地面に敷かれた毛布の上に座り、クレアは落ち着きなく視線を彷徨わせる。気恥ずかしさを誤魔化すように、毛布の毛を爪で引っ掻いた。
 結局。
 その気になったイグニスが、コトに及ぼうとクレアを押し倒したまでは良かったのだが――雨降りの深夜。ようやく見つけて飛び込み、火を起したばかりの洞の地面は、当たり前の事だが冷たかった。
 背中で感じた冷気にクレアが悲鳴をあげると、それならばとイグニスは毛布を取り出した。
 雨避けの外套とクレア本人、着る間のなかった服と荷物袋に守られた毛布は、湿ることなく暖かかった。
 これは良い物を見つけた、と早速地面に敷き、クレアの身体を横たえて――乾いた毛布は濡れた肌着の水分を吸いはじめ、湿り気を帯びてしまった。
 すぐさま気がついて毛布から降りたため、我慢できない程湿ることはなかったが。
 二度にわたって出鼻を挫かれ、即行為に及ぶ気はお互いに殺がれてしまった。
 雰囲気も何もかがどこかへと吹き飛び、開き直った二人は互いに全裸となり、濡れた服を乾かすために火の周囲へと服を並べる。羞恥はあるが、これからする事を思えば些細なことだ。それよりも、どうせ服を脱ぐのなら、その時間を利用して乾かした方が良いに決まっている。
 周囲へと巡らせていた視線をイグニスに向けて、クレアはすぐに俯く。早く乾くようにと、工夫して服を並べるイグニスの引き締まった尻が見えた。旅の途中で上半身の裸体は何度か見かける事もあったが、さすがに下半身を見るのは初めてだ。
異性の裸という意味でも初めてだった。
 着替えはおろか湯浴みですら侍女に手伝われていたクレアは、同性に肌を見られることに抵抗は薄い。けれど、それが異性。それも相手が恋人となれば、さしものクレアも気恥ずかしくなった。
 クレアは両手で胸を掻き抱くように隠し、足をぴったりと閉じて、毛布の上で大人しくイグニスを待つ。
 服を並べ終えたイグニスは、毛布の上で自分を待つクレアを振り返る。
 視界の隅でこれまでと違う動きを見せたイグニスにつられ、クレアが思わず顔を上げると、ぶらりと揺れる自分にはついていないモノが目に入ってしまった。
 これ以上はないのではないかというほど頬を赤く染めて、クレアは俯く。

(あ、あれがイグニスの!? クロードの持っていた本と、形が違う!)

 視界に入ったのは一瞬のはずであったが、存外しっかり観察してしまった自分に自己嫌悪しながらクレアは忙しく思考する。乳母の説明とも、艶本の図解とも違うと困惑していると、クレアと背中合わせにイグニスが腰を下ろした。
 かすかに感じる背中の温もりに、クレアは緊張して背筋を伸ばす。

「……姫様」

「はいっ!」

 緊張から強張ったクレアの背中に、イグニスが戸惑う気配が伝わってきた。

「その、やはり、今夜は止めますか……?」

 離宮に閉じ込められて大切に育てられた姫君が、追っ手から逃れるために飛び込んだ洞の中で初夜を迎えるなどと、さすがにクレアが不憫でもある。
 全裸で緊張から身を縮ませて震えるクレアは艶めかしくも可愛らしいが、ここはやはり年長者であるイグニスが一歩引いて行為を中止するべきだろう。
 止めると言い出したイグニスに、背中で感じるクレアの身体から緊張が抜けていくのがわかった。
 やはりまだ早いのだと諦めかけると――ふわりとイグニスの首にクレアの両手が回された。
 ついでに、背中には柔らかい二つの感触もある。

「イグニスのお嫁さんになりたい!」

 どこまでも自分に甘く、優しいイグニスが焦れったくも嬉しかった。
 クレアが緊張をするのは、初めてだからだ。場所に不満があるとか、イグニスが怖いわけではない。
 クレアが甘えるようにイグニスの頬に擦り寄ると、振り返った瑠璃色の瞳と目が合う。

