王子であるレンドリア達は、ジャスティーンの都合におかまいなく神出鬼没だし、ダリィはいつでも飛びこんでくる。もう1人だけノックをしそうな人物はいたが……そもそもハロウィンだからといって、ジャスティーンを嫌っている叔母が、わざわざお菓子を渡すために部屋を訪れるとは思えない。
それでは本当に誰だろうか?
ジャスティーンは立ちあがり、来訪者のためにドアを開けた。
「とりっく、おあ、とりーと!」
ドアを開けると、カボチャをくりぬいて作られたお面をかぶった子供が立っていた。
10歳前後だろうか、身長は……少しスノゥよりも高い。
中身は少年だろう。
聞き覚えはない声だったが、やや高めのそれは少年特有のものだ。
予期しなかった少年の来訪に、ジャスティーンは目を丸くして驚いた。
およそジャスティーンの知る常識とはかけ離れた、魔術師ばかりのこの城で。
まさかこのように……『普通』の子供を見かけることになろうとは。
「え〜っと……」
おもわず反応に困り、固まってしまったジャスティーンに、カボチャのオバケはもう一度。
「お菓子をくれなきゃ、いたづらしちゃいますよ?」
ふんわりとした丁寧な言葉で、でも少しだけ悪戯っぽく言いなおすカボチャのオバケ。
その子供らしい仕草に、ジャスティーンは我にかえり、お菓子を探す―――――と、行き先の定まらぬケイド・ダリネードがくれたお菓子の包みが目に入った。
「はい、お菓子」
カボチャのお面をかぶった少年の手にお菓子の包みを乗せながら、目線を合わせるようにジャスティーンは腰を落とした。
くりぬかれたカボチャの穴から、少年の黒い髪と、同じ色の瞳が見える。
色から察するに…彼も親戚かなにかだろうか?
こんなに小さな親戚がいるなんて話しは聞いたことが無かったが……ふんわりとした雰囲気をまとった少年はたいへん可愛らしい。
この少年のような親戚ならば、大歓迎だった。
「ありがとうございます」
ぺこりとお辞儀をするカボチャのオバケ。
頭をさげた拍子に、ころんっとお面がまわり、少年の視界はなくなった。
「…ととっ」
わたわたと手を振り、お面を元の位置に戻そうとする少年。
「なにやってるんだ?」
ふらりと姿を現したレンドリアが、ジャスティーンに声をかけつつ、ようやく視界を取り戻した少年のお面を再びまわす。視界を再び奪われた少年は、それに怒る事もなく、ただ「レンドリア?」と首を傾げた。
「レンドリアも、やっぱり来たんだね」
「あ?」
もう一度お面の位置を直す少年と目が合い――――――レンドリアは固まった。
彼にしては珍しく、素で驚いているようだった。
呆然と目を見開き、ぱくぱくと口を開いているが、声にはなっていない。
「先生たちもくればよかったのに」
「美味しそうなお菓子ももらえたしね」と、お菓子を見つめてから残念そうに呟いて、再びジャスティーンに顔を向けた。
「お姉さん、お菓子をありがとう」
にっこりと微笑んだ少年の顔に、ジャスティーンは見覚えがあった。
何故気づかなかったのだろう。
よくよく観察してみれば、少年の持つ雰囲気は紛れもなく―――――――