「姫……」

「イグニスは、わたしがお嫁さんじゃ嫌?」

「とんでもありません。ずっと……姫を、あなたを……」

 初めて姫以外の呼び方を口にしたイグニスに、クレアもまた初めて自分から唇を寄せた。

「クレアって、呼んで」

 そっと重ねられた愛しい娘の唇に、イグニスは騎士の仮面を脱ぎ捨てた。






 そっと腰へと回されたイグニスの腕に、クレアは身を任せる。そのまま抱き寄せられ、誘われるままに膝の上へと腰を下ろした。二度目の口付けにクレアはうっとりと瞳を閉じ、口内へと侵入してきたイグニスの舌に反射的に目を見開く。
 驚くほど近くに端整な顔立ちがあった。
 下唇を舐め、歯茎を探り、上顎をノックするイグニスの舌の動きに戸惑いはしたが、絡められた舌に、クレアは瞳を閉じておずおずと応える。
 これが乳母の持ってきた恋愛小説に載っていた、大人の口付けなのだ。
 口内を弄られ、なんとも言えぬ甘い痺れが背筋を駆け下りる。
 クレアの身体から緊張が抜けていくと感じ取ると、イグニスは行動を開始した。
 チュッと音をたてて唇を離すと、イグニスはクレアの腰を抱き寄せ、頭に手を添える。そのまま頭をぶつけないよう慎重に毛布の上へとクレアの身体を横たえた。
 イグニスの視界には、毛布にふわりと黒髪を広げ、熱に侵されたように潤んだ瞳で見上げてくる全裸の乙女。
 クレアの視界には、逞しい胸板と太い鎖骨、肩から伸びる褐色の腕をした、騎士の仮面を取り去った男。

「……やっぱり、少し恥かしい」

「そうですね。でも、可愛いですよ」

 ずっと側にいたはずなのに、これまでに見たことのない角度でお互いの姿を見つめ、クレアは恥じらい、イグニスは素直な称賛を口にした。
 額へと落とされたイグニスの唇に夢見心地で微笑み、唇へと降りてきた唇に応える。そのまま小鳥が啄ばむような口付けを繰り返し、唇を吸い上げたり、舌を絡めたりとお互いの味を確認した。
 閨での夫の喜ばせ方として知識は教えられたが、実践は初めてのクレアはイグニスを真似て愛撫を返す。
 頬に口付けられれば、イグニスの頬に。
 耳たぶを甘噛みされれば、イグニスの耳たぶに甘噛みをして返した。

「ひあっ」

 耳の付け根への執拗な口付けのあとに耳の穴をペロリと舐められ、これまでにない動きにクレアは虚をつかれて声をあげる。

「どうしました?」

「……なんでもない」

 首筋を通ってうなじへと這う舌に、クレアはくすぐったくてたまらず、身じろぐ。その動きに合わせて揺れた双丘に、イグニスは手を伸ばした。

「あ……」

 壊れ物を扱うようにそっと添えられたイグニスの大きな手に、クレアは知らず緊張して身を硬くする。
 イグニスの手に程よく収まる双丘は、しっとりと柔らかいくせに、張りと弾力がある。
 湯浴みの中で侍女が触れることはあったかもしれないが、男では自分が初めて触れたのだと思えば、イグニスの欲棒が鎌首をもたげた。
 パン生地を捏ねるように胸を玩ばれ、クレアは身をよじる。気恥ずかしさを誤魔化すように、唇を尖らせた。

「……くすぐったいわ」

「それだけですか?」

 拗ねて見せるクレアに口付けを落としてから、イグニスは青い瞳を覗き込む。イグニスの手のひらには、柔らかい感触とは別に独特の硬さをもった物があった。
 ほんのりと硬く、ツンっと立ちはじめている朱鷺色の蕾をクレアに示すように、イグニスは双丘を左右から持ち上げる。そうすると毛布の上に横たわっているクレアにも、寄せて上げられたことで強調された自分の胸の変化が見て取れた。

「ひゃあ!」

 クレアが自分の体の変化を見てとったと知ると、イグニスは朱鷺色の蕾を口に含む。ほのかに甘い蕾を口の中で転がすと、クレアの唇から初々しい囀(さえず)りがもれた。

「あ、やん……」

 意識せずとも口からもれる声に恥じらい、クレアは口を押さえる。それでも蕾を弄ばれるたびに唇からもれるくぐもった声に、蕾に吸い付いていたイグニスが顔を上げた。

「姫?」

 訝しげな顔をした恋人に、呼びかけられたクレアは小さく首を振る。
 なんでもないと伝えたかったのだが、イグニスにはクレアの内心などお見通しだったらしい。苦笑を浮かべると、胸への触れ方を変えてきた。

「気持ち良かったら、恥かしがらずに教えてください。そこを重点的に可愛がらせていただきますから」

「……意地悪。それより、クレアよ。姫って呼んじゃ嫌」

 先の提案がまったく活かされていないイグニスに、クレアは不満を募らせる。ムッと眉を寄せるクレアに、そんな仕草も愛らしいとイグニスは思うのだが、長年使っていた呼び方を、すぐに変えることは難しかった。

「……そう、ですね。ひ……クレア」

 僅かに戸惑いながらも要求どおりの呼び方をしたイグニスに、クレアは笑みを覗かせる。
 簡単に機嫌を直した姫君に、イグニスはもう一度口付けた後、蕾への攻撃を再開した。
 両手でクレアの身体を支え持ち、イグニスは艶かしく手を動かして反応の良い場所を探す。脇や背筋を丹念に撫で回すと、クレアは腰の窪みで一際強い反応を示した。
 どうやらここが感じるらしい。
 クレアの感じる場所を見つけ、嬉しくなったイグニスは全身を撫で回す。手のひらの拘束から開放され、揺れる双丘へは舌を伸ばした。白と朱鷺色の境界線に円を描くように舌を這わせ、触れて欲しい、吸って欲しいと自己主張をしはじめた蕾には意図的に触れない。
 全身をまさぐるように愛撫するくせに、胸の蕾にだけは触れないイグニスに、クレアは焦れて太ももを擦り合わせる。その奥が――異性の前では最も秘すべき場所と教えられた場所が――ほんのりと熱を持ちはじめた気がした。

「あ……んあ、はあっ……」

 イグニスに次々と暴かれる自分の敏感なところに、クレアは言われるまま素直に甘いため息をもらす。大きな声がもれた場所は、宣言どおりにイグニスが丁寧な愛撫を加えた。そのせいでクレアの太ももは小刻みに震え続ける。奥が疼くが、どうして欲しいのか、クレアにはまだ解らなかった。

「んあ!」

 長く放っておかれた朱鷺色の蕾に突然吸い付かれ、クレアの背筋はピンっと伸びる。
 従順なクレアの反応に満足し、イグニスは張りのある臀部を撫で回していた手を下腹部へとおろし――薄い茂みへと感じた気配に、蕩けかけていたクレアの意識は急速に現実へと引き戻された。


「いやっ!?」


 自分の口からもれた拒絶の言葉に、クレアは瞬く。下腹部に感じたイグニスの手に、忘れかけていた恐怖を思いだし、腰を引いてしまった。
 拒絶の声をあげたクレアに、イグニスは手を止める。いったいどうしたのか、と顔を上げれば、恍惚としていたはずのクレアの瞳には、怯えの色が浮かんでいた。

「……大丈夫ですか?」

 カルバンがクレアにした事は、乳母から報告という形で聞いている。同じ場所を触れられそうになり、思いだしてしまったのだろうと、すぐに見当はついた。

「やはり、今夜は……」

 止めますかと提案しようとしたのだが、とうのクレアは小さく頭を振る。

「大丈夫よ。イグニスだもの。……お父様じゃ、ないもの……」

 じっとイグニスの顔を見つめ、クレアは深呼吸を繰り返す。自分の上で覗き込んでいるのはイグニスであって、カルバンではない。
 恐れる必要はないのだ。
 見るからに痩せ我慢とわかるクレアに、イグニスは口付ける。
 クレアは自分に触れているのはイグニスだと確認するように、自分に言い聞かせるように、瞳を開いたまま口付けを受け入れた。
 青と瑠璃の視線が混ざり合い、唇に吸い付き、先よりもなお丁寧に舌を絡めとり、口内を犯すイグニスに、クレアの震えも少しずつ収まる。
 もぞり、と下腹部に気配を感じたが、今度は平気だ。――まったく平気ではないが、目の前にはイグニスがいる。自分が恐れる必要など、なにもないはずだとクレアは腹に力を入れた。
 慎重な手つきで花弁の中心を撫でられ、クレアはびくりと震える。けれど、震えたのはその一瞬だけだ。あいも変わらず目の前にある瑠璃の瞳に安堵し、クレアの花弁も緊張をほぐす。
 すでにしとどに蜜を湛える花弁に、イグニスは喜んで指を滑らせる。痛がらせぬよう、怖がらせぬようにと控えめな動きではあったが、逆にそれが焦らしとなってクレアの芯を攻め立てた。花弁の奥から湧き出る蜜に指を絡め、強弱をつけて擦り続ける。
 以前父親が触れた時とはまるで違う感覚に、クレアは心の底から安堵して瞳を閉じた。
 瞳を閉じて再び身を任せはじめたクレアの唇から、イグニスは唇を離す。クレアの反応と共に揺れる白い膨らみを揉みしだき、いまやしっかりと存在を主張している朱鷺色の蕾に吸いついた。

「あ、あんっ!」

 再度もれはじめたクレアの嬌声に、イグニスもホッと胸を撫で下ろす。さすがにここまで来てしまっては、行為を中断することはイグニスにとって苦痛だった。クレアがひそかに『形が違う』と驚いたモノも、今はすっかり教科書どおりの姿をしている。はちきれんばかりの興奮を示すように天に向かってそそり立つ欲棒は、長年の劣情を吐き出す瞬間を今か今かと待ち構えていた。

「口付けてもいいですか?」

「うん?」

 一瞬意味が解らず、青い瞳を丸く見開いたクレアに、イグニスは頭を移動させた。
 興奮から擦り合わされているが閉じられたままだったクレアの太ももを持ち上げ、左右に大きく開く。ぱっくりと太ももは開かれたが、花弁はしっかりと口を閉ざしたままだった。蜜だけがいつでも男を受け入れられるように滴っているのが対照的で、淫らな眺めだ。

「あ、あの……」

 ここまでされてしまえば、クレアにも「口付けていいですか?」と聞かれた意味がわかる。というよりも、どこに唇を落とされるのか、がわかった。
 秘めるべき場所を大きく開かれ、躊躇うことなく顔を沈めたイグニスに、クレアは身をよじって逃げようとしたが、すぐに花弁を這いはじめた舌に嬌声をあげさせられてしまった。

「ひゃあん!」

 ぺちゃぺちゃとわざと音を立てて舐め上げるイグニスの頭に、クレアは制止しようと手を伸ばす。ところが、クレアの意識とは裏腹に、もっととねだるように両手はイグニスの頭を押さえつけた。

「だ、だめ。そこ、汚い……」

「さっき宿屋で湯浴みをしましたよね? 洗わなかったんですか?」

「洗ったけど、……恥かしい」

 せめて言葉でだけでも抵抗を、と足掻いてはみたが、イグニスには「可愛いですよ」と一言で片付けられてしまった。
 そうこうしている間にも、花弁からは淫猥な水音が響く。制止ではなく興奮から暴れる太ももを押さえるように抱きしめ、イグニスは丁寧にクレアの花弁を舐めあげた。
 カルバンに先を越されたことは腹立たしいが、あの時のクレアとは明らかに反応が違う。
 カルバンによる恐怖の記憶を上書きするように、イグニスは執拗なまでの愛撫を花弁に繰り返した。
 一方クレアもやはり、ソコへと舌を這わせるイグニスに父親を思いだしていた。ともすれば今にも甦りそうになる悪夢に、クレアは太ももの間で揺れる銀髪を見て、それがイグニスであると確認する。カルバンも銀髪といえば銀髪だったが、あれはただの白髪だ。イグニスの髪のような輝きはない。そもそも、脳天だけが見事に禿げ上がっていた父親は、同じ角度で見下ろしたとしても髪など見えない。

(わたし、すごく……いやらしい子?)

 秘めるべき場所を舌で掻き混ぜられ、恥かしくて目を逸らしたいのに、情欲をそそる淫靡な眺めに目を逸らせないでいる。
 艶かしく時折覗くイグニスの赤い舌と、淫らに響く水音に、開放されたままの胸の蕾が寂しく疼く。

(たしか、自分でする方法も……?)

 試しにイグニスがしたように蕾をつまんでみたが、彼が触れた時のような甘い痺れは走らなかった。
 触り方が悪いのだろうか、とクレアは少しだけ大胆に揉みしだいてみたが、やはり何も感じない。

「……すみません。寂しかったですか? ご自分でされる姿も、いやらしくて魅力的ですよ」

 頭上でなにやら違う動きをはじめたクレアに気がつき、イグニスは顔を上げる。自分で自分に愛撫を加えるなどという痴態を見られ、クレアは羞恥を誤魔化すように声を荒げた。

「こ、これは……イグニスが悪いのっ!」

 ばつが悪いながらも胸から手を離し、クレアはイグニスを睨みつける。

「イグニスがそこばっかり触るから……だから……」

「これは、失礼しました」

 恥じらいながらも自分を責めるクレアに微笑み、イグニスは姫君の要求に応えるべく白い双丘へと手を伸ばす。花弁を舌で、朱鷺色の蕾は人差し指と中指に挟み、それぞれに違う動きを持って愛撫を再開した。

「あ、や、変! やんっ!」

 花弁に口付け、溺れるように舐めまわし、蜜のついた指に蕾を練り上げるように捏ね繰り回されてクレアは身をよじる。敏感な場所から同時に広がる甘い痺れに、じっとしてはいられなかった。
 先よりも強く感じるむず痒さにクレアは腰を浮かせる。花びらの奥からそっと姿を見せた肉芽に、イグニスは待っていましたとばかりに吸い付いた。

「ああっ!」

 一段と大きな嬌声をあげた後、弓のように背筋を仰け反らせたクレアの身体から力が抜ける。弛緩していく身体で、一部分だけが波打っていた。
 とろりと溶けたクレアの顔を覗き込み、その頬へと唇を落とす。

「姫さ、……クレア、そろそろ……よろしいですか?」

「ん。……わたしを……」

 お嫁さんにして、と囁こうとして思いだす。たしか教科書によれば、結合の前に何か言わなければいけなかったはずだ。
慣れないながらも自分を名前で呼ぼうと努力する男に応えたくて、クレアは記憶を探る。

「姫様?」

「えっと、……あの、ね?」

 もごもごと小さな声で呟くクレアに、イグニスはつい『姫様』と呼びかける。すぐに訂正を入れろと姫君が拗ねないのは、何か別のことに気を取られているからだ。

「その……」

 何度か口ごもった後、どうにか決心がついたのか、クレアは自分の太ももを抱き寄せると、花弁に手を添える。そのまま指で花弁を大きく開き、教科書どおりの台詞を口にした。

「……わ、ワタシのいやらしいおま○こに、あなたのぶっといチ○コを――」

「どこで覚えてきたんですか、そんな言葉」

 箱入り娘どころか入り子人形並に幾重にも守られ、大切に育てられた姫君の意外な語呂に衝撃を受け、イグニスはまじまじとクレアの顔を見つめた。
 見つめられたクレアはというと、恥かしさを我慢して言った台詞によって態度が硬化したイグニスに、何か間違ったのだろうか? と不安で逃げ出したくてたまらない。

「えっと、違った? クロードの持っていた本じゃあ、こう言っていたのだけど……?」

 いったい弟はどんな本を持っていたのか。否、自分にも心当たりはあるが。
 クレアの間違った知識の入手先が自分の弟にあると知り、イグニスはこめかみを押さえる。早急に、クレアの勘違いは正さねばならない。

「あの手の本は使用を目的に書かれているので、男を煽るような言葉が書かれているだけです。実際にそんな事を言う女性は……」

 と続けて考えた。イグニスがこれまで相手にしてきた女は、みな金で体を開く娼婦である。
 仕事として男に抱かれる彼女達は、当然客が喜ぶよう趣向を凝らして迎える。
 つまり、イグニスが世話になってきた娼婦もまた、男を煽るための台詞を普通に使っていた。

「……娼婦には居ますが、普通の娘は言いません。姫様は娼婦ではないのですから、やめてください。むしろ、実際に可愛い恋人に言われると……、なんと言いますか……」

 萎える。
 男のイグニスには一番しっくりくる表現だったが、女であるクレアには通じない。
 どう説明すればいいだろうかと悩んでいると、困惑するイグニスの顔を覗き込んだクレアが、自分が間違ったのだと一人で悟った。

「えっと、ごめんなさい」

「……はい」

 開いた花弁から手を離し、足を閉じる。しゅんっと俯くと、気を取り直したイグニスが頬に唇を落としてくれた。

「それでは、続きを――」

 閉じられた足を開こうと、膝に手をかけられたクレアは思いだす。教科書から得た台詞は間違いだと教えられたが、イグニスの嗜好として人から教えられた物なら間違いはないだろう。

「あ、待って」

「今度はなんですか?」

 清らかな姫君から衝撃の言葉をもらった騎士は、ほんの少しだけ嫌な予感がした。が、可愛いクレアが一生懸命考えてのこと、と話も聞かずに却下することもできない。

「えっと、……どうぞ」

 くるりと背を向け、毛布の上に両膝と両腕をついたクレアは、臀部を高々とイグニスに突き出す。はっきり言わなくとも、菊座と花弁がまる見えだ。さっきまでとはまた違った意味で扇情的な眺めに、イグニスは絶句した。

「……姫?」

 今度はいったい何処で、何からそんな姿勢を覚えてきたのか。
 その疑問は、すぐに解消された。

「だって、セシリアが……イグニスは後ろから入れるのが好きだって……!」

 後ろからって、この姿勢でしょ? とクレアは首を傾げる。クロードの持っていた本は信用してはいけないらしいが、乳母の持ってきた恋愛小説ならば間違いはないだろう。乳母の持ってきた本の中に、後ろから結合するシーンがあり、獣のように四つん這いになっていたはずだ。

「何をどこまでセシリアに聞いたんですか?」

 イグニスは尻を突き上げたままのクレアを抱き寄せ、膝の上に座らせる。コトを成す前に、色々確認をしておいた方が良さそうだった。
 すっぽりとイグニスの腕の中に納まったクレアは、また何か間違ったらしいと気づいて肩を竦める。

「イグニスが買う子はみんな黒髪で、いつも後ろからしていた、ってこと?」

 素直に答えたクレアに、イグニスは深くため息をはく。
 油断していた。
 逃避行の準備に、と僅かな時間とはいえセシリアにクレアを預けたのがまずかった。自分の性癖として色街に広まっている事を、そのままクレアの耳へと吹き込まれている。

「後ろからいれていたのは、そうすれば相手の顔が見えないからですよ」

「うん?」

 イグニスの胸に抱かれたままクレアが顔を上げると、額に唇が落とされた。
 顔が見えない方がいいのなら、やはり後ろを向くべきだろうかと考えると、イグニスはクレアの両足を抱き寄せて毛布の上へと横たえる。言っている事とやっている事が違うではないか、と毛布に髪を広げたクレアが不思議に思うと、もう一度イグニスの唇が落とされた。

「愛しています、姫」

 花弁に異質な硬さを持つ熱を押し当てながら囁かれた言葉に、クレアははにかんで微笑む。

「クレア、よ」

 何度目かの訂正をいれると、髪を撫でられた。

「私はクレアとはお互いの顔を見ながら、愛し合いたい」

 言葉の中に遠まわしではあったが何事か大切なことが隠されているとわかった。けれど、今のクレアにはそれが理解できない。ただ、一番単純なことだけはわかった。
 イグニスは、自分と繋がりたいと言っているのだ。クレアとて、それを望んでいる。

「……はい」

 花弁に感じる熱に、心臓が止まるのではないかというほど緊張したが、クレアは頷く。
 恥かしくて逃げ出したいが、受け入れたくて疼いてもいる。
 少しずつ花弁を押し広げる熱い肉杭に、クレアの心とは対照的に、体はイグニスを拒むように強張る。
 入り口へと押し入る肉杭に、クレアは小さな悲鳴を上げた。

「い! つぅ……」

 痛みを誤魔化すように毛布掴む。皺になるが、気にする必要は無い。
 乙女の体内に侵入しながら、イグニスはクレアの体に覆いかぶさる。処女の強烈な抵抗に耐えながら、毛布を掴んでいるクレアの指を解いて自分の首に回させた。
 痛みに耐えるクレアは、イグニスの背中に爪を立てる。
 イグニスにしてみれば、背中に爪を立てられるぐらいの痛み、現在自分の腕の中でクレアが感じている痛みに比べればなんのことはない。

「大丈夫ですか? ひ、……クレア?」

「き、きつぅ……い、し、痛い、わ」

 文字通り、体を裂かれる痛みに耐えながら、クレアは深呼吸を繰り返す。力を抜けば楽になると乳母に教わったが、上手くできなかった。
 ゆっくりと時間をかけて自身をクレアの体内に沈め、イグニスは気遣わしげに汗で額に張り付いた黒髪を払う。

「全部入りましたよ」

 意識は朦朧としているが、クレアはイグニスの言葉にこくりと頷いた。
 クレアからしてみれば、熱い肉杭に縫いとめられたかのように身動きが取れない。ジンジンと痛む下腹部の中心に杭か鉤爪でも入れられたような気分だ。杭もクレア自身も熱を帯びていて、きつく苦しいという圧迫感はあるのに、どこからどこまでが自分とイグニスなのか、その境界線すらわからない。

「動いていいでしょうか? それとも、もう少し休みますか?」

 気遣って頬を撫でるイグニスに、クレアは淡く微笑む。

「まだ、少し痛い。けど……平気よ」

 女性であれば誰もが経験する痛みだ。自分ばかり痛いから嫌だなどと言ってはいられない。
 クレアの反応を確認しながらの挿入出がはじまり、イグニスの背に回していた腕を下ろす。毛布を掴んで身を地に繋がないと、イグニスが腰を引く度にクレアの腰も引かれてしまった。処女の硬さが抜けないクレアの花弁は、十分に潤っていても円滑な挿入出を拒む。押し入る度に蜜を溢れさせるが、痛みとは違うモノをクレアが見つけるまでには少々時間がかかった。
 イグニスが根気強く挿入出を繰り返すと、やがてクレアの唇から甘い吐息がもれはじめる。

「は、ああぁ……、あん、ふあ」

 律動にあわせて聞こえる声に、イグニスは少しだけ速度を上げた。滑らかな挿入出が可能になりはじめた狭い洞穴に、イグニスの理性も溶かされる。

「あ、ああっ」

 速度にあわせて変化を見せるクレアの声に、もう痛苦の色は無い。
 イグニスが更に速度を速めて腰を打ち付けると、クレアが眉を顰めて訴えた。

「イグニス、背中。背中、痛い……」

 柔らかい寝台と比べれば硬すぎる地面を背に、クレアは悲鳴をあげた。イグニスの腰の動きが早まると同時に、背中への衝撃も強くなる。ついに耐え切れなくなって訴えれば、イグニスはクレアと繋がったまま体を抱き上げた。
 クレアの訴えを受けたイグニスは、膝立ちの姿勢になり、その膝にクレアを乗せる。
 これならば、地面との接点はイグニスだけだ。腰と足に負荷はかかるが、イグニスにしてみればクレアの体重などなんのことはない。軽いものだ。
 自分の腰の上に跨ることとなったクレアの尻を両手で掴み、持ち上げる。中へ進入する時は、クレアの自重に任せた。
 より深く、強く花弁を突き上げる肉杭と、そこから波のように押し寄せる快楽に、クレアは髪を振り乱して声をあげる。

「あ、あ、ああっ! イグニス、イグニスぅ」

 自らもためらいながら腰を振りはじめた姫君に、イグニスは強めに尻肉を揉み捏ねる。こうすると花弁も押し開かれるように刺激されるため、ますますクレアの声は大きくなった。

「やぁ、なにこれ? 気持ちいい。気持ちいいの」

 ズンズンと身体の最奥を突き上げられる快感に、クレアはうわ言のように繰り返す。結合部から淫らな水音が響いていたが、その音さえもクレアの中の興奮を煽った。

「クレア、クレア」

 やっと一つになることが出来た、愛しい姫君。
 もっと気持ち良くしてあげたくて、イグニスはクレアの感じる場所を探す。
 クレアの片方の太ももを抱き寄せ、横から突き上げる。角度の変わった突き上げにクレアはよがり狂い、花弁はもっともっとと蜜を垂らす。まるで涎のように太ももを伝う蜜に、それすらも愛撫のように捕らえてクレアは震えた。
 もっとないか、まだないかと反応が良い場所を探すうちに、くるくると姿勢を変えられて、クレアは最初にしたように四つん這いになった。最初と違うところがあるとしたら、体力のつきかけたクレアが肩を落としているぐらいだろう。臀部だけを突き上げたより情欲を煽る姿に、イグニスの興奮も高まった。
 毛布の上で丸くつぶれる双丘を揉みこむようにクレアの上体を持ち上げる。

「い、イグニス、もう、わたし……!」

 切なげに訴えて振り返ったクレアの唇に、イグニスは舌を絡めて答えた。

「はい。私も、そろそろ限界です」

 指の間に蕾を挟みながら双丘全体を揉みしだき、勢い良く最奥へと腰を突き上げて、イグニスはクレアの体内へと己を放つ。
 敏感な部分を三箇所どころか四箇所同時に攻め立てられたクレアは、初めてだというのに盛大に意識を手放した。



 体は酷く疲れ果てているというのに、クレアの最奥だけはどくどくと波打つ。まるでそこだけ別の生き物にでもなったようだった。
 先にソレを感じた時にはわからなかったが、今なら解る。
 これはイグニスの放った精を奥へ、奥へと運んでいるのだ。
 彼の新しい家族を迎えるために。
 背中に覆いかぶさるイグニスの体温を感じて、クレアは幸せに包まれた。
 柔らかい寝台がなくとも。
 甘い菓子などなくとも。
 イグニスさえ側にいてくれれば、自分はいつでもどこでも幸福でいられる。
 それだけで、十分だった。

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